【完結】【全6話】猛虎の嫁は訴えます。旅行という名の家族サービスだけやればいいと思っている、育児・家事をしない夫の契約更新。

西東友一

文字の大きさ
5 / 6

5

しおりを挟む
 その夜。
 俺は洗い物をし、風呂掃除をし、寝ぼけて起きた真央の寝かしつけまで引き受けた。

 それは今までサボってきたけれど夫として、父親として、家族の一員として当然のこと。
 
 なのに美咲は驚きながらも、どこか誇らしそうな顔でこちらを見ていた。
 その目があまりに温かくて、胸の奥がくすぐったくなる。

「ちゃうちゃう、そこ泡残っとるって!」

 案の定、関西出身特有のツッコミが千本ノックみたいに飛んでくる。
 昔はその一球一球にイラッとしたこともあった。
 でも今はーーー何故だか楽しい。
 俺たちは声を揃えて笑った。

 俺たちは大丈夫。
 そう思いたくて、ふたりとも笑っていた。
 けれどその笑顔は、ほんの少しだけ上っ面の愛想笑いだった。

 愛おしいのに、不安。
 手を伸ばしたいのに、怖い。
 そんな変な距離を、お互い感じていた。

 だからこそ、ツッコミにかこつけて自然と触れる。

「なんでやねん!」

 美咲が俺の胸に軽く手の甲をあてれば、

「うるせぇーー」

 と俺は美咲の髪をくしゃくしゃにする。
 気付けば肩に手を置いたり、腰に触れたり、まるで好きな子にじゃれつく中学生みたいにスキンシップが増えていた。

 そして、就寝時間。
 寝室の照明を落とし、二人で布団にもぐる。

「なぁ、今日は真央の寝つきすんごいいいなぁ」

 先にお布団に入って寝ていた真央をチラッと見た美咲が声を掛けてきた。

「・・・・・・あぁ、そうみたいだね」

 俺はそぞろに答えた。
 美咲と距離を詰めたい。
 けれど、せっかく修復しつつあるこの距離を後退させたくない。

 真央を授かってからというもの何度か美咲にアプローチをしたが、責任感があって夜泣きにも対応していた美咲も余裕がなくて、なかなか気が乗らない。
 
 あしらわれるのは切ないし、自信を無くすし、悲しい。

 たまにそういう機会があっても、二人で盛り上がる手前で真央が夜泣きしたり。嫌な思いばかりしか残らない夫婦の営みについて、この頃はそんな話も全くしなくなった。
 
 その時だって俺は父親の自覚が薄く、真央のことを疎ましく思う時だってあった。

「なぁ、あんたの猛虎魂・・・・・・元気か?」

 美咲がそう囁き、そっと俺の手に自分の手を重ねてきた。

「どうだろう? この頃守備が忙しかったから」

 バカみたいな会話だ。
 他人に聞かれたら死ぬほど恥ずかしい。
 でも――これくらいバカな方がいい。
 今から始めようとしていることは、理性ではなく本能に任せる営みなのだから。

「ねぇ・・・・・・久しぶりに“雄”を感じたいねん。猛虎打線、爆発させてくれへん?」

 それ以上の言葉は不要だった。

 そしてベッドの中でーーー
 俺は久しぶりに“ホームラン”を連発した。

「そ、そんなに打ったら・・・・・・明日、筋肉痛なるやろ・・・・・・っ!」

 真っ赤になった美咲が、息を震わせながら抗議する。

「じゃあ・・・・・・やめる?」

「出し惜しみせんと・・・・・・かっ飛ばしたってええええっ!」

 美咲は笑いながら、腕の中で俺にしがみついてきた。

 その笑顔にはーーー
 さっきまでの不安が、一つも残っていなかった。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約者が義妹を優先するので私も義兄を優先した結果

京佳
恋愛
私の婚約者は私よりも可愛い義妹を大事にする。いつも約束はドタキャンされパーティーのエスコートも義妹を優先する。私はブチ切れお前がその気ならコッチにも考えがある!と義兄にベッタリする事にした。「ずっとお前を愛してた!」義兄は大喜びして私を溺愛し始める。そして私は夜会で婚約者に婚約破棄を告げられたのだけど何故か彼の義妹が顔真っ赤にして怒り出す。 ちんちくりん婚約者&義妹。美形長身モデル体型の義兄。ざまぁ。溺愛ハピエン。ゆるゆる設定。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

精霊王の愛し子

百合咲 桜凜
ファンタジー
家族からいないものとして扱われてきたリト。 魔法騎士団の副団長となりやっと居場所ができたと思ったら… この作品は、「小説家になろう」にも掲載しています。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

双子の姉がなりすまして婚約者の寝てる部屋に忍び込んだ

海林檎
恋愛
昔から人のものを欲しがる癖のある双子姉が私の婚約者が寝泊まりしている部屋に忍びこんだらしい。 あぁ、大丈夫よ。 だって彼私の部屋にいるもん。 部屋からしばらくすると妹の叫び声が聞こえてきた。

姉妹同然に育った幼馴染に裏切られて悪役令嬢にされた私、地方領主の嫁からやり直します

しろいるか
恋愛
第一王子との婚約が決まり、王室で暮らしていた私。でも、幼馴染で姉妹同然に育ってきた使用人に裏切られ、私は王子から婚約解消を叩きつけられ、王室からも追い出されてしまった。 失意のうち、私は遠い縁戚の地方領主に引き取られる。 そこで知らされたのは、裏切った使用人についての真実だった……! 悪役令嬢にされた少女が挑む、やり直しストーリー。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

処理中です...