料理が下手だから婚約破棄ですか…。じゃあ、慰謝料で美味しい物でも食べに行こうと思ったら…そうなっちゃいますか(笑)

西東友一

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(あむっ)

 口に含んだ瞬間。
 ソースの甘味と、岩塩の滑らかな塩味が私の口を優しく刺激する。刺激と言ってもまるで、イケメンに背中を優しく撫でられたような感覚だ。私の口は考えるよりも先にお肉を噛んでいた。

(なにこれ~~~っ)

 想像よりも柔らかい食感。それでいて、噛みやすくて、堪能していると口の中から、いつの間にか消えていってしまっている。

(ふ~~~んっ)

 身体は脱力して、安堵の息が漏れる。
 口から広がる幸せは身体全体から緊張を取り払ってくれて、リラックスで満たされる。

(あぁ、来てよかった)

 入口から、なんならミナトさんに出会ってから100%の満足の連続なのだけれど、このお肉は天国へ連れて行ってくれるとでも言えばいいだろうか、150%の満足だ。求めていないぐらいの満足を私に与えてくれた。こんな美味しい物をみんなが食べれば世の中から戦争は無くなるだろう。そして、競争心が無くなってもしかしたら、生産性が無くなり、みんなやる気が無くなってしまうかもしれない。それくらい、このお肉を食べる幸せ以外のことを考えられないくらい圧倒的な幸せだ。

 ただ、その後のバランスも素晴らしい。
 こんな美味しい肉を食べて、現世に戻ってくるには墜落のような急降下しかありえないと思いつつも、ちゃーんとサラダとチーズで段階的に100%の満足に戻してくれて、デザートなどの種類を変えた幸せを提供していただいて、お肉への未練を無くして、愛しいお肉ちゃんとのいい思い出へと気持ちを精算させてくれる。

 ゆっくりと、コーヒーを飲んで、改めて部屋を見渡す。
 都会なのに、まるで別荘に来たような気分。 

(あぁ……幸せ……)

 過去がどんなことがあっても、この場に今、私が居れる幸せを享受する。
 必要だったことかどうかはわからないけれど、大抵のことはどうでもいいや、と思った。

 私はコーヒーを飲み終わり、女性スタッフを呼んで会計をお願いした。
 
「どうでしたか?」

「うわっ」

 まさか、ミナトさんが来るとは思わなかった。

「えっ、えっ、えええっ」

(もしかして、私の予想が的中しちゃったの!?)

 私が入ったのは18時。
 つまりは、他の席には他のお客様がいらっしゃるはずだ。
 それなのにこのお店で一番腕を奮っているはずのミナトさんが来ると言うことはかなり大事なはずだ。

(やっぱり、カケルのこと怒っていらっしゃるのかっ)

「ユリさん、お話が…」

「ごめんなさいっ」

 ミナトさんが何か言うのと同じタイミングで、私は立ち上がり、頭を下げた。


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