あの日、あの場所、君に出逢えた奇跡

ゆずは

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プロローグ

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 その女性は色とりどりに咲き誇る花の中に座っていた。生まれたばかりの赤子をその腕に抱いて。

「可愛い子」

 優しい柔らかな白い手が、何度も何度も赤子の頭をなでていく。

 白い手の持ち主―――母親は、我が子を慈しむように言葉を重ね、翡翠色の瞳から涙を流した。

 ぽたり、と、透明な雫が赤子の頬に落ちる。

「リュー……。ごめんなさい。私がちゃんと生んであげれなかったから…。私が弱かったから、貴方にこんなに酷いことを」

 赤子は、じ…っと母親を見つめる。
 その瞳は、アメジストのような綺麗な紫色を呈している。

 母親が赤子の目元を撫でると、ふわっと微笑むような笑顔を母親に向けた。

「リュー………」

 その笑顔を見て、母親もかすかに微笑む。

「可愛い私のリュー…。愛しい私の子」

 母親の美しい金色の髪を、暖かな風が撫でていく。

「お願いします…どうか、この子を」


 ―――ぽたり ぽたり


「幸せで……ありますように」



 ―――ぽたり ぽたり ぽたり



「リュー……生まれてきてくれてありがとう。抱かせてくれてありがとう」




 ―――ぽたり ぽたり ぽたり ぽたり




「貴方が大きくなるまで…見守りたかった」





 ―――ぽたり ぽたり ぽたり ぽたり ぽたり





 涙を流すたびに、母親の翡翠の瞳からは光が消えていく。

「リュー………」

 赤子を抱いたまま、母親の身体は花畑の中に沈んでいく。
 赤子はただただその光景をアメジストの瞳に映している。泣き叫ぶこともなく、ただ、穏やかに。

「リュー―――……」

 涙を流したまま、母親は息を引き取った。





 その日。
 この屋敷では奇跡と不幸が起きた。

 死産だったはずの赤子は息を吹き返し、母親は花畑の中で息絶えた。屋敷の住人が母親を見つけたとき、母親の腕の中にいたはずの赤子は、青色の花束にすり替っていた。

 どれほど探しても赤子は見つからない。

 連れ去られた形跡はなく、何一つ手がかりはないまま、やがて、忘れられていく。




 ―――リューに残された日々が幸せでありますように。




 最後の母親の祈りは、誰にも聞かれることはなかった。

 その場に咲き誇る花々以外には―――


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