【完結】【全6話】猛虎の嫁は訴えます。旅行という名の家族サービスだけやればいいと思っている、育児・家事をしない夫の契約更新。

西東友一

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 翌朝。
 味噌汁を作るのなんて何年ぶりだろう。 
 張り切って鍋をかき混ぜていた俺は、出汁を入れ忘れたことに気づいてどうリカバリーするか考えていた。

「ふーふふーんっふふふっ」 
 
 背後で鼻歌を歌っていた美咲が、ぽそっと言った。

「昨日は、マルチヒットやったな」

「どこがや。猛打賞どころか、5打数5ホーマーの大暴れやろ」

 思わず二人で噴き出す。
 こんなしょうもない言い合いをして笑ってる朝が、一番あったかい。

「なぁ、そうちゃん。やっぱうちもやるー」

 美咲が腕に抱きついてくる。

「おう」

「あーしも、やるー!」

 真央がとてとて走ってきて、俺の足に抱きつくようにしがみつく。
 その小さな重みが、なんかもう全部報われる。

「あぁ、みんなでやろうな」

 俺は調子に乗って、隣のコンロの目玉焼きをフライパンごとひっくり返そうとして――派手に上へ飛ばしてしまった。
 ふわりと描いた放物線は、見事に場外。

「うわっ、場外ホームランか!」

「そんな場外いらんて! 行くな、超えるなっ。たまごちゃーん!!! 引退はさせんよ? まだ出番はあるんや!!! ファインプレーで挽回せな!」

 美咲が必死にお皿でキャッチしようとすると真央が転がるように笑った。

 家庭は球場。
 夫婦はチーム。
 プロだけどプロじゃない。

 勝ち負けより大事なのは毎日のヒットを積み重ねること。

 時々は欲をかいて、楽をして安易にホームランを狙って空振りする日もあるだろう。守備固めで打席に立てない日だってある。
 
 ファンだって励ましてくれる時もあればヤジを言い過ぎてしまう時もある。
 それでも、支え合って応援したり、代わりにヒットを打てばいい。

 俺は今日から台所という打席に立つ。
 いや、そんなん威張るなって言われるかもしれないし、みんなからしたらヒットや進塁打くらいで大したことじゃないかもしれない。

 だけど、俺にとっては大きな一歩。
 簡単なのかもしれないけれど、これを続けるということは、年間365日連続ヒットだと考えればとても大変なことだ。続けられるかは少し心配だった。

 でも、美咲がいるから安心した。
 ちゃんとその一歩をほめてくれる。評価してくれる。

 美咲がいるから大丈夫だ。

 だから、俺もーーー

「俺がいるから大丈夫ーーーっ!」

 そんな夫に俺はなりたい。

 

 
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