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「仕事が欲しいだって?」

 私の発言に食べようとしていたお肉が刺さったフォークを止めて、驚くリチャード。

「ええ、こんなおもてなしだけされても私は何も返せないもの。だから、居候をしている分働かせてほしいの」

「いいや、ダメだ」

 お肉を口に含んで、モグモグしながら、フォークとナイフをお皿の上に置き、目を閉じて腕を組むリチャード。プイっと明後日の方向を向いてしまう。

「えっ、なんでよ?働くのは貴方にとってだってメリットのあることでしょ?」

 私もフォークとナイフをお皿の上に置いて尋ねる。

「いいや、だめだ。客人に労働をさせるなんて、王子として器が問われる」

 貴族の女である私にはわからない理屈。そう言えば、そんなようなことをお父様も言っていたような、いなかったような・・・。それでも。

「私はお客じゃないわ、リチャード。あなたの幼馴染で、旧友。そうでしょ?」

「旧友・・・」

 リチャードは肩を落とした。

「あぁ、ごめんなさい。窮地を助けてくれたのにそんな言い方はなかったわ。親友よね」

「あはは・・・っ」

 リチャードは苦笑いをしていた。どうやら、旧友という言い方がお気に召さなかったらしい。これは私の失言だ。

「あと・・・すっかり甘えていましたけれど、リチャード王子。お伝えしたいことがあります」

 私が背筋を伸ばして、彼を真っすぐ見ると、彼は急いで口を拭き、襟を整えて、私と同じように背筋を伸ばす。

「なんだい?」

 ニコっと笑うリチャード。

「この度は私の窮地を救ってくださり、誠にありがとうございました」

 私は頭を深々と下げる。
 そして、ゆっくりと顔を上げて再びリチャードを見る。

「そして・・・父や母の死を悼むためお越しいただいたのにも関わらず、墓前にも案内できなかったことは、私の不徳の致すところでございます。無力な私をお許しくださいませ。本当に申し訳ございませんでした」

 再びリチャードに頭を下げる。
 久しぶりに食べた栄養がある物たちが涙と一緒にこみ上げそうになるけれど、必死に抑える。
 ここで泣くことは、レイナス家の娘として家名を汚すことだ。

(もう、レイナス家は・・・私しかいないのだから。私がしっかりしないと)

 リチャードが優しいのも知っているし、リチャードにはリチャードのメンツがあるかもしれないが、私はお父様やお母様が誇れる娘であるためにも、泊めてもらうにしても仕事はさせてもらおうと決心していた。

「もう・・・顔をあげてくれるかい?アリア」

 私は再びゆっくりと顔を上げる。

(大丈夫、今回は泣かないでいられたよ?お父様、お母様)

 泣かないことで少し強くなれた自分。
 けれど、泣かないことで少しお父様とお母様への想いが薄れた気がして、寂しくて、自分が薄情だとも自責の念にかられた。

「もし、感謝をしているなら・・・しっかり美味しく食べてほしい・・・かな。ボクは農家や牧場のみなさん、そして動植物の命を無駄にはしたくないから。これは、命令だよ?」

 リチャードも無理をして笑いながら言ってくれた。リチャードは本人が言っていたように、間に合わなかった自責の念があり、それを言うとまた私が泣いてしまうのをわかって、抑えてくれたようだった。私はリチャードに、しっかり食べて強く生きろと背中を押された気がした。

「うんっ」

 私はフォークとナイフを持って、食事を勧める。

 モグモグモグッ

「うん、美味しいっ。これも、これもっ」

 私はほおばるように口に食事を運んでいく。

「あーーっ、美味しくて・・・涙が出ちゃうなぁ・・・。あぁ、おいしいや」

 ご飯もリチャードの優しさも、私のボロボロの身体と心に染みこんでいった。

 


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