【完結】私聖女なんですけど?なんで、私に味方するのが魔王だけなんですか・・・。

西東友一

文字の大きさ
6 / 7

6

しおりを挟む
「はあーっはっはっはっ」

 魔王は元気に笑いながら、私のところ、というか王座へと向かって歩いてくる。

「はっはっはっはっははは・・・・・・っ」

 しかし、階段を登るごとにその笑い声は乾いていき、私も階段を降りて迎えに行く。
 そして、私と魔王は向き合う。
 私の方が身長は小さくて、2段上にいてもまだ彼の方が大きいけれど、いつもより、顔が近い。だから、私は彼の兜を取ってあげる。重たいけれど、彼の大事な頭と顔を守る重要な防具だ。

「よいしょっと・・・。あらあら」

 さっきまで、笑っていたとは思えない男が悲しい顔をして目を伏せていた。

「はいはい、ちょっとごめんなさいね」

 私はハンカチで彼の顔を拭く。
 土やほこりを払ったけれど、乾ききった部分は乾いたハンカチでは全然落ちない。何か水分を含ませないと・・・。そうそうこんな感じで・・・。

 私のハンカチに彼の涙が染み込む。
 私は彼の顔を少しだけ拭いて、

「よしよし、頑張ったね」

 私は彼の頭を撫でた。
 
 本当は褒めていいのかもわからない。
 でも、私は彼を褒めることに決めている。

 彼は元勇者だったそうだ。
 志高く、人々を平和に導こうと頑張った。
 けれど、あとわずかで世の中がみんな幸せになれそうになったところで、人々は喧嘩をしだした。
 
 理由は簡単なことだ。
 平和になった世の中で誰が上に立つのか、下に立つのか。
 彼の知らない所で朝から晩まで口ゲンカが起こり、派閥ができて、武力を伴う争いが起きたそうだ。

 そして、彼のいないところで各地で権力を持った王や貴族は、彼を魔王として敵に祭り上げた。
 巨悪を討った人が悪になるなんてどこかで聞いたことがある話だし、私はだからと言って、復讐をしても誰も幸せになれないなんて、偉そうなことを彼の苦しみの一部を思えば、言うことができなかった。

「やっぱり・・・キミは聖女だ・・・。偉大なる聖女だ・・・」

「そうね・・・、あなたにとっては聖女かもね」

 しかし、権力者から見れば、悪女でしかない。
 私が、彼のところに来てから、聖なる術で食料を確保したり、彼の心の支えになっているのだから、魔王軍の活動は飛躍的に拡大した。

(ねぇ・・・神様、聞こえる?)

 私は目を閉じて、神様を呼ぶ。

『うーむ』

(久しぶりね。神様)

 この頃は聖なる術で話しかけても、食料は与えてくれても、返事は与えてくれていなかった。

(元気そうでよかったわ)

『お主もな・・・』

(ねぇ、私たちは地獄に落ちるのかしら?それとも、この世界の救世主になれるのかしら?)

『それは・・・』

 神様は重い口を動かした。
 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

偽りの呪いで追放された聖女です。辺境で薬屋を開いたら、国一番の不運な王子様に拾われ「幸運の女神」と溺愛されています

黒崎隼人
ファンタジー
「君に触れると、不幸が起きるんだ」――偽りの呪いをかけられ、聖女の座を追われた少女、ルナ。 彼女は正体を隠し、辺境のミモザ村で薬師として静かな暮らしを始める。 ようやく手に入れた穏やかな日々。 しかし、そんな彼女の前に現れたのは、「王国一の不運王子」リオネスだった。 彼が歩けば嵐が起き、彼が触れば物が壊れる。 そんな王子が、なぜか彼女の薬草店の前で派手に転倒し、大怪我を負ってしまう。 「私の呪いのせいです!」と青ざめるルナに、王子は笑った。 「いつものことだから、君のせいじゃないよ」 これは、自分を不幸だと思い込む元聖女と、天性の不運をものともしない王子の、勘違いから始まる癒やしと幸運の物語。 二人が出会う時、本当の奇跡が目を覚ます。 心温まるスローライフ・ラブファンタジー、ここに開幕。

無能な悪役令嬢は静かに暮らしたいだけなのに、超有能な側近たちの勘違いで救国の聖女になってしまいました

黒崎隼人
ファンタジー
乙女ゲームの悪役令嬢イザベラに転生した私の夢は、破滅フラグを回避して「悠々自適なニート生活」を送ること!そのために王太子との婚約を破棄しようとしただけなのに…「疲れたわ」と呟けば政敵が消え、「甘いものが食べたい」と言えば新商品が国を潤し、「虫が嫌」と漏らせば魔物の巣が消滅!? 私は何もしていないのに、超有能な側近たちの暴走(という名の忠誠心)が止まらない!やめて!私は聖女でも策略家でもない、ただの無能な怠け者なのよ!本人の意思とは裏腹に、勘違いで国を救ってしまう悪役令嬢の、全力で何もしない救国ファンタジー、ここに開幕!

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

妹が「この世界って乙女ゲーじゃん!」とかわけのわからないことを言い出した

無色
恋愛
「この世界って乙女ゲーじゃん!」と言い出した、転生者を名乗る妹フェノンは、ゲーム知識を駆使してハーレムを作ろうとするが……彼女が狙った王子アクシオは、姉メイティアの婚約者だった。  静かな姉の中に眠る“狂気”に気付いたとき、フェノンは……

聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!? 元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。

処理中です...