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本編
58話 夜空の月は目を瞑る
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「はぁ・・・」
私はベランダから月を見ながら、ため息をついた。
「あんなお父様・・・初めて見たなぁ」
昼間より涼しい夜風は心地が良かったけれど、同時に寂しさも感じた。
「月がきれいですね」
私が振り向くと、クリスがいた。
「となり、いいかな?」
私が彼の言葉に頷くと、クリスは私の隣で夜空を眺めるので、私も夜空を見る。
「星の名前を知っているかい?」
私がクリスの顔を見ると、クリスが横目で私を見ていて、夜空に指をさす。
「あれが、月」
「・・・もうっ」
私は心の中でツッコミを入れながら、隣にいたクリスの腕のあたりに寄りかかる様な形で自分の肩を軽くぶつける。
「ごめん、ごめん。じゃああれは知っているかい?」
「それは―――」
私が答えたり、クリスが答えたりしながら、私たちは星を見ていた。
彼は星座にまつわる神話などを話してくれた。
「あっ、流れ星」
スーーッと、夜空にメスを入れたように線が描かれた。
「何かお願いしたかい?」
「クリスに教えてたら、消えちゃってた」
「それは残念だったね」
夜空を再び見上げる。
クリスと話していたらあっという間だったけれど、月の位置はいつの間にか動いており、大分時間が経っているのだろう。でも―――
「こんなに話をしていても、夜空には星が輝いていて語りきれないね」
「ええ、そうね」
どうやら、クリスも同じことを考えていたようだ。
今日と言う日もあっという間に過ぎてしまった。
クリスといると時間がいくらあっても足りない。
「まだ、語りきれないな」
「でも、そろそろ寝ないとね。身体に障るよ?」
私の身体を心配してくれるクリス。
お父様が許してくれなければ、こんなクリス話せる時間ももうわずか。
身分を考えれば、二度と会えないかもしれない。
こんな片田舎の貴族なんて、軽々しく自分の国王にすら会えないのだから、他国、それも大王国のマクベスの第一王子のクリスに会おうとなんて、無理に等しい。
行くとなったら、クリスや七聖剣のみなさんと一緒でなければ。
うちも自慢じゃないが旅行に行くくらいの蓄えはあると思っている。それだけ、私たちの領地は交通のアクセスは悪いけれど、資源が豊富だし、技術力もある。
けれど、長旅をするうえで圧倒的に足りないものがある。
それは、軍事力。
まぁ、私だけ行くということであれば、武力かもしれない。
私が長旅をするには、盗賊や獣などから守ってくれる護衛が必要になるけれど、私たちの領地に適任者は0なのだ。
領主はある程度、他の領地からの侵略や、圧迫外交などに備えて、武力や軍事力を抱えるものだけれど、うちはみんな争いを好まないから、剣術を習う道場の類は一切ない。領主であるお父様もみんなが求めていないことを無理してお願いするのをためらっていた。
他の領主からすれば、「軍事力や武力を持たないなど無能だ」とかお父様が言われることもあったみたいだけれど、お父様は領民の気持ちをまず尊重した。だから、こんなにもやりたいことを頑張れる領地になったと私は思っているし、お父様のことをとても尊敬している。
―――尊敬している
だから、逆らいたくなどない。けど―――
「ねぇ、クリス―――私を攫って?」
一国の王子にこんなことを言う私は悪女なのかもしれない。
太陽の下でなら、こんなことは言えなかったかもしれないけれど、今出ているお月様は雲がかかり、まるで私の罪に目を瞑ってくれるようだった。
fin
私はベランダから月を見ながら、ため息をついた。
「あんなお父様・・・初めて見たなぁ」
昼間より涼しい夜風は心地が良かったけれど、同時に寂しさも感じた。
「月がきれいですね」
私が振り向くと、クリスがいた。
「となり、いいかな?」
私が彼の言葉に頷くと、クリスは私の隣で夜空を眺めるので、私も夜空を見る。
「星の名前を知っているかい?」
私がクリスの顔を見ると、クリスが横目で私を見ていて、夜空に指をさす。
「あれが、月」
「・・・もうっ」
私は心の中でツッコミを入れながら、隣にいたクリスの腕のあたりに寄りかかる様な形で自分の肩を軽くぶつける。
「ごめん、ごめん。じゃああれは知っているかい?」
「それは―――」
私が答えたり、クリスが答えたりしながら、私たちは星を見ていた。
彼は星座にまつわる神話などを話してくれた。
「あっ、流れ星」
スーーッと、夜空にメスを入れたように線が描かれた。
「何かお願いしたかい?」
「クリスに教えてたら、消えちゃってた」
「それは残念だったね」
夜空を再び見上げる。
クリスと話していたらあっという間だったけれど、月の位置はいつの間にか動いており、大分時間が経っているのだろう。でも―――
「こんなに話をしていても、夜空には星が輝いていて語りきれないね」
「ええ、そうね」
どうやら、クリスも同じことを考えていたようだ。
今日と言う日もあっという間に過ぎてしまった。
クリスといると時間がいくらあっても足りない。
「まだ、語りきれないな」
「でも、そろそろ寝ないとね。身体に障るよ?」
私の身体を心配してくれるクリス。
お父様が許してくれなければ、こんなクリス話せる時間ももうわずか。
身分を考えれば、二度と会えないかもしれない。
こんな片田舎の貴族なんて、軽々しく自分の国王にすら会えないのだから、他国、それも大王国のマクベスの第一王子のクリスに会おうとなんて、無理に等しい。
行くとなったら、クリスや七聖剣のみなさんと一緒でなければ。
うちも自慢じゃないが旅行に行くくらいの蓄えはあると思っている。それだけ、私たちの領地は交通のアクセスは悪いけれど、資源が豊富だし、技術力もある。
けれど、長旅をするうえで圧倒的に足りないものがある。
それは、軍事力。
まぁ、私だけ行くということであれば、武力かもしれない。
私が長旅をするには、盗賊や獣などから守ってくれる護衛が必要になるけれど、私たちの領地に適任者は0なのだ。
領主はある程度、他の領地からの侵略や、圧迫外交などに備えて、武力や軍事力を抱えるものだけれど、うちはみんな争いを好まないから、剣術を習う道場の類は一切ない。領主であるお父様もみんなが求めていないことを無理してお願いするのをためらっていた。
他の領主からすれば、「軍事力や武力を持たないなど無能だ」とかお父様が言われることもあったみたいだけれど、お父様は領民の気持ちをまず尊重した。だから、こんなにもやりたいことを頑張れる領地になったと私は思っているし、お父様のことをとても尊敬している。
―――尊敬している
だから、逆らいたくなどない。けど―――
「ねぇ、クリス―――私を攫って?」
一国の王子にこんなことを言う私は悪女なのかもしれない。
太陽の下でなら、こんなことは言えなかったかもしれないけれど、今出ているお月様は雲がかかり、まるで私の罪に目を瞑ってくれるようだった。
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