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「ごちそうさま」
間宮楓、17歳はそう言って、席を立ち、階段を登っていく。
「なぁっ、楓・・・」
自分の部屋まであと5歩くらいの廊下で振り返ると、気まずそうな顔をした兄、間宮慎一がいた。
(8歳も年上なのに・・・)
「だっさっ」
気まずいなら話かけなければいい。
そんなこともわからない兄のことが腹が立った楓は前を向いて、自分の部屋へと入って行ってしまった。
そんな姿をただただ見送った慎一は仕方なく、リビングへと戻っていく。
「どう?伝えられた?」
母親が食卓を拭きながら、慎一に尋ねる。
「伝えられなかった」
どかっと、ソファーに座って頭を抱える慎一を見て、母親はクスクスっと笑う。
「大丈夫よ、ちゃんと伝えればわかってくれるわ」
半信半疑の慎一は、ため息をつきながら天井を見ながら、8歳下の妹の楓と話した内容を思い出すが、「邪魔」「死ね」「消えろ」などの単語のみで会話もほぼ成立しておらず、しかも暴言しかなかったことを思い出して、再び下を向いて肩を落とした。
「なぁ、母さんから言ってくれよ」
体勢を直して、前のめりになりながら、慎一が洗い物を始める母親の背中を見る。
「だーめ。もう一人前でしょ。それに、養う家族もできたんだから」
母親は洗い物をしながら、顔だけ少し振り向きながらそう慎一に伝える。すると、慎一は自分の左手の甲や指を見ながら、
「まぁ・・・そうだけど・・・」
と答えた。その歯切れの悪さに母親が再び笑う。
「でも、あいつ。俺のことなんて聞きたくないんじゃないかな?」
「じゃあ、結婚式に呼ばないつもり?」
「いや・・・それはないけど・・・さっ」
「でしょ。早苗さんだって、妹ができるって喜んでいたじゃない。あんたが、ちゃんと橋渡ししないと」
慎一はスマホをポケットから取り出す。待ち受け画面は自分と婚約者の一ノ瀬早苗が映っており、二人とも笑顔で慎一が早苗の肩に手を回して立っている写真だった。この写真は旅行先の恋の岬で、プロポーズした後撮った写真で、慎一にとって大切な思い出だ。慎一は早苗の笑顔を見て元気をもらいつつ、プロポーズした緊張に比べれば、妹の楓に結婚報告する方が簡単だと自分に言い聞かせる。
「よしっ」
「頑張って」
「明日、言うわ」
そう言って、テーブルにあったリモコンを手に取ってテレビを見始める慎一。テレビの音が聞こえて少し呆れながら、母親は洗い物を続ける。
そんな二人のやり取りなど知らない楓は音楽を聴きながら、宿題をやるために開いたノートに少しだけ問題を解いたのち、飽きてしまって落書きをしていた。
「きゃわ・・・いいなぁ・・・っ」
ひたすら枠外に自分がかわいいと思うハートを描いて描いて描いて・・・。ハートで埋め尽くされたノートの枠外を見て、満足そうにそう呟いた。
間宮楓、17歳はそう言って、席を立ち、階段を登っていく。
「なぁっ、楓・・・」
自分の部屋まであと5歩くらいの廊下で振り返ると、気まずそうな顔をした兄、間宮慎一がいた。
(8歳も年上なのに・・・)
「だっさっ」
気まずいなら話かけなければいい。
そんなこともわからない兄のことが腹が立った楓は前を向いて、自分の部屋へと入って行ってしまった。
そんな姿をただただ見送った慎一は仕方なく、リビングへと戻っていく。
「どう?伝えられた?」
母親が食卓を拭きながら、慎一に尋ねる。
「伝えられなかった」
どかっと、ソファーに座って頭を抱える慎一を見て、母親はクスクスっと笑う。
「大丈夫よ、ちゃんと伝えればわかってくれるわ」
半信半疑の慎一は、ため息をつきながら天井を見ながら、8歳下の妹の楓と話した内容を思い出すが、「邪魔」「死ね」「消えろ」などの単語のみで会話もほぼ成立しておらず、しかも暴言しかなかったことを思い出して、再び下を向いて肩を落とした。
「なぁ、母さんから言ってくれよ」
体勢を直して、前のめりになりながら、慎一が洗い物を始める母親の背中を見る。
「だーめ。もう一人前でしょ。それに、養う家族もできたんだから」
母親は洗い物をしながら、顔だけ少し振り向きながらそう慎一に伝える。すると、慎一は自分の左手の甲や指を見ながら、
「まぁ・・・そうだけど・・・」
と答えた。その歯切れの悪さに母親が再び笑う。
「でも、あいつ。俺のことなんて聞きたくないんじゃないかな?」
「じゃあ、結婚式に呼ばないつもり?」
「いや・・・それはないけど・・・さっ」
「でしょ。早苗さんだって、妹ができるって喜んでいたじゃない。あんたが、ちゃんと橋渡ししないと」
慎一はスマホをポケットから取り出す。待ち受け画面は自分と婚約者の一ノ瀬早苗が映っており、二人とも笑顔で慎一が早苗の肩に手を回して立っている写真だった。この写真は旅行先の恋の岬で、プロポーズした後撮った写真で、慎一にとって大切な思い出だ。慎一は早苗の笑顔を見て元気をもらいつつ、プロポーズした緊張に比べれば、妹の楓に結婚報告する方が簡単だと自分に言い聞かせる。
「よしっ」
「頑張って」
「明日、言うわ」
そう言って、テーブルにあったリモコンを手に取ってテレビを見始める慎一。テレビの音が聞こえて少し呆れながら、母親は洗い物を続ける。
そんな二人のやり取りなど知らない楓は音楽を聴きながら、宿題をやるために開いたノートに少しだけ問題を解いたのち、飽きてしまって落書きをしていた。
「きゃわ・・・いいなぁ・・・っ」
ひたすら枠外に自分がかわいいと思うハートを描いて描いて描いて・・・。ハートで埋め尽くされたノートの枠外を見て、満足そうにそう呟いた。
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