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幼馴染み二人とほとんど会えなくても豊穣の国の神殿で頑張ります
23 祈りは、自分の心の中をさらけ出すこと
しおりを挟む神殿長さんが戻ってきたとき、手になにか持っていた。
「お茶を淹れるからね」
そう言ってお湯を沸かし始めて、テーブルの上にポットやカップを用意した。
神殿長さんは、さっき持ってきたものの中身を、ポットの中に入れて、沸いたお湯を注ぎ込んだ。
ふわりと、花の香がする。
様子を見るように軽く揺すると、カップに淹れた。
「さ、どうぞ」
「…いただきます」
ふぅふぅして冷ましながら、一口飲んだら、花の甘い香りが広がっていく。
気分は落ち着いていくのに、なんでかやっぱり涙が止まらない。
「五の鐘の後、何かあったのかい?」
「……ロイクさんに、光の、可視化を、教えてもらいました」
「うん。報告をもらっているよ。可視化はできたみたいだね?」
「はい…。それが嬉しくて、二人に、報告したら、褒めてくれるかな、って、頑張ったね、ってなでてくれるかな…って、思ってたら、どんどん、寂しく、なって」
「二人に会いたくなったんだね」
「会いたい……っ」
涙の量が増えた。
「会って話がしたくて、なでてもらいたくて、顔が見たくて、無事を確認したくて……っ」
感情が溢れてく。
今まで経験したことがないくらい、胸の中がぐちゃぐちゃになってる。
「女神様に祈るということはね」
神殿長さんの声はとても静かだった。
「自分の心をさらけ出すことでもあるんだよ。嘘偽りない心の中をね。だから、深い祈りは、時々、今のラルフィン君のように、強く心を揺さぶられて、自分じゃどうすることもできなくなることもあるんだ」
「……どうしたら」
「慌てないでいい。気持ちを楽にしなさい。ほら、お茶を飲んで。気持ちが落ち着く香りを選んだから」
「……はい」
さっきよりは冷めたお茶を、また一口飲んだ。
「それにしても、ずいぶん早く可視化できるようになったね。資格的にはもう中位でもいいくらいだよ。ラルフィン君はどうしたい?中位神官になりたいかい?」
「僕……まだこのままでいいです」
まだまだ知らないことばかり。
上の資格を持ったら、きっと、やらなきゃならないことが増えるはずで。それには僕には知識が足りてない。
「うん。それでいいよ。でも、使えるようになった女神様の御力は、どんなときでも使えるように毎日繰り返して、覚えなければならない。意識しなくても使い分けができるくらいにね。君がもっと深く深く理解して行くごとに、もしかしたら今日のようなことがあるかもしれないけど、これは仕方のないことだから。女神様の御力を知る過程だと思えばいい」
神殿長さんの言葉はとてもゆっくりで、優しい。
頷いて、冷めても美味しいお茶をまた一口飲んだら、部屋にノックの音がした。
「入りなさい」
神殿長さんがそう声をかけたら、
「「フィー!!」」
……って、声がして、振り向いたら二人に抱きしめられた。
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