【完結】遺手(いしゅ)~その一手は何を見せるか~ 将棋を通した父と子の物語

西東友一

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12話 負けられない戦い

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 部屋の外にいた千尋がさっと俺の傍に来て、肩を貸してくれた。

 そして、金山先生も外で待ち構えていて、「ようやった」と言って俺の肩をぽんぽんっと叩いて、千尋の反対側で肩を貸してくれた。

「師匠、泣いているんですか」

「・・・バカタレ」

 金山先生はそっぽを向いて、俺の反対側を向いた。

「あなた、タクシー待たせているから」

「あぁ・・・でも、竜王戦の・・・」

「あほか、今日はちゃんと休め」

「はい」

 ゆっくりとタクシーに乗り込む。
 本当にあの場所に全身全霊を残してきてしまったように、今の俺は抜け殻のようだ。
 
 あの最高の舞台こそ俺がいるべき場所のような気がした。

 タクシーの中で、千尋に頼んでスマホで凛太郎のインタビューを見ようとするが、「気持ち悪くなって吐いたらどうすんの」と言われて、音だけ聞かせてもらうことにした。
 目を閉じると、先ほどの記者たちに囲まれた凛太郎の姿が想像できた。

「まず、今回は親子対決となりましたが、緊張されましたか」

「いえ、緊張はしませんでした。でも・・・いつもふざけている、父の気迫とのギャップには少し戸惑いました、はい」

「連勝記録がストップしてしまいまいたが、それについてはいかがでしょうか」

 間が・・・長すぎじゃないか?
 俺は目を開けてスマホを見る。電波が悪いわけではないようだ。

「おいおい・・・引きずってるのかよ」

「いいから、聞いてなさい。ちゃんと、あの子も成長しているんだから」

「凛太郎さん?大丈夫ですか?」

 インタビュアーがゆっくりした声で優しく話しかける。

「はい、すいません」

 凛太郎はふーっと、息を吐いて呼吸を整える。

「俺は負けたくありませんでした。とても・・・悔しいです」
 
凛太郎はうっすら涙を浮かべる。

「父は僕もいつかは負けると口を酸っぱくして言っていましたが、僕は負けたくなかった。ずーっと、勝ち続けていたかった・・・勝ち続けられることを証明したかったんです」

「証明というのは?」

「ドクターは病気に降伏しました。そして父さんも。父さんはプロとして僕と対局できる今日を目標に生きると、そう言っていました。ふざけるなと思いました。そんな簡単に人生を諦めて欲しくなかった。難しかったとしても。だから・・・難しいとしても勝ち続けることができるっていうこと証明して、父さんに伝えようと思ってきました、ここに。でも・・・」
 
 その後、凛太郎は泣き続けてしまい、インタビュアーが慰めの言葉を伝えてまとめてくれた。

「千尋・・・伝えていたのか・・・?」

 タクシーの窓の外を見ながら俺は隣にいる千尋に尋ねる。

「どうだった、私達の自慢の息子のインタビューは?」
 
 千尋が尋ね返してくる。

「まだまだだな・・・インタビュアーが困ってるし、泣いて話をまとめられないなんてな・・・」

「そう」

「だが・・・最高のインタビューだ」

 俺は子どもみたいに泣きじゃくった。
 体力もほとんど残っていなかったけれど、体力を振り絞るくらいに泣いた。

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