限りなく狂愛に近い恋 ヤンデレ短編

しみずりつ

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話す相手は選びなさい バーであの子への愛を語るホストとバーの店主

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「あの子を抱きたい」

目の前の男は恥じらいもなくそう言った。
まるで目の前にその最愛の人がいるとでもいうように、切れ長の瞳は熱に浮かされている。

「なにそれ、気持ち悪い」

ここを舞台か何かと勘違いしてはいないか。
ここはゲイバーなんですけど。
まるでひとり舞台に立つ俳優が如く、魂の叫びを口にする男に正直な感想が口をついて出た。

「あのねぇ、もう閉店時刻よ」

もう先客も帰って、そろそろ店じまいをしようと思っているのに、目の前の男はカウンターに根を張ったように座って帰ろうとしない。

度数の高いアルコールを煽るように飲んでいるのに、全く赤くもならず平然としているあたりさすがホストだと思う。
けれど、お酒は節度をもって嗜むもの。
これ以上は体にも悪いし、何よりも話を聞くのも飽きた。
それなのに、この男ときたらさらに話を続ける。

「いや、抱けなくても良い。挿れなくてもあの子を俺の指と舌で気持ちよくして、見たこともない顔を見たい」

本来の美しい顔はなく、鼻の下が伸びている。

「本当に気持ち悪い」

ハッキリと告げる。

「何でも言うことをきいてあげたい。欲しいものも買ってあげたいし、したいことはなんだってさせてあげたい」

ありとあらゆる女の子に貢がせて金という金を搾り取ってきた男が言う言葉だろうか。

「三回周ってワンと言えと言われてもできるわ。なんなら犬にだってなる。いや、あの子の犬になりたい」

「くっそ、なんで俺は犬じゃないんだ」と真面目に文句を言う男は本当に夜の町で名を知られたトップクラスのホストなのだろうか。

店のホスト仲間が見たら卒倒しそうなものだろう。

彼がこうして口を開けば必ずと言っていい程出てくる「あの子」という人。
どうやらご執心中の女の子のことらしい。

何にも執着せず、恋愛なんてバカのすることだと宣っていた彼の遅い初恋。

拗らせていると正直思う。

その「あの子」という彼の想い人はまっとうに働く昼職の人間のようだ。
夜の町で遊ぶことも、ましてや彼の働く店に来ることもなさそうな真面目な子らしい。

なぜそんな真面目な子と出会ったかなんて聞きたいとも思わないけれど、ボタンの掛け違いといえる偶然があり、彼と「あの子」は出会ったそうだ。

彼いわく「運命の出逢い」

口説き文句を挨拶のように言うホストが口にすると、なんとも薄っぺらくロマンチックの欠片もない。

「指輪はしてなかったから結婚はしてないはずだ」

「いや、してても奪うから関係ねぇけど」と不穏なことを言う男。

「あら、結婚はしてなくても恋人はいるかもよ?」

煽るように言えばこめかみに青筋をたてて声をあげる。

「はぁ?いたって関係ねぇよ。てか、そいつ潰す。後はあの子と二人っきりになって俺しか見えないようにして、死ぬまで離れられないようにする」

いるかどうかもわからない存在に激しい嫉妬の炎を燃やし、目をギラつかせる男はまさに獲物を狙う獣そのもの。

初めて見たその瞳。

自分を取り合い、醜く言い争いをする女の子たちを冷ややかに見下して「嫉妬なんて面倒くさい、うっとおしい」と言っていたのはどこのどいつかしら。

「結婚するなら指輪は絶対だろ。なんなら付き合った記念に作るってのも良いよな。今ペアリングって流行ってるじゃん?デザインとかも特注にして記念日とか刻印すんのも良いな」

ついにあたしの耳も腐ったかしら。
仕事柄一度聞いた客の話は忘れないようにしているつもりだけど、目の前の恋にのぼせ上がった男は自分の言った言葉を忘れたのか。

前に「ペアものって気持ち悪ィと」か言ってなかったか?

「束縛されてるみたいで好き好んでつけてる奴の気が知れない」とまで言ってなかったか。

恋というものは本当に人を狂わせる。
なまじ金も行動力もある大人の男、どんなことをしでかすか分かったもんじゃない。
金も時間も、その美しい体さえも捧げるつもりなのだろう。

まるで宗教だわ。

彼にとって「あの子」はこの世に降りた神そのもの。

なんだかとてもおもしろそう。

あたしもその神様に会いたくなってきてしまった。

「あの子」の話を聞いてるだけでは物足りない。

「話を聞いてる感じだととっても良さそうな子じゃない」

にこやかに彼に告げれば得意そうに「当然だろ、どの女よりも可愛いんだ」と笑う

ふぅん、そうなんだ。

「今度あたしに会わせなさいよ。可愛がってあげる」

満面の笑顔で彼に言えば、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をした。
そしてすぐ我に返って怒声を上げる。

「はぁ!?ここゲイバーだろ!」

あぁ、うるさいわねぇ。

「あら、言ってなかった?あたし、バイよ?」

そう言えば、先程の怒声はどこへやら「バイがゲイバーやってんの…?」と窺うように言ってきた。

「ゲイバーだからってなによ。ここでは男も女も関係なく素でいられるお店。ゲイしか働いてないと思ってんなら大きな間違いよ」

ドン!とチェイサーを男の前に置いて、男の横にあった酒のボトルを奪い取りながら言う。

こんな器の小さい男のものになる前にあたしがもらっても別に文句は言われないわよね。

奪ったボトルから酒を注いで、微笑みながらそれを飲み干した。

 
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