幼馴染二人と冒険者になりました!

ゆずは

文字の大きさ
82 / 247
幼馴染み二人とほとんど会えなくても豊穣の国の神殿で頑張ります

35 ラルフィン/キリル

しおりを挟む



 神官見習いの中で最年少になる俺に、ある日、神殿長から、新しく入る俺よりも年下の子の面倒を見てほしいと頼まれた。
 そいつは俺より2つ下。年の割に小柄で、見た目が男なのか女なのかよくわからないやつだった。
 変なやつ。
 同じ男同士なのに着替えで部屋から出されるし、迷子になると思って手を繋ごうとすれば嫌がるし。周りを少しびくびくした目で見てるし。
 でも、見習いになれるくらいなんだから、素質がある、ってことなんだろう。




 そいつ――――ラルフィンがここに来てから何日かが経ったけど、中位や高位の神官が何かしらラルフィンを構う。
 三の鐘の勉強のときには必ずラルフィンに音読の指名がある。五の鐘の奉仕のあとは、必ずラルフィンが呼び止められる。
 それから、ラルフィンは風呂場に来ない。俺は夕食後はあいつと会わないから、いつ風呂に入っているのか知らない。

 そして、今日、騎士服を着た奴が、何故かラルフィンの隣りにいた。
 三の鐘の後からずっとだ。
 胡散臭い顔で『友人』と言ったが、ラルフィンの様子からそんな感じはしなかった。
 全くよくわからない。
 昼食後に神殿長に呼び出されたラルフィンは、結局五の鐘の奉仕には来なかった。

「流石、神殿長のお気に入りは待遇が違うよね」

 同じ場所の掃除をしていた俺と同じ神官見習いたちが、蔑んだ口調でそんなことを言い始めた。

「ああ。『神殿長のお手付き』だろ?」
「それそれ。毎日神殿長の私室に行ってるって話だ」
「へぇ。あんな年でねぇ。なあ、キリル、どうなんだよ」
「……何がですか」
「ラルフィンだよ。試験も研修もなしでいきなり神官になったって噂」

 ……そんな話、初めて聞いた。

「俺は知りません」
「ふぅん?――――ま、お気に入りは違うよな。呼び出されたまま奉仕にも来ない」
「しかも、今日の誰なんだろうな。騎士服の奴。神殿長の知り合いか?随分とラルフィンにご執心だったなぁ」
「今頃3人でヤってんのかもなぁ」
「うっわ。だったらここも落ちたもんだね」
「それが事実なら俺ほかの神殿に移るわ」

 戒律が厳しいわけじゃない。
 ここの神官達は、誰もが優しく感じがいい。
 けど、見習いや低位の神官は、そうとも限らない。
 大体、奉仕の時間にここまで煩く私語を重ねたり、蔑むような噂を垂れ流すなんて、どうかしてる。

「誘ったら足開くかもよ?」
「ああ。なら、今度部屋に行ってみるか。七の鐘の後なら部屋にいるだろ」

 ……気分が悪い。
 近くに担当の神官の姿が、無いからと言って、声はでかいし、そもそも話してる内容からして神官にあるまじきものだ。
 これは報告しなくちゃ…と思って顔を上げたら、奥の方にいた担当神官と目が合った。
 その神官は俺に対して頷くと、手元に何かを書き込んでいる。

 噂好きな馬鹿な奴らは、そんなことにも気づかずにひたすらいやらしい笑みを浮かべながら話し続ける。
 神官見習いは、正しく言うなら神官ではない。適正がないと判断されれば、すぐに神殿を出される。
 ……そう。『すぐに』だ。




 六の鐘とき、ラルフィンが戻ってきた。いつも通り祈りを捧げ、二人で食堂に向かう。
 ……奉仕のときにくだらない話をしていたあの2人の姿はなかった。

「なあ」
「なに?」
「毎日神殿長の部屋に行ってんの?」
「うん」

 なんとなく聞いてみたことに、隠すこともなく答えられて、危うくスプーンを落とすところだった。

「それって――――」
「僕、皆とお風呂に入れないから、そしたら、神殿長さんが自分のとこのお風呂使ったらいい、って言ってくれて」
「風呂?」
「うん。お風呂」

 なんで皆と入れない??
 神殿長もなんでそこまでする??
 結局疑問は疑問のままで。
 でも、こんな天然なぽやぽやした奴が、神殿長と、……そんな関係を持ってるとは全く思えなかった。



 数日後、疑問は一つ解決した。
 二の鐘の後、いつも通り部屋に迎えに行ったら、ラルフィンは私服になっていて、今日は出かけるという。
 なんとなくついていったら、突然駆け出した。

「ディー!エル!!」

 神殿の入口近くで待っていた二人に向かって駆け寄って、抱きつく。
 それから、自然な流れで二人にキスをして、二人もラルフィンにキスをしていた。
 俺はただ呆然とその光景を見ていたのだけど。
 突然、頭をぽんっと撫でられる。

「ラルフィン君」

 俺の横を通り抜けて、神殿長がラルフィン達に近づいた。

「いいかい?夕食を食べたら帰ってくるんだよ?」
「はい!行ってきます」
「就寝時間に間に合うよう送ります。神殿長殿、有難うございます」
「楽しんでおいで。たくさん甘えて。次は一ヶ月後だからね?」
「はい!」

 ラルフィンの笑顔。……あんな笑顔、見たことなかった。
 ラルフィン達は神殿長に改めて挨拶すると、ラルフィンを真ん中に、手を繋いで神殿を出ていった。
 思わず俺の手を見て、ああ、そうか、と納得する。

 あの二人はラルフィンの『特別』なんだ。
 幸せそうな背中を見ていたら、なんかすんなり飲み込めた。
 だから、俺とは手を繋げない。皆と風呂にも入れない。
 恋人が、いるから。

「なーんだ」

 わかってしまえば、簡単なこと。
 研修も試験もなしでここに入った、ってところも、今度聞いてみよう。案外あっさり教えてくれそうだ。


しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

【完結】僕は、妹の身代わり

325号室の住人
BL
☆全3話  僕の双子の妹は、病弱な第3王子サーシュ殿下の婚約者。 でも、病でいつ儚くなってしまうかわからないサーシュ殿下よりも、未だ婚約者の居ない、健康体のサーシュ殿下の双子の兄である第2王子殿下の方が好きだと言って、今回もお見舞いに行かず、第2王子殿下のファンクラブに入っている。 妹の身代わりとして城内の殿下の部屋へ向かうのも、あと数ヶ月。 けれど、向かった先で殿下は言った。 「…………今日は、君の全てを暴きたい。 まずは…そうだな。君の本当の名前を教えて。 〜中略〜 ねぇ、君は誰?」 僕が本当は男の子だということを、殿下はとっくに気付いていたのだった。

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

処理中です...