69 / 247
幼馴染み二人とほとんど会えなくても豊穣の国の神殿で頑張ります
22 涙が止まらなくなった
しおりを挟む「さ、引き止めて悪かったね。今日の分はおわり。君も部屋に戻って休んでいいよ」
「はい!ありがとうございました、ロイクさん」
「君が早く次の段階にすすめるよう祈ってるよ」
にこっと笑って背中を押してくれた。
僕は立ち上がって頭を下げて、ロイクさんにもう一度お礼を言ってから礼拝堂を出た。
あと、どれくらい時間あるかな。
手紙書く時間あるかな。
伝えたい。二人に、さっきのこと、伝えたい。
僕、一步前進できたよ。
まだまだだけど、約束に近づけたんだよ。
よくやった、って褒めてくれるかな。頑張ってるね、って頭をなでてくれるかな。
早足で部屋に向かってたのに、ゆっくりになっちゃった。
とぼとぼと部屋に入る。
机について、便箋を用意した。
僕、結構楽しくやってるよ、って。
今日、できることが増えたよ、って。
ペンを持ったまま、一文字もかけなかった。
その代わり、真っ白な便箋の上に、ぽたぽた涙が落ちていく。
二人がいない。
僕のことをなでてくれる手も、ぎゅってしてくれる腕もない。抱きつけないし、キスもできない。
涙が止まらない。
なんでいきなり、こんなに寂しくなっちゃったんだろう…?
「ううー……」
無理やり止めようと思っても止まらない。何度も拭ってみたけど、溢れてくるばかり。
「ディー……エル……、会いたい……っ」
寂しい。
寂しいよぅ。
一人じゃやだ。
ぎゅってしてほしい。
どうやったら涙が止まるのかわからない。
ただ呆然と便箋に落ちる涙を見てたら、六の鐘が鳴った。
…どうしよう。鐘の音を聞いても涙が止まんない。
きゅって苦しくなる胸を抑えていたら、部屋にノックの音がした。
「はい…」
扉を開けたら、キリル君がいたけど、僕を見るなりぎょっとした顔になった。
「え、なに、どうしたんだよ、どこか具合でも悪いのか?」
「……違う、けど、とまんない……」
拭ってもパタパタ落ちる涙。
「……ちょっとこいよ」
ひっくひっくとしゃくりあげながら、扉を閉めてキリル君についていった。
キリル君は時々僕の方を確認しながら歩いて、神殿長さんの執務室まで僕を連れてきた。
「キリルです」
キリル君がノックをしてそう声をかけたら、扉が開いた。
「キリル君、どうしたの………って、ラルフィン君?どうしたんだい、そんなに泣いて」
「泣き止まないんで、連れてきました」
「ああ、うん。それじゃ、キリル君は戻って。ラルフィン君、中に入りなさい」
こくこく頷いて、促されるままに部屋に入った。
ソファに座っても、涙が止まらない。
「一体どうしたの。なにかあったかい?」
「なに、も………、ただ、寂しくなって…」
神殿長さんは、うんうん頷くと、僕の頭を軽くなでた。
「ラルフィン君、ちょっと待っててくれるかな」
僕がうなずくと、神殿長さんはニコリと笑って部屋を出ていった。
2
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
「帰ったら、結婚しよう」と言った幼馴染みの勇者は、私ではなく王女と結婚するようです
しーしび
恋愛
「結婚しよう」
アリーチェにそう約束したアリーチェの幼馴染みで勇者のルッツ。
しかし、彼は旅の途中、激しい戦闘の中でアリーチェの記憶を失ってしまう。
それでも、アリーチェはルッツに会いたくて魔王討伐を果たした彼の帰還を祝う席に忍び込むも、そこでは彼と王女の婚約が発表されていた・・・
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
「出来損ない」オメガと幼馴染の王弟アルファの、発情初夜
鳥羽ミワ
BL
ウィリアムは王族の傍系に当たる貴族の長男で、オメガ。発情期が二十歳を過ぎても来ないことから、家族からは「欠陥品」の烙印を押されている。
そんなウィリアムは、政略結婚の駒として国内の有力貴族へ嫁ぐことが決まっていた。しかしその予定が一転し、幼馴染で王弟であるセドリックとの結婚が決まる。
あれよあれよと結婚式当日になり、戸惑いながらも結婚を誓うウィリアムに、セドリックは優しいキスをして……。
そして迎えた初夜。わけもわからず悲しくなって泣くウィリアムを、セドリックはたくましい力で抱きしめる。
「お前がずっと、好きだ」
甘い言葉に、これまで熱を知らなかったウィリアムの身体が潤み、火照りはじめる。
※ムーンライトノベルズ、アルファポリス、pixivへ掲載しています
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる