料理が下手だから婚約破棄ですか…。じゃあ、慰謝料で美味しい物でも食べに行こうと思ったら…そうなっちゃいますか(笑)

西東友一

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「はっ?」

 私は目を疑った。

「んでさ…っ」

「ふふふっ」

 私がカケルの家から帰る途中、婚約中のカケルが知らない茶髪の女と腕を組みながら、バーから出てきたのだ。そして、カケルの家の方角ではなく、その反対側。つまり私が向かう側に行こうとしている。普通に2件目へ行こうとしている感じだ。

「ちょっとっ!!」

 私はヒールで転ばないように気を付けつつも、走ってカケルとよくわからない女に追いつく。

「あ~ん?」

 面倒くさそうな顔をして、カケルが振り返る。女の方もだるそうに下を向きながら、スマホを弄り、髪を弄った。

「腕なんか組んで…これっ、どういうことよ?」

 私が血相を変えて問い詰めると、カケルは私の気持ちの半分も理解しないような顔をして、ようやく身体をこちらに向ける。

「外食するって言っただろう?」

「えーこの人がさっき言ってた人?」

 隣の女が私を見定めるような、それでいて見下すような顔で見てくる。

「しーーーっ」

 酔っているのもあるのだろうが、カケルは頬を少し赤らめ、目をとろんとさせながら、子どもっぽい感じで人差し指を口の前で立てる。

「ねぇ…私たち結婚するんでしょ?外食はあなたの仕事の糧になると思って我慢してきたけれど、お店の人といるってどういうこと?」

「えー、ひどいー、このおばさん。私のことお店の人とか言うしーーー。私はぷりぷりのおーえるーでーすっ」

 女の方も酔っているようだったけれど、急にぶりっ子を決め込んできやがった。

「ねーーーっ」

 一番腹立たしいのは、その横で心を許しまくって陽気な感じになっているカケルだ。そんな顔、たまにしか私に見せてくれなかったし、今はその顔が憎くて仕方がない。

「料理ができない人ってこっわーーーい」

 長くて、ラメが入っている爪のその女はそんなことを言ってくる。

(いやいや、なによ、その爪。パンダ、パンダがいるじゃないっ)

 爪は指によって、デザインが変わっており、彼女の右手の人差し指にはパンダが立体的にいらっしゃった。どう考えても私よりも彼女の方が料理に適さない。さすがに「左利き>ネイルアート」の方程式だろう。というか、その女は人為的に美を優先して、料理の才能をないがしろにしている。そんな人に料理の腕で負けたら、本当に料理が嫌いになりそうだ。

「こら、ダメだぞ?内緒って言ったじゃないか?」

「あっ、いっけなーい」

 カケルは子どもを叱る親のクソ寒い三文芝居をして、女の方も、私にネイルアートの全部を見せたいんじゃないかと言う感じで、口のあたりで指を全開に開いて、ネイルを見せて来た。

 カケルもかっこいい系かと思っていたけれど、こんなに寒くてダサい人だと思わなかった。
 ドン引きと苛立ちと嫌悪と…私の気持ちは冷蔵庫で未だに眠っている肉じゃがよりも、冷凍庫で作り置きして眠っている餃子くらい冷め切った。

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