料理が下手だから婚約破棄ですか…。じゃあ、慰謝料で美味しい物でも食べに行こうと思ったら…そうなっちゃいますか(笑)

西東友一

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(あれ…?)

 私はここで「残念だったなぁ」と地獄に落とされるのかと思っていたのだけれど、ミナトさんが何も言ってこないので、恐る恐る顔を上げる。

「えっ、ミナトさんっ!?」

 ミナトさんが悲しい顔をしていた。
 泣いているわけではないけれど、それはとっても…。

「申し訳ありません…私も少し……舞い上がってました」

(舞い上がっていた?)

「あの……カケルさんと連絡を取ったんですよね?」

「えぇ、失礼な言い方になってしまうんですが、婚約解消されたんですよね?」

「ええ…まぁ……」

 ちょっと、やっぱり意味がわからない。

(でも……やっぱり、そういう……)

「シェフっ」

 ミナトさんより少し若い、仕事ができそうな料理人がやってきた。多分スー・シェフだろう。

「そろそろ、お願いします」

「あっ……うーん」

 ミナトさんが私とスー・シェフを交互に見て困っている。
 ちょっとかわいい。

「もしよろしければ、私。お仕事が終わるまで…待ちましょうか?」

「本当ですかっ!?」

 嬉しそうに両手を握ってきたミナトさん。
 私は苦笑いしかできない。

「あぁっ、すいません。気持ちがまた舞い上がってしまいまして…」

「でも、この部屋も次のお客様が…」

 スー・シェフが困った顔をする。

「あぁ、全然大丈夫です。終わった頃にまた来ますので。なので、お会計を…」

 なので、私はバックを持ち、バックからお財布を取り出して一度お店から出ようとすると、

「いや、今日はサービスさせてもらうつもりだったので大丈夫です」

 ミナトさんが、私の財布を持った手を押し返す。

「いやいや、ダメです。こんな最高のお料理をいただいてお金を払わないわけにはいきません」

「いや、ユリさんからは貰えません。本当に」

「いやいや」

「いやいや」

「あとにしてくださいっ!!」

 スー・シェフに怒られて、二人でしょぼんとする私とミナトさん。
 横目で見たら目が合って、お互い思わず笑みがこぼれてしまう。

「オッホンッ」

「じゃあ、またあとで…」

「あっ、はい」

 スー・シェフとミナトさんは駆け足で調理場の方まで向かった。
 とりあえず、お金を払わないでお店を出るのはとても気が引けたけれど、この場所も次のお客様が使うということだったので、私はお財布をバックにしまって、部屋を後にした。

 お店を出るまでに他のお客様をお見掛けしたけれど、どなたも一緒に来た方と笑顔が溢れていた。

(ひょうきんなものね…)

 きっと、今日の料理を食べていなければ、私は再び婚約破棄されたことで凹んだかもしれないけれど、今の私は無敵だった。

 ただ、もし……弱点があるとすれば………

 私はワンちゃんみたいに私のところに駆け寄ってきたミナトさんの顔を思い出したら、顔が火照った気がした。
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