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「収入の話するんやったら、言わせてもらうけどな」
美咲は指を一本、ピッと立てた。
「仕事は“守備”や。守備。まぁ、自営業の社長とか経営者はピッチャーやな。そのポジションで一流めざして頑張るなら、うちも何も言わんわ。せやけどーーーウチらみたいなサラリーマンは野手や。守備位置に差はあっても、うまい下手あっても、そない大差なんてないねん」
俺は口を開きかけたが、言葉が出なかった。
美咲は続ける。
「守備は大事やで。自分とこにボール飛んできて、なーんもせんのはあかん。そらみんな、投げ出さずにプレーはするよ。でもな、それ“当たり前”やん。守備ばっか必死で、“家庭”っていう打席でバット振らへん選手に未来あると思う? 守備の貢献度が高くても、家族の人生が幸せになるん?」
「それでも・・・・・・やらなきゃいけないし。仕方ないじゃないか」
「せやけどな、人生って“幸せになるためのもん”ちゃうん? 野球は点取るスポーツや。点取られんようにするスポーツちゃう。守りのことばっか意識しすぎたら、そら消極的にもなるわ」
「でも、守備だって大事だろ」
「大事やで。めっちゃ大事や。でもな、うちら二人しかおらんねん。あんたとウチの二人で、守備固めみたいな選手二人揃って、どうやって点取るん? 守備固めってな、点数が“上回ってる時”にする采配やねん」
ーーーそこまで言うなら、もう野球に例えるなよ。
喉元まで出かかった。
守備固め? ひどい言い方じゃないか。
それってつまり、美咲は今の生活を幸せを満たしていないと思ってるってことなのか?
・・・・・・俺だって頑張ってる。
耳が痛い部分もある。いや、ほとんどの言葉が刺さって心が痛い。
でも、それでも、俺は家族のために仕事してる。
嫌なこともある。
それでも投げ出さずに稼いで帰ってくるのは、美咲と真央のためだろ。
そもそも、この言い方がずるい。
俺が反論できへんように出口ふさいで、そこはどうしようもできないってところに豪速球を上下左右に散らしてくる。
バッティングの話してるけど、これピッチングじゃないか。
こんな責め方されて、素直に納得できるわけがない。
ーーーそう思っていたのに、美咲が俺の目をまっすぐ見つめてきた。
「でもな、そうちゃん。ウチ・・・・・・幸せになりたいんよ」
その瞳は驚くほどきれいで、ほんのり潤んでいた。
強気な美咲の涙を見るのは、これで三回目だ。
プロポーズした日。
結婚式の日。
そしてーーー悲しみの涙は、今日が初めてだった。
美咲は指を一本、ピッと立てた。
「仕事は“守備”や。守備。まぁ、自営業の社長とか経営者はピッチャーやな。そのポジションで一流めざして頑張るなら、うちも何も言わんわ。せやけどーーーウチらみたいなサラリーマンは野手や。守備位置に差はあっても、うまい下手あっても、そない大差なんてないねん」
俺は口を開きかけたが、言葉が出なかった。
美咲は続ける。
「守備は大事やで。自分とこにボール飛んできて、なーんもせんのはあかん。そらみんな、投げ出さずにプレーはするよ。でもな、それ“当たり前”やん。守備ばっか必死で、“家庭”っていう打席でバット振らへん選手に未来あると思う? 守備の貢献度が高くても、家族の人生が幸せになるん?」
「それでも・・・・・・やらなきゃいけないし。仕方ないじゃないか」
「せやけどな、人生って“幸せになるためのもん”ちゃうん? 野球は点取るスポーツや。点取られんようにするスポーツちゃう。守りのことばっか意識しすぎたら、そら消極的にもなるわ」
「でも、守備だって大事だろ」
「大事やで。めっちゃ大事や。でもな、うちら二人しかおらんねん。あんたとウチの二人で、守備固めみたいな選手二人揃って、どうやって点取るん? 守備固めってな、点数が“上回ってる時”にする采配やねん」
ーーーそこまで言うなら、もう野球に例えるなよ。
喉元まで出かかった。
守備固め? ひどい言い方じゃないか。
それってつまり、美咲は今の生活を幸せを満たしていないと思ってるってことなのか?
・・・・・・俺だって頑張ってる。
耳が痛い部分もある。いや、ほとんどの言葉が刺さって心が痛い。
でも、それでも、俺は家族のために仕事してる。
嫌なこともある。
それでも投げ出さずに稼いで帰ってくるのは、美咲と真央のためだろ。
そもそも、この言い方がずるい。
俺が反論できへんように出口ふさいで、そこはどうしようもできないってところに豪速球を上下左右に散らしてくる。
バッティングの話してるけど、これピッチングじゃないか。
こんな責め方されて、素直に納得できるわけがない。
ーーーそう思っていたのに、美咲が俺の目をまっすぐ見つめてきた。
「でもな、そうちゃん。ウチ・・・・・・幸せになりたいんよ」
その瞳は驚くほどきれいで、ほんのり潤んでいた。
強気な美咲の涙を見るのは、これで三回目だ。
プロポーズした日。
結婚式の日。
そしてーーー悲しみの涙は、今日が初めてだった。
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