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 深い深い森の中。
 人間たちには見せるのが勿体ないほど豪華な内装のこのヴァンパイア城。

 ほんの気まぐれで人間を招き入れた途端この調子だ。

「今・・・なんとおっしゃいましたか? オリバー」

「はい、スカーレット様。私を貴女様の眷属にしてください」

「はぁ・・・・・・」

 私はため息をついてしまう。
 私がもう一度聞いたということは、聞かなかったことにするというサインなのに。

「理由を聞きましょうか」

 呆れすぎて頭がくらくらするし、怒りのせいか顔も熱い。

「貴女様を愛しているからです。ずっと、スカーレット様のお側で永遠の時を過ごしたいのです」

「なんて傲慢、なんて強欲っ・・・」

 この男、オリバーは人間界の王子らしい。まぁ、私には負けるが身に着けている物も高価な物ばかりだし、目鼻も整っているのも身分が高い証拠であり、嘘ではないだろう。それを調べるのにわざわざ私のヴァンパイアの能力を使うまでもない。

 身分も高く、見た目も良いのだからさぞかし人間界ではモテたに違いないが、私はヴァンパイア。そして、オリバーよりも高貴な存在。私にはそれは通用するはずがないのだ。

「お前、命を助けて貰ったばかりで無く、私にさらに願いごとをするのか?」

「スカーレット様に助けていただいたことは本当に感謝しております。そして、スカーレット様とお話はとても楽しく、スカーレット様のお優しさやお考えを聞き、大好きになったのです。この気持ちは抑えることができません」

「ふんっ」

 数100年も生きていれば、人間よりも奥行きのある考え方もできるし、小さなことなど気にする気にもならないのは当然。

「貴女様は、ボクの運命の相手だ!」

「その言葉は上の者が言うから意味があるのです。それとも私の生を人間並みに貶めたいのですか?」

「いえ、そんなつもりは・・・」

「それに分かっているのですか? 眷属になってしまえば、オリバーの意志は消えてしまうのですよ?」

「意志は消えませんっ」

「なぜ?」

「ボクの意志は、スカーレット様と一緒にいることだからです」

「それは意志とは呼ばないのです」

 本当にオリバーは分からず屋だ。

「悲しいです、ボクは」

 私だって、悲しいです。

「ボクはスカーレット様と一緒に居てこんなに楽しく幸せに感じたことはありませんっ。貴女様は違うのですか!?」

 オリバーのサファイアにも劣らない綺麗な青い瞳が私を真っすぐ見つめてくる。

(あぁ・・・・・・若い。若すぎる)

 その直球な想いのぶつけ方は若すぎる。

「久しぶりに・・・・・・楽しかったです」

「久しぶり? 本当ですか!?」

 ・・・・・・もう。

「一番楽しかったですよ」

 今も含めて。
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