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美咲の涙にはこれまで飲み込んで、飲み込んで、胸の底に沈めてきた気持ちが詰まっているのだろう。
あぁ、俺が何も言わないからこの意地っ張りの頑張り屋さんがボロボロボロボロ涙を流しているぜ。
俺はどこで間違えたんだろう。
3人の幸せのためにやってきたのに、俺は何をやってきて、どこに進んでいるんだろうか。
そして、あの涙は美咲の不安や悲しみを洗い流してくれるのだろうか。
(あぁ・・・・・・こんな時だって、俺はサッカーが気になって、美咲は真央を気にしている)
この温度差が俺の心をヒリヒリと焦がす。
願わくば、この感情はストレスからの現実逃避であってほしい。
でもいっそ、この涙で俺たちの関係性を清算した方がいいのかもしれない。
そんな弱気な考えがよぎった瞬間、観念して、俺は苦笑しながら言った。
「じゃあ・・・・・・何だよ。俺は年俸減額? それともクビ? 離婚届が契約解除書類か?」
違う。
言いたいことはそれじゃない。
なのに、口から出たのは嫌味と自嘲だけだった。
いつから、オレは美咲に対して素直になれずに拗れた言い方しか言えなくなったのだろうか。
これが原因だはっきり言えるものはない。
きっと日々の細かいことのズレ。洗い物をする、ゴミ出しをする、掃除する・・・・・・どっちがやるのかの小さな積み重ねが少しずつ俺たちの歯車を狂わせてきたんだと思う。
1秒を刻めない時計はもう時計ではない。
俺たち夫婦という時計はどうだ?
一緒に人生を歩もうと決めたのに一緒に動けていない。
誰のせい?
・・・・・・とことん、俺はクズだ。
早く死刑宣告を受けて楽になりたい。
そんな俺の目を、美咲はまっすぐ覗き込んだ。
「アホか」
美咲は呆れたように鼻で笑った。
笑ってくれた。
「最下位でも、勝てんくても、打てんくても、華ない守備でも・・・・・・それでも好きなんや、そうちゃんのことが」
胸の奥がバットのフルスイングで殴られたように跳ねた。
言葉が刺さりすぎて、ドームの天井に穴が空いて淀んで行き詰まっていた空気が開放された外の方へ一気に放出されていった気がした。
大袈裟かもしれないが、勝っていた試合を中継ぎでぶち壊して引退しかないと考えていたベテラン投手。
そこへ、九回裏二死満塁で“お釣りなし”の満塁ホームランを味方に打ってもらい、勝ち投手扱いになって、しかもお立ち台で
「あなたのために打ちましたよ」
と笑いながら言われたような感覚だった。
美咲は照れくさそうに視線をそらす。
「せやからな・・・・・・せめて、バットぐらい振ってくれたらええ。軽打でええねん。たまに犠牲フライ打ってくれても涙出るほど嬉しいわ」
気付けば俺は椅子から立ち上がり、美咲の手をそっと握っていた。
「わかった。軽打でも送りバントでも・・・・・・何でもやるよ。でも、あんま期待すんなよ。美咲みたいになんでもは俺できないし、下手だからな。今までろくに打席に立っていなかった育成枠だ。でも、できる範囲から全部やる。ちゃんと家族を引っ張れる主軸になる。だから、見捨てないでくれてありがとう」
美咲は照れ笑いをしながら、
「そんなん言われたら・・・・・・また好きになるやんか」
そう言って肩を叩いてきた。
「猛虎党の好きは攻撃過ぎて嫌いなんか好きなんかよう分からんわ」
そう言って、俺はぎこちない関西弁のまま美咲を抱きしめ、頭をそっと撫でた。
「猛虎ファンはきらい?」
上目遣いで甘えた声を出す美咲。
こんなに可愛くて愛しい美咲は久しぶりだ。
「分かんない。でも、美咲は好きだ。大好きだ」
そう言いながら、美咲の髪に頬を寄せると、彼女は少しだけ震えて、そして静かに抱き返してくれた。
あぁ、俺が何も言わないからこの意地っ張りの頑張り屋さんがボロボロボロボロ涙を流しているぜ。
俺はどこで間違えたんだろう。
3人の幸せのためにやってきたのに、俺は何をやってきて、どこに進んでいるんだろうか。
そして、あの涙は美咲の不安や悲しみを洗い流してくれるのだろうか。
(あぁ・・・・・・こんな時だって、俺はサッカーが気になって、美咲は真央を気にしている)
この温度差が俺の心をヒリヒリと焦がす。
願わくば、この感情はストレスからの現実逃避であってほしい。
でもいっそ、この涙で俺たちの関係性を清算した方がいいのかもしれない。
そんな弱気な考えがよぎった瞬間、観念して、俺は苦笑しながら言った。
「じゃあ・・・・・・何だよ。俺は年俸減額? それともクビ? 離婚届が契約解除書類か?」
違う。
言いたいことはそれじゃない。
なのに、口から出たのは嫌味と自嘲だけだった。
いつから、オレは美咲に対して素直になれずに拗れた言い方しか言えなくなったのだろうか。
これが原因だはっきり言えるものはない。
きっと日々の細かいことのズレ。洗い物をする、ゴミ出しをする、掃除する・・・・・・どっちがやるのかの小さな積み重ねが少しずつ俺たちの歯車を狂わせてきたんだと思う。
1秒を刻めない時計はもう時計ではない。
俺たち夫婦という時計はどうだ?
一緒に人生を歩もうと決めたのに一緒に動けていない。
誰のせい?
・・・・・・とことん、俺はクズだ。
早く死刑宣告を受けて楽になりたい。
そんな俺の目を、美咲はまっすぐ覗き込んだ。
「アホか」
美咲は呆れたように鼻で笑った。
笑ってくれた。
「最下位でも、勝てんくても、打てんくても、華ない守備でも・・・・・・それでも好きなんや、そうちゃんのことが」
胸の奥がバットのフルスイングで殴られたように跳ねた。
言葉が刺さりすぎて、ドームの天井に穴が空いて淀んで行き詰まっていた空気が開放された外の方へ一気に放出されていった気がした。
大袈裟かもしれないが、勝っていた試合を中継ぎでぶち壊して引退しかないと考えていたベテラン投手。
そこへ、九回裏二死満塁で“お釣りなし”の満塁ホームランを味方に打ってもらい、勝ち投手扱いになって、しかもお立ち台で
「あなたのために打ちましたよ」
と笑いながら言われたような感覚だった。
美咲は照れくさそうに視線をそらす。
「せやからな・・・・・・せめて、バットぐらい振ってくれたらええ。軽打でええねん。たまに犠牲フライ打ってくれても涙出るほど嬉しいわ」
気付けば俺は椅子から立ち上がり、美咲の手をそっと握っていた。
「わかった。軽打でも送りバントでも・・・・・・何でもやるよ。でも、あんま期待すんなよ。美咲みたいになんでもは俺できないし、下手だからな。今までろくに打席に立っていなかった育成枠だ。でも、できる範囲から全部やる。ちゃんと家族を引っ張れる主軸になる。だから、見捨てないでくれてありがとう」
美咲は照れ笑いをしながら、
「そんなん言われたら・・・・・・また好きになるやんか」
そう言って肩を叩いてきた。
「猛虎党の好きは攻撃過ぎて嫌いなんか好きなんかよう分からんわ」
そう言って、俺はぎこちない関西弁のまま美咲を抱きしめ、頭をそっと撫でた。
「猛虎ファンはきらい?」
上目遣いで甘えた声を出す美咲。
こんなに可愛くて愛しい美咲は久しぶりだ。
「分かんない。でも、美咲は好きだ。大好きだ」
そう言いながら、美咲の髪に頬を寄せると、彼女は少しだけ震えて、そして静かに抱き返してくれた。
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