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「よしっ、頑張るぞっ」

 朝一番、清々しい空気の中、私はメイドの格好をして、竹ぼうきを手にして庭園に来た。

「うーん、久しぶりに見たけれど、立派な庭園ね」

 私はあたりを見渡す。この国に来てからまだ雨は降っていない。
 梅雨に入っていた私の国とこの国は気候が違うのだろう。

「スーーー・・・ハァーーーッ、スーーー」

 私は深呼吸をする。
 雨には嫌な記憶ばかりだったし、この綺麗な空気を吸っていれば私は立ち直れる気がする。
 だから、食事の後リチャードに改めてお願いして仕事をもらった。

 あの後も頑なにリチャードは拒んでいたけれど、私が試しにメイド服に着替えると―――

「・・・いい、すごい・・・いい」

 と言って、OKしてくれた。なので、メイド服は恥ずかしかったけれど、仕方なく着ることになった。

「じゃあ、ボクの身の回りの世話をお願いしようかなっ!?」

 と、リチャードはちょっと変なスイッチが入ったようだったので、

「・・・えっちっ」

 と伝えたら、

 ガビーーーンッ

 とショックを受けた顔をしていていた。普通にしていると紳士的でイケメン過ぎて、どこの王子様だよっという感じで、緊張してしまうけれど、昔のような子どもっぽいところを見ると安心する。

「ふふっ、頑張らないと」

 掃除をする前に周りを確認すると、この庭園はどうやらバロック様式の庭園のようだ。
 自然を幾何学に当てはめて、人のイメージに沿って計算された直線美や、曲線美、そして黄金比はとてもきれいで、それでいてかっこいい。

「さっ、やりましょっと」

 サッサッサッ―――

 私が落ち葉を掃いていると、3人組のメイドがあくびをしながらやってきた。

「おはようございますっ!!」

 一応は貴族の身分だけれど、財産は何一つなく、あるのはこの身体だけ。
 仕事を教わる先輩方にしっかりと挨拶から入ろうと思った私は、深々と頭を下げる。

「「・・・おはよう」」

 両隣の二人は私に挨拶を返してくれたが、真ん中のメイドは、

「あっちからやりましょ」

 と言って、私とは反対方向に二人を連れて行ってしまった。
 私は勝手に始めていたけれど、掃除の順序があるかもしれないので、私は彼女たちのところへ歩み寄った。

「あの・・・」

「あら?あちらはまだ終わってないのではないかしら?アリア『様』」

 リーダ格のようなメイドさん・・・確か名前は・・・。

「フロリアさん・・・いや、フロリア様」

「貴族の方に『様』呼びされれば、ご主人様に怒られます。ご容赦ください」

 言葉とは裏腹に冷めた塩対応のフロリア。
 イヤな風が流れた。

 天気は晴れているのに、雨のにおいがした。


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