主人公はふたりいる。

織緒こん

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微妙なモブに転生しました

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 カオスだ。

 桜もとうに散ってゴールデンウィークも目前に迫った今日、ぽかっと気づいちゃいました。わたし三峰みつみね依子よりこ転生者です。

 こらこら、厨二な痛い奴って言わないで!

 思えば小さな頃から不思議な子と呼ばれてたなぁ。いえ、別に変な子じゃなかったよ。良家のお嬢様にしては、ちょっと庶民的なだけで。なんかこう、お手伝いさんにあれこれしてもらうたびにいたたまれなかったり、鏡に映る地味系美少女にコレジャナイ感を覚えたり。

 学校に通うのが自家用車(運転手付き)だなんて贅沢すぎて慄くし、中学生がパパと外食の度にドレスの新調なんてしないと思うの!

 生まれた時からそんな生活だったら、当たり前って思うじゃない? お友だちはみんなそうだし。それなのに幼稚園の頃から、違和感というか居心地の悪さでモヤモヤしてた。

 エスカレーターでお金持ち高校に入学が決まった時も、一度した経験をなぞっているような感じがして、なんかこう、ぐわーーってなって。

 そのピークは入学式の日、両親の見守る中無事に式を終えて、講堂から教室に移動している時だった。
 
 窓から見える満開の桜の下で、花びらと戯れる女子生徒を見たんだけど。 ちょっとした、ホラー。

 だって考えてみて。その日は入学式の日だから、受け付けとか代表挨拶とかの役員以外は新入生しかいない。当然役員さんはお仕事してるから、あそこでウフフアハハしてるのは新入生でしょ。遅刻して入学式サボって、桜の下で踊り狂うってなんの儀式さ!

 心の中で盛大につっこんでたら、木の上から男子生徒が飛び降りて来た。連れ⋯⋯じゃなさそう。なんかわちゃわちゃしてたけど、しばらくして腕章つけた役員さんがやって来て、二人を引きずって行った。

 この一連の流れを「わたし知ってる!」な状態で、遠くから見ていたんだけど、その二週間後の今日、更なる衝撃に襲われた。

 アフロボンバー!
 
 二時間目終了後の休み時間に、施錠された門扉をよじ登るな!
 
 微笑み副会長、はにかんでないで職員室に連行しろ!
 
 そしてわたし、なんで思い出すかな⁈
 
『爪弾く君の調べ~スイートラヴ~』略して『ツマキミ』なんていう、ベッタベタな乙女ゲームを!

 暗転。

 目が覚めたら保健室だった。そしてぼーっとしているうちに動揺しきったママが迎えに来て、あれよと言う間に早退させられて、今は自宅のベッドで頭を抱えている。

 なんてこったい、アラサーヲタクOLがゲーム転生しちゃったよ。

 『ツマキミ』というゲームは、よくある乙女ゲームとちょっと違った。
 
 お金持ちが通う中高一貫校『私立星陵学園』に、高等部から入学することになったド庶民のヒロインちゃん。彼女が学園の有名人たちと交流し、友情を深めて恋に落ち、やがて上流階級の仲間入りをするシンデレラストーリー。 まぁ良くある展開よね。
 
 攻略対象も学園モノ乙女ゲームならではの、『俺様』『儚げ』『ワンコ』その他色々取り揃えられていて、それぞれ好感度に応じたエンディングがある。

 ところが『ツマキミ』はこれだけじゃなかった。
 
 なんとライバルキャラが男の子なのだ。

 恋愛シュミレーション系とか美少女育成モノって、最初にキャラクター設定するでしょ? メインのドジっ子ヒロインか意地っ張りヒロインかで選択可能だったりして、選ばなかった方のキャラクターがライバルになるっていうアレ。

 その選択肢が『天真爛漫美少女』と『天真爛漫美少年』で、言い換えると『成金娘』と『王道くん』なわけだ。美少女から始めるとスタートは入学式の日になって、展開としては『アンチ王道』となり、美少年バージョンならゴールデンウィーク前に始まって『成金ザマァ』を目指すのだ。

 『ツマキミ』は学園モノだけあって、キャラクターが多い。男女ヒロインと攻略対象のほかにも協力者とか家族とか、性格付けされて台詞があるキャラクターもいるし、学園行事のシーンでは群集の中に他作品からの隠れキャラもいたりして、ファンサイトでは◯◯を探せ!とおおいに盛り上がった。

 キャラ表の中には辛うじて名前だけ付いてるモブがいて、美少女側のモブ、一ノ瀬・二木・三峰のうち、最後のがわたしである。ちなみに美少年側のモブは、一条・二宮・三浦ーーうわぁチョーテキトー。

 キャラクターを三人並べて向かって左から順番に。一番右にいる、あっさりした顔立ちのストレートセミロング、ヒロインからは苗字でしか呼ばれない。

 さて、ここから重要なポイントに入ります。
 
 男女モブその三は、どのルートに入っても悲惨な目に遭うのだ! 三峰という地味な少女は、程度の差こそあれ必ず怪我をする羽目になる。
 
 美少女バージョンでは、美少年の傍若無人な振る舞いによって。美少年バージョンでは、美少女の悪巧みの片棒を担がされて。
 
 ちなみに三浦の役割も、身代わりになるか巻き添えになるか。

 ちょっとした怪我で済むか、生死の境を彷徨うかはルートによって異なるけど、どっちにしろ逃げられない。

  そんなこんなで改めまして、三峰依子です。モブ女子生徒その三です。
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