料理が下手だから婚約破棄ですか…。じゃあ、慰謝料で美味しい物でも食べに行こうと思ったら…そうなっちゃいますか(笑)

西東友一

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「いらっしゃいませ、ユリさん」

 私がお店に向かって道を歩いていると、お店の前にミナトさんがいて、私に気づいたミナトさんは駆け足で私の元へとやってきた。身長は高いんだけれど、顔は小さくて、なんだろう。ワンちゃんが主人を見つけて駆け寄ってくるのに似ていて、愛嬌があった。

「こっ、こんばんわ」

 私は深々と頭を下げる。だって、予約がいっぱいのところを無理に調整してくれて、感謝していたからミナトさんだけに走らせるのは申し訳なくて、私も駆け寄りたかったけれど、久しぶりにオシャレをしていつもよりもヒールが高いから走れなかった。

 ニコッ

 私が顔を上げると嬉しそうにしている優しい顔があった。

(いけないっ…)

 その顔に勘違いしてはいけないと自分を律する。
 きっと、あくまでもミナトさんはお客様に対してこうなのだろう。

「あの、ミナトさん。若返りましたね」

「えっ」

 きょとんとするミナトさん。
 自分のきもちをごまかそうとしたら、また余計なことを言ってしまった。

「あぁ、すいません。前にお見掛けしていた時の方が疲れていらっしゃったように見えまして…つい」

「いえいえ、ユリさんにそう言っていただいたのであれば、嬉しいですよ。ただ…」

 口元に手を当てて、目線を伏せるミナトさん。

「ただ?」

「料理の味はもっと成長したつもりです。それと、ユリさんは今日もとてもお綺麗です。さっ、行きましょう」

「えっ、あっはい」

 ミナトさんがさりげなく、手を差し出してくださったので、私は手を添えると、彼は優しく握って店内までエスコートしてくれた。

(あれっ、あれっ…ミナトさんってこんな感じの人だったけ?)

 私のイメージは本当に誠実で優しい頼れるお兄さん、もしくは料理人と言う感じだった。気配りができて、温かく見守ってくれる感じの人だと思ったけれど、今は、というか電話の時から引っ張って行ってくれる異性…そんな感じがした。

(でも、もしかして…こんな外までお迎えに来るなんて、あれ、もしかして、一番弟子からよくも慰謝料をたんまりもらったなっ!!みたいな感じで仕返しにボッタクるとか…)

 少し背中がゾワッとした。
 
「あっ、あの…ミナトさん」

「えっ、なんでしょうか」

 振り返ったミナトさんは少し頬を赤らめていた。
 多分年上だと思うのだけれど、ちょっと少年のようにも感じてしまった。

「この頃、カケルさんと連絡とりました?」

「……とりましたよ」

 私がカケルの名前を出すと一瞬だけミナトさんの手が固くなった。
 私は手の方に目が奪われて、その後ミナトさんの顔をもう一度見ようとすると、ミナトさんは前を向いてしまっていた。どうやら、内容までは話をしてくれない様子だ。私は先ほどの予想が当たるのではないかとも思ったけれど…

 ミナトさんの耳は先ほどより赤い…というより、真っ赤だった。
 多分…大丈夫そうかしら?
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