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「じゃあ、私もアリアって呼んで。そしてたら、私も・・・」

「いいえ、結構です。アリア『様』。あと、アリア『様』はさきほどのところを済ませてくださいます?」

 フロリアは笑顔だ。
 けれど、その薄っぺらい笑顔は明らかに私を拒絶していた。

「うん、ごめんね。フロリアさん。じゃあ、あっち頑張ってきますね」

 私が背中を向けると、フロリアは私に聞こえるくらいの大きさで話し出す。

「ふんっ、両親が亡くなったって言うのにヘラヘラ、ヘラヘラ笑って信じらんなーいっ。その上、他国の王子に媚び使ってもぐりこんで、もしかしたらスパイかもしれないから気を付けましょうね?アンネ、ティーナ?」

 背中から槍で心臓を一突きされた。

 そんな気持ちになった。
 なんとか、塞いだ私の心の傷は簡単に壊れ、羞恥心と自責の念が自らを壊していく。

(仕事を・・・しなきゃ・・・)

「あら、雨よ。二人とも帰りましょ」

 フロリアたちの足音は王宮へと向かっていく。
 当然のように私へかける言葉はない。

「私だって・・・」

 後ろを見ているだけをリチャードは許してくれる。
 けれど、そんなのは余裕がある人がやること。
 私は富を全て失ったのだから、前を向かなくてはならない・・・と思っている。

(でも・・・フロリアさんの言う通り・・・私は私を・・・許せない)

 私は走った。
 小雨が降っていたけれど、走った。
 
(あの時、こうして走って逃げるべきだったのよ)

 エドワードが家に押しかけてきて、私を追い出した時に逃げ出していれば良かったのだ。

「あっ、ちょっとっ」

 門番が私を引き留めようとする。
 外からの侵入者であれば、門番も必死に止めたかもしれない。しかし、中から出てきた人間だったことと、運よく私が門から出ようとするタイミングに丁度外からの来客者があったため、私が走り去っても追ってはこなかった。

「あれは・・・」

 来客者も何かを言っていた気がするけれど、私は無我夢中で走った。
 悲しさや辛さからも、そして優しさからも逃げたかった。

(帰ろう・・・お父様とお母様の元へ)

 人間の足、しかも私の足でこの国から自分の国にかえるなんて無理に近い。
 けれど、その過程で死ぬとしても私には悔いがなかった。

 できるものならエドワードに復讐をしたい。
 けれど、私には腕の力はもちろん、王子である彼を倒す軍を率いる権力も財力もない。なんなら、これから一人で生きていけるかもわからないのだ。王子への復習などできないことをずーっと考えていられるほど私は強くはない。

 人並みの幸せ。
 それすらも、両親を無くした私には難しいかもしれない。でも、いい。自分で手に入る分だけの幸せを大事にしながら生きていこうと思っていた。でも、それもフロリアが言うようにおこがましいことかもしれない。

 だから、私は走るしかなかった。
 何もかもから逃げるために。


 
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