料理が下手だから婚約破棄ですか…。じゃあ、慰謝料で美味しい物でも食べに行こうと思ったら…そうなっちゃいますか(笑)

西東友一

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(んん~~~っ)

 私は頑張って非日常を味わおうとしていたけれど、杞憂だったようだ。
 私は溶けるように無くなってしまった。アミューズの余韻を楽しみながら、また新鮮の出会いをするために食前酒のグラスを手に取り、香りを楽しんだ後、口に含むと程よい渋みが口をクリアにしてくれた。

 フォアグラのクリームブリュレ。

 濃厚さと口どけの良さが心地よい。
 最初のメニューからこれだけ心を持って行かれるのはとても幸せなことだ。
 そして、何よりいつもだと口うるさいカケルがメニューのどこがいいか尋ねてきたり、それを回答すると否定して、彼の知識を聞かなければならないという作業があったけれど、今日は味の世界から現実に連れ戻すような不届き者はどこにもいない。

(あっ、でも…うん)

 油断すると、どんどんパクパク食べてしまいそうだけれど、ゆっくりと口の中で味わう。コース料理なのだから、慌てても仕方がない。私がゆっくりと味わうと、いいタイミングで先ほどの女性スタッフがお皿を回収してくれて、私が食べ終わった料理に想いを馳せていると次の料理が出てくる。

 オードブル、スープ、ポワゾン…

 オマールエビのサラダやスイートコーンのスープ、ウナギ料理と食べさせていただいて、

「あっ、そっか」

 お肉料理を楽しみにしていると、柚子のシャーベットが出てきた。
 魚中心になれた口を一回リセットしてからお肉料理を迎えに行くのが、フランス料理の面白いところだ。お金持ちの人たちは当たり前だと言うかもしれないけれど、一般人の私にはいつ食べに来ても新鮮なことだ。

(うーん、美味しいっ)

 当然、御口直しだと言っても、シャーベットにもこだわっているので、果肉も散りばめられており、ほどよい甘みと果実の旨味が美味しい。下手なお店だと、都会の果物は農薬のせいなのか、果実に後味の悪い苦みがあるのだが、ここのシャーベットはとても食べやすかった。

「こちらが……」

 メインディッシュの登場だ。
 お姉さんには申し訳ないけれど、私はもう料理の虜になっていて、最初は緊張もしながら聞いていたけれど、もう目の前の料理のことしか考えられず、産地がどことかどう料理したとか全く耳に入ってこなかった。

「どうぞ、お召し上がりください」

 そう言われると共に、私は順番になっていたフォークとナイフを手に取り、牛肉を切り分けようとする。

(うわっ、柔らかい…っ)

 簡単に切れた牛肉。
 つまりは、噛んだ時も同じはず。柔らかすぎて噛み切りずらいということもないだろうし、固すぎるということもないだろう。

 ゴクッ

 思わず、溢れる唾を飲み込む。
 はしたないと思われても、この宝石のような牛肉を目の前にすれば、他の人だって同じようになるはず。

(いただきますっ)

 私は愛しい牛肉ちゃんをフォークで刺して、自分の口にお出迎えした。


 

 
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