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孤独な旅、歓迎のニアメア王国
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魔王城で一番近い国「ニアメア王国」。
魔王軍からの度重なる攻撃を受けても、国の形を維持できているのは、他国からの支援と防衛線に長けた国民達の成果に他ならない。他国も自分の国の被害を避けるためというのもあるが、支援するのはニアメア家の人徳と交渉術の成果である。
魔王軍ですら、無事では済まない魔力と魔除けを溜めた塀。
いつもであれば、魔王軍も牽制程度にしか攻撃してこないが、今回は動物型の魔物のみで、戦術や損得を考える魔物はおらず、本能のままに暴れる形で魔物たちがニアメア王国に攻め込もうとしている。その魔物の姿を見れば、撤退などはありえず、死ぬまで暴虐を働く魔物と対峙するということは激戦は必至だった。
アレキサンダー王子率いる騎馬隊と、屈強な重装歩兵が最前線へ。
その後ろに目の鋭い男女が弓や杖を構える。
(負傷兵は五百……千……いや、五千………最悪全滅もありうるか)
アレキサンダー王子は遠くから次々と来る魔物を見て、算段を立てようとするが、どんどん押し寄せている魔物の数を見て、嫌な汗を流す。自分の采配が間違えれば、一気に魔物が優勢となり、ニアメア王国を破壊した勢いで、勇者たちが気づくまで他の国も破壊しつくすかもしれない。この国よりも防衛に長けた国はない。つまり、勇者のパーティーが気づくまでいくつかの国が亡びることになる。アレキサンダー王子は勇者がいれば、と頭をよぎる。
(いや、無いものねだりをせずに、勇者がいないことを想定して防衛してきたから我々は今も生きている。そして、これから我々は生きていくのだ)
いつもと違う大軍。
いつもと違う大戦。
相手は多数。
ただ、アレキサンダー王子は目の前の大軍にばかり気を取られ、自軍の陣のはるか後方にいた一人の少女の存在を頭に入れていなかった。アレキサンダー王子は軍を鼓舞し、指示を出すため号令を発する。
「我々には神が付いているっ!! 皆、全身全霊を……」
たった一人のその少女の戦闘能力は0。
けれど、彼女は勇者のパーティーメンバー。
戦いを好まないエリス神を信仰し、エリス神から恩恵を受けているにも関わらず、その回復の力を戦いに使う者。
「背中を押す祈り」
少女が呟くと、白い光が万を超えるニアメア軍を覆っていく。
「なんだ? これはっ」
練度が高く私語などしない軍であるニアメア軍の一人の兵士が感じたことのない感覚に思わず声を漏らす。周りの兵士たちも自分たちに起きている感覚に戸惑いながらも、手を結んで閉じたり、足踏みなどをして、自身の身体の変化を理解し始める。
「身体が、軽いぞっ」
「疲れが無い」
その力は勇者たちがいつも当たり前のように授かっている力。
勇者たちはその力を受けることが当然であり、喜ぶことはない。
「これは―――まさか――――」
アレキサンダー王子は後方を見る。
当然弓兵や魔法使いがいて、見えるはずがないのだが、確かにフローレンスの存在を感じた。
「これなら―――勝てるっ」
魔王軍からの度重なる攻撃を受けても、国の形を維持できているのは、他国からの支援と防衛線に長けた国民達の成果に他ならない。他国も自分の国の被害を避けるためというのもあるが、支援するのはニアメア家の人徳と交渉術の成果である。
魔王軍ですら、無事では済まない魔力と魔除けを溜めた塀。
いつもであれば、魔王軍も牽制程度にしか攻撃してこないが、今回は動物型の魔物のみで、戦術や損得を考える魔物はおらず、本能のままに暴れる形で魔物たちがニアメア王国に攻め込もうとしている。その魔物の姿を見れば、撤退などはありえず、死ぬまで暴虐を働く魔物と対峙するということは激戦は必至だった。
アレキサンダー王子率いる騎馬隊と、屈強な重装歩兵が最前線へ。
その後ろに目の鋭い男女が弓や杖を構える。
(負傷兵は五百……千……いや、五千………最悪全滅もありうるか)
アレキサンダー王子は遠くから次々と来る魔物を見て、算段を立てようとするが、どんどん押し寄せている魔物の数を見て、嫌な汗を流す。自分の采配が間違えれば、一気に魔物が優勢となり、ニアメア王国を破壊した勢いで、勇者たちが気づくまで他の国も破壊しつくすかもしれない。この国よりも防衛に長けた国はない。つまり、勇者のパーティーが気づくまでいくつかの国が亡びることになる。アレキサンダー王子は勇者がいれば、と頭をよぎる。
(いや、無いものねだりをせずに、勇者がいないことを想定して防衛してきたから我々は今も生きている。そして、これから我々は生きていくのだ)
いつもと違う大軍。
いつもと違う大戦。
相手は多数。
ただ、アレキサンダー王子は目の前の大軍にばかり気を取られ、自軍の陣のはるか後方にいた一人の少女の存在を頭に入れていなかった。アレキサンダー王子は軍を鼓舞し、指示を出すため号令を発する。
「我々には神が付いているっ!! 皆、全身全霊を……」
たった一人のその少女の戦闘能力は0。
けれど、彼女は勇者のパーティーメンバー。
戦いを好まないエリス神を信仰し、エリス神から恩恵を受けているにも関わらず、その回復の力を戦いに使う者。
「背中を押す祈り」
少女が呟くと、白い光が万を超えるニアメア軍を覆っていく。
「なんだ? これはっ」
練度が高く私語などしない軍であるニアメア軍の一人の兵士が感じたことのない感覚に思わず声を漏らす。周りの兵士たちも自分たちに起きている感覚に戸惑いながらも、手を結んで閉じたり、足踏みなどをして、自身の身体の変化を理解し始める。
「身体が、軽いぞっ」
「疲れが無い」
その力は勇者たちがいつも当たり前のように授かっている力。
勇者たちはその力を受けることが当然であり、喜ぶことはない。
「これは―――まさか――――」
アレキサンダー王子は後方を見る。
当然弓兵や魔法使いがいて、見えるはずがないのだが、確かにフローレンスの存在を感じた。
「これなら―――勝てるっ」
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