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11話 見栄切
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「ありません」
フラッシュの光が点滅を繰り返す。
吐き気がする。満身創痍の俺からどんどん奪っていく。
その光から意識を暗闇に流そうとすると、腕を引っ張られる。
「行こう」
凛太郎が肩を貸す。それに合わせて、またフラッシュの光が瞬く。
「すいません、フラッシュはやめてください」
それでも鳴りやまない。そりゃそうだ、俺の自慢の息子の伝説が終わったのだから。それも父親に。しんどいが・・・。
「僕は!!これからの将棋界で一番強くなる!!今からフラッシュ使う奴の、そいつを雇っている会社のインタビューは二度と答えないからな!!だから・・・やめろ!!」
音はぱたりと止まった。
冷めてすましていた凛太郎。
ふっ、そんなに熱いところ、お前にもあったのかよ、凛太郎・・・。
お前の知らないところがまだあったん・・・いや、違うよな、成長しているんだよなぁ。
これからも、成長して俺も凛太郎自身も知らない凛太郎になっていくんだろうな。
(まっ、最後までは・・・見届けられないか。どっちにしたって、親の方が先に死ぬってもんだ)
ありがとうな、凛太郎。
俺と千尋のところに生まれてきてくれて。
こんな不甲斐ない俺を庇ってくれるような優しい奴になってくれて。
でもな、お前みたいな優しい奴が簡単に敵を作っちゃいけないよ。死に行く俺なんかのために・・・。
俺は凛太郎に寄りかかるのを止めて、自分の足で立つ。
「皆さん、すいません。息子が暴言を吐きました。許してください」
俺は姿勢よく頭を下げる。そして、「勝者」として仁王立ちをする。
「こいつは俺の自慢の最高の息子なんです。家族想いの優しい奴なんです。でも、未熟です。一時の感情に流されてしまうこともあります。そういうことは後悔するって、おれ・・・私が教えておくべきでした。親失格です」
「違うよ!」
歯がゆそうな顔をする凛太郎を俺は手で制す。
ごめんな、凛太郎。
でもここが俺の見栄の張りどころなんだ。
「私がもっと教えてやりたい・・・けれど、時間がなかったんです。そして、もうその時間もありません。私、余命あとわずかみたいなんですわ、ははっ。皆さん、どうか暖かくこいつを見守ってあげてください。親馬鹿なだけじゃないんと思うんです。こいつは将棋界を背負って立つ人間なんです。この場のお越しの記者の皆さんにも、皆さんの書いた記事を読む将棋ファンの人にも俺の自慢の息子知ってほしい、けれど、気にしすぎるところもあるからのびのびと皆さんに育ててほしいと、この場をお借りして、そう最後にお願いしたいです。破ったら、呪っちゃうぞ、なんっちゃって。こほっごほっ」
記者も最初は固まっていたが、ペンを走らせたり、ボイスレコーダーのスイッチを押したりしている。
そして、一人の記者が手を上げて、声を出す。
「アルファ新聞の笹塚です。インタビューはこのままさせてもらってよろしいでしょうか」
「おい、なに言ってんだよ」
隣の記者に肘打ちされる。
「どうぞぉ、なんたって。私にとってもこんな最初の最後の晴れ舞台ないですからねぇ。こちらこそ、よろしくお願いしますよぉ。ただ、ビデオカメラとかはいいですけど、カメラは、具合悪くなるんでNGで・・・お願い・・・しますっ」
「ありがとうございます」
笹塚さんはボイスレコーダーを俺に向けながら尋ねる。
「今回、プロとして息子さんとの初対局でしたが、どういった思いでこの場に挑みましたか」
ちらっと、凛太郎を見る。肩に腕を回す。
「楽しみでした。棋士として、父として息子が、同じ道の、それもプロになった。それも神童なんて言われている。嬉しくて仕方ない。わくわくして、そして、父として、先輩棋士として相応しい対局をしようと研鑽を積みました。そして、父として彼のファンとして、彼よりも彼を知る存在だったからこそ、勝てたのだと思います」
「これで、凛太郎君の連勝記録が止まってしまいましたが、それについてはどうですか」
「将棋界は甘くない。それは、凡才の俺だからよくわかっている。連勝はいつか止まるし、毎年、毎年、凄い才能がこの世界に入ってくるんだ。こいつ以上の天才が生まれて来るとも限らない。そうであるのであれば、そこに拘って小さくまとまってほしくない。そのあとのプロ生活に影響を考えれば、今回の勝負は私にとって負けられない戦いでした。なので、私が勝負の厳しさを教えてやりたいと思ったのが、半分」
凛太郎をまた見る。少し拗ねているような顔をしているが、俺の後ろに回した腕は生意気にもいつでも支えられるように力が入っている。
「…あと半分は?」
「私も男です。そして、棋士です。普段、ぼこぼこにされてる分、大舞台で見返してやりたい、止めたらかっこいいなと思って対局に臨みました。だって、プロになったのだから、盤上では当然一人前扱い、そして、同じく将棋のトップを狙う、仲間であり、ライバルですから」
「最後に、次はいよいよ竜王との対局ですが、意気込みを」
「死力を尽くして臨みます。それだけです」
「ありがとうございました」
「では・・・天堂凛太郎四段のインタビューは・・・」
「この場でいいです。ただ、この人は先に帰してもいいですか」
「大丈夫か」
「大丈夫に決まっているだろ。僕も・・・一人前のプロなんだから」
凛太郎は照れ臭そうだったが、頼もしく思った。
「そうだな」
凛太郎はもう大丈夫だ。
フラッシュの光が点滅を繰り返す。
吐き気がする。満身創痍の俺からどんどん奪っていく。
その光から意識を暗闇に流そうとすると、腕を引っ張られる。
「行こう」
凛太郎が肩を貸す。それに合わせて、またフラッシュの光が瞬く。
「すいません、フラッシュはやめてください」
それでも鳴りやまない。そりゃそうだ、俺の自慢の息子の伝説が終わったのだから。それも父親に。しんどいが・・・。
「僕は!!これからの将棋界で一番強くなる!!今からフラッシュ使う奴の、そいつを雇っている会社のインタビューは二度と答えないからな!!だから・・・やめろ!!」
音はぱたりと止まった。
冷めてすましていた凛太郎。
ふっ、そんなに熱いところ、お前にもあったのかよ、凛太郎・・・。
お前の知らないところがまだあったん・・・いや、違うよな、成長しているんだよなぁ。
これからも、成長して俺も凛太郎自身も知らない凛太郎になっていくんだろうな。
(まっ、最後までは・・・見届けられないか。どっちにしたって、親の方が先に死ぬってもんだ)
ありがとうな、凛太郎。
俺と千尋のところに生まれてきてくれて。
こんな不甲斐ない俺を庇ってくれるような優しい奴になってくれて。
でもな、お前みたいな優しい奴が簡単に敵を作っちゃいけないよ。死に行く俺なんかのために・・・。
俺は凛太郎に寄りかかるのを止めて、自分の足で立つ。
「皆さん、すいません。息子が暴言を吐きました。許してください」
俺は姿勢よく頭を下げる。そして、「勝者」として仁王立ちをする。
「こいつは俺の自慢の最高の息子なんです。家族想いの優しい奴なんです。でも、未熟です。一時の感情に流されてしまうこともあります。そういうことは後悔するって、おれ・・・私が教えておくべきでした。親失格です」
「違うよ!」
歯がゆそうな顔をする凛太郎を俺は手で制す。
ごめんな、凛太郎。
でもここが俺の見栄の張りどころなんだ。
「私がもっと教えてやりたい・・・けれど、時間がなかったんです。そして、もうその時間もありません。私、余命あとわずかみたいなんですわ、ははっ。皆さん、どうか暖かくこいつを見守ってあげてください。親馬鹿なだけじゃないんと思うんです。こいつは将棋界を背負って立つ人間なんです。この場のお越しの記者の皆さんにも、皆さんの書いた記事を読む将棋ファンの人にも俺の自慢の息子知ってほしい、けれど、気にしすぎるところもあるからのびのびと皆さんに育ててほしいと、この場をお借りして、そう最後にお願いしたいです。破ったら、呪っちゃうぞ、なんっちゃって。こほっごほっ」
記者も最初は固まっていたが、ペンを走らせたり、ボイスレコーダーのスイッチを押したりしている。
そして、一人の記者が手を上げて、声を出す。
「アルファ新聞の笹塚です。インタビューはこのままさせてもらってよろしいでしょうか」
「おい、なに言ってんだよ」
隣の記者に肘打ちされる。
「どうぞぉ、なんたって。私にとってもこんな最初の最後の晴れ舞台ないですからねぇ。こちらこそ、よろしくお願いしますよぉ。ただ、ビデオカメラとかはいいですけど、カメラは、具合悪くなるんでNGで・・・お願い・・・しますっ」
「ありがとうございます」
笹塚さんはボイスレコーダーを俺に向けながら尋ねる。
「今回、プロとして息子さんとの初対局でしたが、どういった思いでこの場に挑みましたか」
ちらっと、凛太郎を見る。肩に腕を回す。
「楽しみでした。棋士として、父として息子が、同じ道の、それもプロになった。それも神童なんて言われている。嬉しくて仕方ない。わくわくして、そして、父として、先輩棋士として相応しい対局をしようと研鑽を積みました。そして、父として彼のファンとして、彼よりも彼を知る存在だったからこそ、勝てたのだと思います」
「これで、凛太郎君の連勝記録が止まってしまいましたが、それについてはどうですか」
「将棋界は甘くない。それは、凡才の俺だからよくわかっている。連勝はいつか止まるし、毎年、毎年、凄い才能がこの世界に入ってくるんだ。こいつ以上の天才が生まれて来るとも限らない。そうであるのであれば、そこに拘って小さくまとまってほしくない。そのあとのプロ生活に影響を考えれば、今回の勝負は私にとって負けられない戦いでした。なので、私が勝負の厳しさを教えてやりたいと思ったのが、半分」
凛太郎をまた見る。少し拗ねているような顔をしているが、俺の後ろに回した腕は生意気にもいつでも支えられるように力が入っている。
「…あと半分は?」
「私も男です。そして、棋士です。普段、ぼこぼこにされてる分、大舞台で見返してやりたい、止めたらかっこいいなと思って対局に臨みました。だって、プロになったのだから、盤上では当然一人前扱い、そして、同じく将棋のトップを狙う、仲間であり、ライバルですから」
「最後に、次はいよいよ竜王との対局ですが、意気込みを」
「死力を尽くして臨みます。それだけです」
「ありがとうございました」
「では・・・天堂凛太郎四段のインタビューは・・・」
「この場でいいです。ただ、この人は先に帰してもいいですか」
「大丈夫か」
「大丈夫に決まっているだろ。僕も・・・一人前のプロなんだから」
凛太郎は照れ臭そうだったが、頼もしく思った。
「そうだな」
凛太郎はもう大丈夫だ。
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