幼馴染二人と冒険者になりました!

ゆずは

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幼馴染み二人とほとんど会えなくても豊穣の国の神殿で頑張ります

34 女神さまはどこにでもいるから

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 気づいたことがある。
 祈りはいつも、女神さまの前でやってた。
 けど、女神さまの前じゃなくても、祈りは女神さまに届くんだ。
 女神さまの前で祈ったほうが、届きやすいと言うか、その御手を感じ安いと言うか…。そんな違いはあるけど、基本、どこでもいい。

 神殿や教会で祈るのはわかりやすい。
 目に見えてそこに女神さまが『ある』から。
 でも、そこに女神さまが『いる』わけじゃない。女神さまはどこにでもいてくれる。つまりはそういうことでしょ?
 女神さまは神殿や教会に『住んでる』わけじゃないから。



『私の愛子』



 …ああ、ほら。
 女神さまの温かくて優しい御手が僕の頬に触れる。

 僕が大泣きして、ディーとエルが来てくれた日、僕はこの部屋で、二人のことを想う僕の心を反映したような光を出せた。
 いつもは女神さまの前でしていたことなのに。あの時は、ディーに見てもらいたくて、何も考えてなかった。
 でも、僕の祈りはちゃんと女神さまに届いてた。

 女神さま。
 僕、やっとわかったんですよ。
 女神さまはずっと僕たちのそばにいてくれるんだって。
 まだまだ僕には、いつでもどこでも、礼拝堂で祈る時のようなたくさんの光を出すことはできないけど。



『――――』



 女神さまの口元がなにかのことばを紡ぐ。でも、僕にはわからない。この言葉がわかるようになったら……、僕は前に進めるのかな。
 女神さまはただ穏やかに僕に微笑みかけてくれた。




 色々ぐらぐらしてた心が落ち着いて、ゆっくりと目を開けた。
 そしたら、呆然とした様子の殿下が。

「殿下?」

 どうしたんだろう…って思って、神殿長さんに目を向けたら、苦笑された。
 僕何かしたのかな…って、殿下の方を見たら、殿下は改めて僕を見て、口を開いた。

「…女神の気配がした」

 僕は意味がわからなくて首を傾げる。

「女神さまはどこにでもいらっしゃいますよ?」
「!」
「女神さまはどこからでも僕たちの祈りを聞き届けてくれてますから」

 殿下の驚いた顔。
 神殿長さんは……にこにこしてる。

「……どこからでも?」
「はい。……普段、殿下は神殿にはいらっしゃってないですよね?」
「ああ。遠征に出ることも多いから」
「それなら、その遠征?先でお祈りされてますよね?」
「……鎮魂の浄化くらいだよ。俺がしているのは」
「だったら、その時の祈りを女神さまが聞いてくださっているんですよ。今朝、殿下が礼拝堂でお祈りされてたとき、とても綺麗な光を感じましたから」

 殿下は何も言わない。
 ただただ、僕を見続ける。

「僕はお祈りをするとき、女神さまの御手を感じます。優しい手で頬をなでてくれます。だから、きっと、殿下がそのことに気づけたら……、女神さまはもっとお喜びになると思いますよ?あれほど綺麗な祈りなんですから。女神さまが愛されないはずがないんです。………僕も、気づいたのは最近なんですけどね?」

 だから、殿下も、いつでも女神さまを感じることができるはず。
 僕はなぜかそう確信していて、殿下から視線を外すことなくじっと顔を見ていた。

「――――」

 一瞬、殿下の表情が歪む。
 目元に手を当てて、顔を天井に向けた。

「きっと、殿下が祈りを捧げた方々は、女神さまの元で安らかな眠りについていますよ」

 鎮魂の祈りは、そういうものだから。
 この殿下の祈りなら、きっと、安心して女神さまの元に返ったはず。

 殿下はなおも顔を上にむけてた。
 でも、目元を覆う手の隙間から、一筋の涙が流れ落ちる。

「――――ありがとう」

 小さな震える声だった。





 その後、六の鐘が鳴ったときに、殿下は神殿を出た。
 どこかすっきりした顔で、僕に「また話をしよう」って笑顔をみせてくれた。
 うん。僕、この人嫌いじゃない。

 それから、殿下が神殿を訪れるたびに、僕は殿下に会っていろいろな話をするようになった。

 きっと、僕が殿下と出会うことは、必要なコトだったんだ。
 僕が殿下と深く関わるようになるのはもう少し先のことだけど。


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