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君に出逢えた奇跡
12 五日目
しおりを挟む秋の一の月。
まだそれほど寒くなる時期でも、夜の帳が早く降りる時期でもない。
それでも、夕暮れはやや早くなった。
大通りに面しているような店は、日が落ちても店を開けていることが多い。
酒場などは特に夜が稼ぎ時になるからな。
逆に、街灯が乏しく、路地が暗くなる奥まった場所に店を構えている場合、日が沈むと店を閉めるところが多い。店を開けていても人通りも少なくなり、客が来ないからだ。
花屋『シエル』もそんな通り沿いの店の一つだ。
早く行かなければ店が閉まる。店が閉まってしまえば、シエルに会うことができない。
屋敷の自室の花瓶には、今日までに四本の花が活けられている。初日の花も、まだ色褪せることなく、可愛らしい姿をしていた。
訪れるたびにシエルは不機嫌な顔を隠さない。
ぶっきらぼうに接客し、丁寧に花を包み、大切そうに持ち上げ、嫌嫌俺に渡す。
その仕草に俺は毎回苦笑する。
俺のことは気に食わないが、花は好きなのだと、あからさまな態度を取ってくる。
それを咎めるつもりはない。
むしろ、微笑ましい。
だから、毎日通ってはいるが、会話らしい会話はない。
昨日あたりは拒絶の視線よりも訝しがる視線のほうが強かったが。
今日はどうだろう。
どんな瞳を向けてくれるだろう。
少しでも急いで店に行きたかった。
だが、警備の仕事は日が落ちたからと言って終わりではない。
詰所内に設置されている魔導具で時間を確認しながら、今日の報告書を作成していく。
…今日は小競り合いが多かった。
秋の月に入って早々に、商人同士のぶつかり合いが増えた。秋の収穫を祝う祭りに合わせて城下に入った商人もいる。祭り目当ての旅行者も増える。わかってはいたが、あまりの忙しさに途中から表情は抜け落ちていたと思う。普段から表情豊かだとは思っていないが。
交代の時間になっても報告書が上がらない。
今日相棒を努めていたナシムも、盛大なため息を付きながら、報告書を作成していた。
「……俺、この時期にアルフレッドの片割れやるの、本当につらい……。いや、いいんだけどな?それだけ給金は上がるから……いいんだけどな……? けどな、これはつらい……辛すぎる……」
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……追加の給金が欲しくてやっていることではない。犯罪を防ぐことも、争いごとの平定も、町民や旅行者の安全を守ることになるのだから。
ナシムの嘆きを聞きつつ、他の同僚と挨拶を交わしつつ、最後の報告書を仕上げた。
「お先に」
「えっ、あ、アルフレッド、お前、もう終わったのか…!?」
「ああ」
「な、なら、俺の分も少し手伝……」
「またな」
背後から悲痛な声が聞こえたが、それどころではない。
走らずともかなり速い歩きで詰所を出て西の裏通りに向かう。
もう日が沈む。
行き交う人はほとんどいない。
街灯のほとんどない暗い路地。
それでも店から漏れ出る灯りで、外にはまだ鉢植えが置かれているのを見ることができた。
更に足を早める。
間に合った…と息を付きながら扉を開けた。
「あ」
「シエル?」
手を伸ばし、やや呆然として俺を見上げるシエルが、そこにいた。
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