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竜司と子猫の変わる日々
竜司は子猫を慰めながら餌付けする
しおりを挟む子猫はまだ俺を信用しきっていない。出会ってまだ三日目だ。信用しろ、頼れと言うほうが無理がある。
だけどな、俺はどんな些細なことからでもお前を守りたいし、大志以上に頼りにされたい。
「嘘じゃないからな?お前を慰めるためのこの場しのぎの軽い言葉でもないからな?」
「うん……っ」
「……ああ、ほら。泣くな。これからバイトだろ。目が腫れたまま行く羽目になる」
目元にキスをして、胡座の上に横抱きにした。まだ湯気の立つおしぼりを広げ熱気を逃がし、軽く畳んで子猫の目元にかけてやる。
「少しはいいだろ。食事が来るまでそうしてけ」
「……きもちぃ」
目元が見えなくても、口元には嬉しそうな笑みが浮かんでるのはよくわかる。
「よかったな」
口元に笑みを浮かべた子猫は、俺のスーツの胸元をそっと握る。
どこにも行くなと言われているようで、酷く嬉しくなった。
「バイトは何時から?」
「一時……半くらい」
「なら、時間はあるな」
焦らず食事が取れるはず。
俺自身は多少遅れても問題ないだろし。
「失礼します。坊ちゃま、お食事の準備が整いましたよ」
子猫を腕の中に囲いながら、頭をなでたり首元をくすぐったりしていた。くすぐったいと言いながら笑う子猫だったが、襖の向こうから声がかけられると、体をびくっとふるわせ俺の腕の中から逃げようともがき始めた。
「お願いします」
俺が女将にそう応えると、子猫の抵抗がピタリと止んだ。
「あらあら」
俺が子猫を抱きかかえるようにしているのを見て、女将は楽しそうに笑う。
腕の中の子猫は体を硬直させていて、呼吸まで浅くしているようだった。
「随分と大切にされてますのね」
「ええ。ようやく出会えたんです」
「そうですか。それはよかった」
母のような祖母のような女将は、静かに小鉢を並べながら、笑みを絶やさない。
「こちらはサービスです。坊ちゃま用ではないですからね」
と念押しされたのは、甘そうなクリームがトッピングされたプリンだった。
「……ありがとうございます」
明らかに子猫用。
女将はそれ以上何も言わず、静かに座敷を出ていった。
「のぞみ」
目元のおしぼりを取ると、耳まで真っ赤に染め上げた子猫が俺を睨んできた。
「真っ赤だな」
「だって……っ、絶対子供だって思われた……っ」
「俺の腕の中にすっぽりと収まって可愛いが、子供とは思われてないから気にするな。それよりほら、昼飯を食べよう。バイトの時間に遅れるだろ?」
「ん…」
子猫は恥ずかしすぎて俺と女将の会話をほとんど聞いてなかったんだな。
横抱きから後背に抱き直して、座る位置も調節した。
「わ……すごい」
自然と俺に背を預けてくる子猫は、足から降りるという意識はないらしい。
「爺様がよく来るんだよ。洋食より和食のほうが落ち着くとかでな」
「おじいさん」
「俺も小さいときから連れてこられてたから、よく知ってる場所だ」
「そうなんだ…」
「ほら、口開けて」
「ん」
箸を手に取り、優しい味のだし巻き卵を一口子猫の口元に運ぶ。
子猫はなんの疑問も持たず、口を開けた。
……この子猫、警戒心なさすぎじゃないだろうか。
「美味しい」
「だろ」
その後も子猫へ餌付けが続く。
汁椀は子猫に持たせて飲ませ、最後にプリンの器を渡した。
「これはお前のデザート」
「ありがと……」
そこで子猫は改めて俺を仰ぎ見てから座卓の上を確認し、再び顔を真赤にした。
「りゅ……竜司さん……っ」
「ん?」
「ぼ、ぼく、子供じゃないんだから……っ、お、おりる…っ」
……俺に囲われて餌付け状態だったのをようやく理解したらしい。
可愛すぎるぞ、子猫。
「駄目」
「ちょ」
「このまま食べ終われ。俺は茶を飲む」
「うう~~っ」
腹に回した腕に、苦しくない程度の力を入れる。
子猫は口で言うほど離れたいわけではないらしく、いかにも「渋々です!」って顔をしながら俺にまた体を預けてきて、小さく息をつく。
「……甘くて美味しい」
「そうか」
プリンとクリームを掬った木匙をゆっくり口に運ぶ。
そうして食べ終わる頃、子猫は器を座卓に置き、腰を浮かせた。
「ん」
「ん?」
首に子猫の腕が回る。
キスをねだってるのか…と、腰に改めて腕を回した。
重なる唇。
口を少し開けば待ってましたと言わんばかりに子猫の舌が入り込んだ。
「ん……っ」
……そして、舌先で俺の口の中に押し込まれるもの。それはとても僅かだったけれど。
「…………………のぞみ」
「仕返し」
口の中にクリームとカスタードの甘さが広がる。
口移しで食べさせられたデザートのプリン。
「デザート、食べたね。竜司さん」
にこにこと笑う子猫。
涙を流しているより余程いい。
「口直しを要求する」
「んっ」
可愛い悪戯をする子猫を畳の上に押し倒し、貪るように唇の甘さを堪能した。
「送ってくれてありがとう。行ってくるね」
「ああ。俺も会社に戻るよ」
カフェ『アリス』についたのは十三時を過ぎた頃だ。
裏口から入る子猫を最後まで見送り、車を会社に向けて走らせながら、ミノルに連絡を入れた。
『はい、獅戸サン、珍しいっすね。こっちにかけてくるの』
「ああ。頼みたいことがあってな」
『なんっスか?』
「───大学経営学科の樋山徹について調べてくれ。家庭環境から全部」
『全部、っすか。ちょっと時間かかりますよ』
「できるだけ急いでくれ。…俺の子猫が襲われそうになった」
『あらら。怖いもの知らずというかなんというか……ストーカーですか』
「……いや、子猫の元カレだ」
『あー……、なるほど。なるほどねぇ。あの子猫ちゃんの。わかりました。できるだけ早くしますんで』
「頼んだ」
報酬は弾もう。
こういうときミノルは頼りになる。
*****
ミノル君はアダルトショップの店員さん
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