7 / 26
話す相手は選びなさい バーであの子への愛を語るホストとバーの店主
しおりを挟む
「あの子を抱きたい」
目の前の男は恥じらいもなくそう言った。
まるで目の前にその最愛の人がいるとでもいうように、切れ長の瞳は熱に浮かされている。
「なにそれ、気持ち悪い」
ここを舞台か何かと勘違いしてはいないか。
ここはゲイバーなんですけど。
まるでひとり舞台に立つ俳優が如く、魂の叫びを口にする男に正直な感想が口をついて出た。
「あのねぇ、もう閉店時刻よ」
もう先客も帰って、そろそろ店じまいをしようと思っているのに、目の前の男はカウンターに根を張ったように座って帰ろうとしない。
度数の高いアルコールを煽るように飲んでいるのに、全く赤くもならず平然としているあたりさすがホストだと思う。
けれど、お酒は節度をもって嗜むもの。
これ以上は体にも悪いし、何よりも話を聞くのも飽きた。
それなのに、この男ときたらさらに話を続ける。
「いや、抱けなくても良い。挿れなくてもあの子を俺の指と舌で気持ちよくして、見たこともない顔を見たい」
本来の美しい顔はなく、鼻の下が伸びている。
「本当に気持ち悪い」
ハッキリと告げる。
「何でも言うことをきいてあげたい。欲しいものも買ってあげたいし、したいことはなんだってさせてあげたい」
ありとあらゆる女の子に貢がせて金という金を搾り取ってきた男が言う言葉だろうか。
「三回周ってワンと言えと言われてもできるわ。なんなら犬にだってなる。いや、あの子の犬になりたい」
「くっそ、なんで俺は犬じゃないんだ」と真面目に文句を言う男は本当に夜の町で名を知られたトップクラスのホストなのだろうか。
店のホスト仲間が見たら卒倒しそうなものだろう。
彼がこうして口を開けば必ずと言っていい程出てくる「あの子」という人。
どうやらご執心中の女の子のことらしい。
何にも執着せず、恋愛なんてバカのすることだと宣っていた彼の遅い初恋。
拗らせていると正直思う。
その「あの子」という彼の想い人はまっとうに働く昼職の人間のようだ。
夜の町で遊ぶことも、ましてや彼の働く店に来ることもなさそうな真面目な子らしい。
なぜそんな真面目な子と出会ったかなんて聞きたいとも思わないけれど、ボタンの掛け違いといえる偶然があり、彼と「あの子」は出会ったそうだ。
彼いわく「運命の出逢い」
口説き文句を挨拶のように言うホストが口にすると、なんとも薄っぺらくロマンチックの欠片もない。
「指輪はしてなかったから結婚はしてないはずだ」
「いや、してても奪うから関係ねぇけど」と不穏なことを言う男。
「あら、結婚はしてなくても恋人はいるかもよ?」
煽るように言えばこめかみに青筋をたてて声をあげる。
「はぁ?いたって関係ねぇよ。てか、そいつ潰す。後はあの子と二人っきりになって俺しか見えないようにして、死ぬまで離れられないようにする」
いるかどうかもわからない存在に激しい嫉妬の炎を燃やし、目をギラつかせる男はまさに獲物を狙う獣そのもの。
初めて見たその瞳。
自分を取り合い、醜く言い争いをする女の子たちを冷ややかに見下して「嫉妬なんて面倒くさい、うっとおしい」と言っていたのはどこのどいつかしら。
「結婚するなら指輪は絶対だろ。なんなら付き合った記念に作るってのも良いよな。今ペアリングって流行ってるじゃん?デザインとかも特注にして記念日とか刻印すんのも良いな」
ついにあたしの耳も腐ったかしら。
仕事柄一度聞いた客の話は忘れないようにしているつもりだけど、目の前の恋にのぼせ上がった男は自分の言った言葉を忘れたのか。
前に「ペアものって気持ち悪ィと」か言ってなかったか?
「束縛されてるみたいで好き好んでつけてる奴の気が知れない」とまで言ってなかったか。
恋というものは本当に人を狂わせる。
なまじ金も行動力もある大人の男、どんなことをしでかすか分かったもんじゃない。
金も時間も、その美しい体さえも捧げるつもりなのだろう。
まるで宗教だわ。
彼にとって「あの子」はこの世に降りた神そのもの。
なんだかとてもおもしろそう。
あたしもその神様に会いたくなってきてしまった。
「あの子」の話を聞いてるだけでは物足りない。
「話を聞いてる感じだととっても良さそうな子じゃない」
にこやかに彼に告げれば得意そうに「当然だろ、どの女よりも可愛いんだ」と笑う
ふぅん、そうなんだ。
「今度あたしに会わせなさいよ。可愛がってあげる」
満面の笑顔で彼に言えば、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をした。
そしてすぐ我に返って怒声を上げる。
「はぁ!?ここゲイバーだろ!」
あぁ、うるさいわねぇ。
「あら、言ってなかった?あたし、バイよ?」
そう言えば、先程の怒声はどこへやら「バイがゲイバーやってんの…?」と窺うように言ってきた。
「ゲイバーだからってなによ。ここでは男も女も関係なく素でいられるお店。ゲイしか働いてないと思ってんなら大きな間違いよ」
ドン!とチェイサーを男の前に置いて、男の横にあった酒のボトルを奪い取りながら言う。
こんな器の小さい男のものになる前にあたしがもらっても別に文句は言われないわよね。
奪ったボトルから酒を注いで、微笑みながらそれを飲み干した。
目の前の男は恥じらいもなくそう言った。
まるで目の前にその最愛の人がいるとでもいうように、切れ長の瞳は熱に浮かされている。
「なにそれ、気持ち悪い」
ここを舞台か何かと勘違いしてはいないか。
ここはゲイバーなんですけど。
まるでひとり舞台に立つ俳優が如く、魂の叫びを口にする男に正直な感想が口をついて出た。
「あのねぇ、もう閉店時刻よ」
もう先客も帰って、そろそろ店じまいをしようと思っているのに、目の前の男はカウンターに根を張ったように座って帰ろうとしない。
度数の高いアルコールを煽るように飲んでいるのに、全く赤くもならず平然としているあたりさすがホストだと思う。
けれど、お酒は節度をもって嗜むもの。
これ以上は体にも悪いし、何よりも話を聞くのも飽きた。
それなのに、この男ときたらさらに話を続ける。
「いや、抱けなくても良い。挿れなくてもあの子を俺の指と舌で気持ちよくして、見たこともない顔を見たい」
本来の美しい顔はなく、鼻の下が伸びている。
「本当に気持ち悪い」
ハッキリと告げる。
「何でも言うことをきいてあげたい。欲しいものも買ってあげたいし、したいことはなんだってさせてあげたい」
ありとあらゆる女の子に貢がせて金という金を搾り取ってきた男が言う言葉だろうか。
「三回周ってワンと言えと言われてもできるわ。なんなら犬にだってなる。いや、あの子の犬になりたい」
「くっそ、なんで俺は犬じゃないんだ」と真面目に文句を言う男は本当に夜の町で名を知られたトップクラスのホストなのだろうか。
店のホスト仲間が見たら卒倒しそうなものだろう。
彼がこうして口を開けば必ずと言っていい程出てくる「あの子」という人。
どうやらご執心中の女の子のことらしい。
何にも執着せず、恋愛なんてバカのすることだと宣っていた彼の遅い初恋。
拗らせていると正直思う。
その「あの子」という彼の想い人はまっとうに働く昼職の人間のようだ。
夜の町で遊ぶことも、ましてや彼の働く店に来ることもなさそうな真面目な子らしい。
なぜそんな真面目な子と出会ったかなんて聞きたいとも思わないけれど、ボタンの掛け違いといえる偶然があり、彼と「あの子」は出会ったそうだ。
彼いわく「運命の出逢い」
口説き文句を挨拶のように言うホストが口にすると、なんとも薄っぺらくロマンチックの欠片もない。
「指輪はしてなかったから結婚はしてないはずだ」
「いや、してても奪うから関係ねぇけど」と不穏なことを言う男。
「あら、結婚はしてなくても恋人はいるかもよ?」
煽るように言えばこめかみに青筋をたてて声をあげる。
「はぁ?いたって関係ねぇよ。てか、そいつ潰す。後はあの子と二人っきりになって俺しか見えないようにして、死ぬまで離れられないようにする」
いるかどうかもわからない存在に激しい嫉妬の炎を燃やし、目をギラつかせる男はまさに獲物を狙う獣そのもの。
初めて見たその瞳。
自分を取り合い、醜く言い争いをする女の子たちを冷ややかに見下して「嫉妬なんて面倒くさい、うっとおしい」と言っていたのはどこのどいつかしら。
「結婚するなら指輪は絶対だろ。なんなら付き合った記念に作るってのも良いよな。今ペアリングって流行ってるじゃん?デザインとかも特注にして記念日とか刻印すんのも良いな」
ついにあたしの耳も腐ったかしら。
仕事柄一度聞いた客の話は忘れないようにしているつもりだけど、目の前の恋にのぼせ上がった男は自分の言った言葉を忘れたのか。
前に「ペアものって気持ち悪ィと」か言ってなかったか?
「束縛されてるみたいで好き好んでつけてる奴の気が知れない」とまで言ってなかったか。
恋というものは本当に人を狂わせる。
なまじ金も行動力もある大人の男、どんなことをしでかすか分かったもんじゃない。
金も時間も、その美しい体さえも捧げるつもりなのだろう。
まるで宗教だわ。
彼にとって「あの子」はこの世に降りた神そのもの。
なんだかとてもおもしろそう。
あたしもその神様に会いたくなってきてしまった。
「あの子」の話を聞いてるだけでは物足りない。
「話を聞いてる感じだととっても良さそうな子じゃない」
にこやかに彼に告げれば得意そうに「当然だろ、どの女よりも可愛いんだ」と笑う
ふぅん、そうなんだ。
「今度あたしに会わせなさいよ。可愛がってあげる」
満面の笑顔で彼に言えば、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をした。
そしてすぐ我に返って怒声を上げる。
「はぁ!?ここゲイバーだろ!」
あぁ、うるさいわねぇ。
「あら、言ってなかった?あたし、バイよ?」
そう言えば、先程の怒声はどこへやら「バイがゲイバーやってんの…?」と窺うように言ってきた。
「ゲイバーだからってなによ。ここでは男も女も関係なく素でいられるお店。ゲイしか働いてないと思ってんなら大きな間違いよ」
ドン!とチェイサーを男の前に置いて、男の横にあった酒のボトルを奪い取りながら言う。
こんな器の小さい男のものになる前にあたしがもらっても別に文句は言われないわよね。
奪ったボトルから酒を注いで、微笑みながらそれを飲み干した。
0
あなたにおすすめの小説
すべてはあなたの為だった~狂愛~
矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。
愛しているのは君だけ…。
大切なのも君だけ…。
『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』
※設定はゆるいです。
※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写はすべて架空です。
狼隊長さんは、私のやわはだのトリコになりました。
汐瀬うに
恋愛
目が覚めたら、そこは獣人たちの国だった。
元看護師の百合は、この世界では珍しい“ヒト”として、狐の婆さんが仕切る風呂屋で働くことになる。
与えられた仕事は、獣人のお客を湯に通し、その体を洗ってもてなすこと。
本来ならこの先にあるはずの行為まで求められてもおかしくないのに、百合の素肌で背中を撫でられた獣人たちは、皆ふわふわの毛皮を揺らして眠りに落ちてしまうのだった。
人間の肌は、獣人にとって子犬の毛並みのようなもの――そう気づいた時には、百合は「眠りを売る“やわはだ嬢”」として静かな人気者になっていた。
そんな百合の元へある日、一つの依頼が舞い込む。
「眠れない狼隊長を、あんたの手で眠らせてやってほしい」
戦場の静けさに怯え、目を閉じれば仲間の最期がよみがえる狼隊長ライガ。
誰よりも強くあろうとする男の震えに触れた百合は、自分もまた失った人を忘れられずにいることを思い出す。
やわらかな人肌と、眠れない心。
静けさを怖がるふたりが、湯気の向こうで少しずつ寄り添っていく、獣人×ヒトの異世界恋愛譚。
[こちらは以前あげていた「やわはだの、お風呂やさん」の改稿ver.になります]
密会~合コン相手はドS社長~
日下奈緒
恋愛
デザイナーとして働く冬佳は、社長である綾斗にこっぴどくしばかれる毎日。そんな中、合コンに行った冬佳の前の席に座ったのは、誰でもない綾斗。誰かどうにかして。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる