【完結】浮気症の辺境王子に婚約破棄されたけれど、一途な中央国家の王子に好かれた話

西東友一

文字の大きさ
59 / 59
本編

58話 夜空の月は目を瞑る

しおりを挟む
「はぁ・・・」

 私はベランダから月を見ながら、ため息をついた。

「あんなお父様・・・初めて見たなぁ」

 昼間より涼しい夜風は心地が良かったけれど、同時に寂しさも感じた。

「月がきれいですね」

 私が振り向くと、クリスがいた。

「となり、いいかな?」

 私が彼の言葉に頷くと、クリスは私の隣で夜空を眺めるので、私も夜空を見る。

「星の名前を知っているかい?」

 私がクリスの顔を見ると、クリスが横目で私を見ていて、夜空に指をさす。

「あれが、月」

「・・・もうっ」

 私は心の中でツッコミを入れながら、隣にいたクリスの腕のあたりに寄りかかる様な形で自分の肩を軽くぶつける。

「ごめん、ごめん。じゃああれは知っているかい?」

「それは―――」

 私が答えたり、クリスが答えたりしながら、私たちは星を見ていた。
 彼は星座にまつわる神話などを話してくれた。



「あっ、流れ星」



 スーーッと、夜空にメスを入れたように線が描かれた。

「何かお願いしたかい?」

「クリスに教えてたら、消えちゃってた」

「それは残念だったね」

 夜空を再び見上げる。
 クリスと話していたらあっという間だったけれど、月の位置はいつの間にか動いており、大分時間が経っているのだろう。でも―――

「こんなに話をしていても、夜空には星が輝いていて語りきれないね」
 
「ええ、そうね」

 どうやら、クリスも同じことを考えていたようだ。
 今日と言う日もあっという間に過ぎてしまった。
 クリスといると時間がいくらあっても足りない。

「まだ、語りきれないな」

「でも、そろそろ寝ないとね。身体に障るよ?」
 
 私の身体を心配してくれるクリス。
 お父様が許してくれなければ、こんなクリス話せる時間ももうわずか。

 身分を考えれば、二度と会えないかもしれない。
 こんな片田舎の貴族なんて、軽々しく自分の国王にすら会えないのだから、他国、それも大王国のマクベスの第一王子のクリスに会おうとなんて、無理に等しい。

 行くとなったら、クリスや七聖剣のみなさんと一緒でなければ。
 
 うちも自慢じゃないが旅行に行くくらいの蓄えはあると思っている。それだけ、私たちの領地は交通のアクセスは悪いけれど、資源が豊富だし、技術力もある。

 けれど、長旅をするうえで圧倒的に足りないものがある。
 それは、軍事力。

 まぁ、私だけ行くということであれば、武力かもしれない。
 私が長旅をするには、盗賊や獣などから守ってくれる護衛が必要になるけれど、私たちの領地に適任者は0なのだ。
 
 領主はある程度、他の領地からの侵略や、圧迫外交などに備えて、武力や軍事力を抱えるものだけれど、うちはみんな争いを好まないから、剣術を習う道場の類は一切ない。領主であるお父様もみんなが求めていないことを無理してお願いするのをためらっていた。

 他の領主からすれば、「軍事力や武力を持たないなど無能だ」とかお父様が言われることもあったみたいだけれど、お父様は領民の気持ちをまず尊重した。だから、こんなにもやりたいことを頑張れる領地になったと私は思っているし、お父様のことをとても尊敬している。

 ―――尊敬している

 だから、逆らいたくなどない。けど―――

「ねぇ、クリス―――私を攫って?」

 一国の王子にこんなことを言う私は悪女なのかもしれない。
 太陽の下でなら、こんなことは言えなかったかもしれないけれど、今出ているお月様は雲がかかり、まるで私の罪に目を瞑ってくれるようだった。

 fin
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

セリ
2021.07.06 セリ

52話のタイトル、『幸せは自身がない人…』は、『自身』ではなく、『自信』ではないでしょうか?敢えての『自身』だったならすみません。

2021.07.07 西東友一

セリ様。ご報告ありがとうございます。
場所まで教えてくれるご配慮・・・本当に心が温かくなります。
小石が転がっている道路でご不便おかけしますが、
セリ様の貴重な時間が幸せなものになることをお祈りしています。

解除

あなたにおすすめの小説

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜

咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。 もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。 一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…? ※これはかなり人を選ぶ作品です。 感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。 それでも大丈夫って方は、ぜひ。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

「無能な妻」と蔑まれた令嬢は、離婚後に隣国の王子に溺愛されました。

腐ったバナナ
恋愛
公爵令嬢アリアンナは、魔力を持たないという理由で、夫である侯爵エドガーから無能な妻と蔑まれる日々を送っていた。 魔力至上主義の貴族社会で価値を見いだされないことに絶望したアリアンナは、ついに離婚を決断。 多額の慰謝料と引き換えに、無能な妻という足枷を捨て、自由な平民として辺境へと旅立つ。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。