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その夜。
俺は洗い物をし、風呂掃除をし、寝ぼけて起きた真央の寝かしつけまで引き受けた。
それは今までサボってきたけれど夫として、父親として、家族の一員として当然のこと。
なのに美咲は驚きながらも、どこか誇らしそうな顔でこちらを見ていた。
その目があまりに温かくて、胸の奥がくすぐったくなる。
「ちゃうちゃう、そこ泡残っとるって!」
案の定、関西出身特有のツッコミが千本ノックみたいに飛んでくる。
昔はその一球一球にイラッとしたこともあった。
でも今はーーー何故だか楽しい。
俺たちは声を揃えて笑った。
俺たちは大丈夫。
そう思いたくて、ふたりとも笑っていた。
けれどその笑顔は、ほんの少しだけ上っ面の愛想笑いだった。
愛おしいのに、不安。
手を伸ばしたいのに、怖い。
そんな変な距離を、お互い感じていた。
だからこそ、ツッコミにかこつけて自然と触れる。
「なんでやねん!」
美咲が俺の胸に軽く手の甲をあてれば、
「うるせぇーー」
と俺は美咲の髪をくしゃくしゃにする。
気付けば肩に手を置いたり、腰に触れたり、まるで好きな子にじゃれつく中学生みたいにスキンシップが増えていた。
そして、就寝時間。
寝室の照明を落とし、二人で布団にもぐる。
「なぁ、今日は真央の寝つきすんごいいいなぁ」
先にお布団に入って寝ていた真央をチラッと見た美咲が声を掛けてきた。
「・・・・・・あぁ、そうみたいだね」
俺はそぞろに答えた。
美咲と距離を詰めたい。
けれど、せっかく修復しつつあるこの距離を後退させたくない。
真央を授かってからというもの何度か美咲にアプローチをしたが、責任感があって夜泣きにも対応していた美咲も余裕がなくて、なかなか気が乗らない。
あしらわれるのは切ないし、自信を無くすし、悲しい。
たまにそういう機会があっても、二人で盛り上がる手前で真央が夜泣きしたり。嫌な思いばかりしか残らない夫婦の営みについて、この頃はそんな話も全くしなくなった。
その時だって俺は父親の自覚が薄く、真央のことを疎ましく思う時だってあった。
「なぁ、あんたの猛虎魂・・・・・・元気か?」
美咲がそう囁き、そっと俺の手に自分の手を重ねてきた。
「どうだろう? この頃守備が忙しかったから」
バカみたいな会話だ。
他人に聞かれたら死ぬほど恥ずかしい。
でも――これくらいバカな方がいい。
今から始めようとしていることは、理性ではなく本能に任せる営みなのだから。
「ねぇ・・・・・・久しぶりに“雄”を感じたいねん。猛虎打線、爆発させてくれへん?」
それ以上の言葉は不要だった。
そしてベッドの中でーーー
俺は久しぶりに“ホームラン”を連発した。
「そ、そんなに打ったら・・・・・・明日、筋肉痛なるやろ・・・・・・っ!」
真っ赤になった美咲が、息を震わせながら抗議する。
「じゃあ・・・・・・やめる?」
「出し惜しみせんと・・・・・・かっ飛ばしたってええええっ!」
美咲は笑いながら、腕の中で俺にしがみついてきた。
その笑顔にはーーー
さっきまでの不安が、一つも残っていなかった。
俺は洗い物をし、風呂掃除をし、寝ぼけて起きた真央の寝かしつけまで引き受けた。
それは今までサボってきたけれど夫として、父親として、家族の一員として当然のこと。
なのに美咲は驚きながらも、どこか誇らしそうな顔でこちらを見ていた。
その目があまりに温かくて、胸の奥がくすぐったくなる。
「ちゃうちゃう、そこ泡残っとるって!」
案の定、関西出身特有のツッコミが千本ノックみたいに飛んでくる。
昔はその一球一球にイラッとしたこともあった。
でも今はーーー何故だか楽しい。
俺たちは声を揃えて笑った。
俺たちは大丈夫。
そう思いたくて、ふたりとも笑っていた。
けれどその笑顔は、ほんの少しだけ上っ面の愛想笑いだった。
愛おしいのに、不安。
手を伸ばしたいのに、怖い。
そんな変な距離を、お互い感じていた。
だからこそ、ツッコミにかこつけて自然と触れる。
「なんでやねん!」
美咲が俺の胸に軽く手の甲をあてれば、
「うるせぇーー」
と俺は美咲の髪をくしゃくしゃにする。
気付けば肩に手を置いたり、腰に触れたり、まるで好きな子にじゃれつく中学生みたいにスキンシップが増えていた。
そして、就寝時間。
寝室の照明を落とし、二人で布団にもぐる。
「なぁ、今日は真央の寝つきすんごいいいなぁ」
先にお布団に入って寝ていた真央をチラッと見た美咲が声を掛けてきた。
「・・・・・・あぁ、そうみたいだね」
俺はそぞろに答えた。
美咲と距離を詰めたい。
けれど、せっかく修復しつつあるこの距離を後退させたくない。
真央を授かってからというもの何度か美咲にアプローチをしたが、責任感があって夜泣きにも対応していた美咲も余裕がなくて、なかなか気が乗らない。
あしらわれるのは切ないし、自信を無くすし、悲しい。
たまにそういう機会があっても、二人で盛り上がる手前で真央が夜泣きしたり。嫌な思いばかりしか残らない夫婦の営みについて、この頃はそんな話も全くしなくなった。
その時だって俺は父親の自覚が薄く、真央のことを疎ましく思う時だってあった。
「なぁ、あんたの猛虎魂・・・・・・元気か?」
美咲がそう囁き、そっと俺の手に自分の手を重ねてきた。
「どうだろう? この頃守備が忙しかったから」
バカみたいな会話だ。
他人に聞かれたら死ぬほど恥ずかしい。
でも――これくらいバカな方がいい。
今から始めようとしていることは、理性ではなく本能に任せる営みなのだから。
「ねぇ・・・・・・久しぶりに“雄”を感じたいねん。猛虎打線、爆発させてくれへん?」
それ以上の言葉は不要だった。
そしてベッドの中でーーー
俺は久しぶりに“ホームラン”を連発した。
「そ、そんなに打ったら・・・・・・明日、筋肉痛なるやろ・・・・・・っ!」
真っ赤になった美咲が、息を震わせながら抗議する。
「じゃあ・・・・・・やめる?」
「出し惜しみせんと・・・・・・かっ飛ばしたってええええっ!」
美咲は笑いながら、腕の中で俺にしがみついてきた。
その笑顔にはーーー
さっきまでの不安が、一つも残っていなかった。
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