あの日、あの場所、君に出逢えた奇跡

ゆずは

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あの日、あの場所

1 出逢い

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 失敗、した。
 頭上に、白い輝きを放つ満月。
 夜中だというのに周囲は明るく感じる。

 不思議と、痛みも何も感じなかった。
 ただ、身体が全く動かないだけで。

 生きてるだけでも…幸運なのか?

 視界の中に自分が落ちたらしい崖の影が映り込む。
 あんなところから落ちて命がある。

 まだ目を動かすことはできた。
 白い月明かりの下、自分は青い花の群生地の中に倒れているのだとわかった。
 柔らかな土と花が、衝撃を和らげたのか。
 ……だが、満月の月明かりが白く輝いているからと言って、これほどまでに花の色も形も、くっきりと視認できるものだろうか。

 ああ……。むしろ、俺は死んだのかもしれない。
 この光景はあまりにも美しく、儚く、現実味がない。
 最後に、女神に与えられた安らぎなのか。
 それならば、痛みが何一つないことも頷ける。

 既に死んだわけではないにしろ、もう直死ぬのだろう。
 この森に追い詰めていた賊は、仲間の騎士たちがどうにかしただろう。
 いくら森の中で、明かりは月の輝きだけだったと言っても、まさか足を滑らせ崖から転落するなんて。

 日が昇れば、いずれ捜索隊が森に入るだろう。その時に俺を見つけてくれるはずだ。

 自由気ままな生活をしていた俺だが、家族は皆温かく見守っていてくれた。
 爵位は弟が継ぐことが決まっている。すでに子もいるから、伯爵家の存続には何一つ問題はない。
 弟は俺と違いしっかり家のことを考えているから。俺のようにのらりくらりと自分に与えられる責務から、逃れるようなことはしない。

 無残な死骸となって帰宅することにならなくてよかった。前面はあまり傷ついていないだろう。……背部は、どうなっているかわからないが。
 これだけ綺麗な死骸であれば、きっと家族はすんなりと俺の死を受け入れるだろう。
 例え、最期まで親不孝者だったと、罵られたとしても。

 静かに目を閉じた。
 女神よ。
 今まであまり祈りも捧げないような俺が、今この時に祈ることを許してほしい。
 どうか、俺の家族たちが、あまり悲しまないように。俺のことなど、すぐに忘れてくれるように。

 願わずにはいられない。

 目尻から、一筋の涙が流れ落ちた。




「死ぬの?」




 意識が深みに嵌りそうになったとき、耳元で囁くような少年の声が響いた。
 驚き、瞳を開けると、目の前に少年がいて、俺を覗き込んでいる。

「死にたいの?」

 月の白い光を纏いながら金色に艶めく髪色をした少年だった。少し大きなアメジスト色の瞳が、じ…っと俺を見つめている。

「…………」

 声は出ない。
 彼は迎えなのか。
 羽根はない。天使ではない。
 では、命を刈り取る悪魔なのか。

 ――――いや、違う。

 彼は天使でも悪魔でもない。
 この花園に住まう精霊なのかもしれない。それほどに、現実味のない少年だった。

「ふうん…」

 少年は何かを納得し、徐に俺に向かって体をかがめてきた。

「っ」

 仰向けに倒れている俺の身体にのしかかり、なんの前触れもなく唇を重ねてくる。

「…うん」

 軽く触れたあと、少年は月の光を背負いながら、自らの唇を舐めた。
 妙に赤く色づく唇に釘付けになってしまう。

「いいね。気に入った」

 一体何を。
 そして、少年はまた唇を重ねてきた。
 今度はすぐには離れない。唇を舐めて吸い付き、口の中にそれを忍ばせてくる。

 本当に、何なのだろう。

「ん……っ」

 少年は何度も口づけてきた。
 その容姿からは想像もつかない、濃厚で淫靡なもの。

「…すご…極上だよ、あんた」

 だから、なにが、だ。

 少年の頬は上気し、目元が潤む。それは明らかな情欲の表情で。

「もう、声出るだろ?」

 少年が放った言葉に、俺は驚きを隠せなかった。


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