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登校拒否を考える
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三峰依子を語ろう。
ゲームにおいてはキャラクター表のビジュアルの他は、公式サイトで簡単な紹介があるだけなんだけど、わたしには生まれてきてから十五年の時間がある。
三峰の家は御維新後に興した呉服屋から成った企業の創業者一家で、現在は程々の歴史と程々の業績の、さほど目立つ家ではない。
前世のアラサーOLが育った家に比べれば物凄いお金持ちだけど、上には上がある。
星稜学園に通う生徒は、大体が一般的なお金持ちの子で、ほんの一握りのとんでもないお金持ちの子がいる。わたしは一般的な方だ。
そんな三峰家の二番目の子として生まれたわたしは、お金持ちの生活に首を傾げつつも順応し、突出した才能を開花させることもなく、お上品な家族とお友だちに囲まれて育った、ごくごく普通の良家の子女と言える。前世基準ではどこが普通じゃ、とつっこみたいけど、話が進まないから置いておく。
朗らかな父、万年少女の母、シスコン気味の兄、そして地味なわたし。地味と言っても顔立ちは整っている。ほら、漫画原作ドラマのちょいブス設定を演じるのが、可愛い女優さんだったりするでしょ。そもそもお金持ちなんて、お金にモノ言わせて美人を嫁にしちゃうんだから、ある程度の美形遺伝子は代々受け継がれてるわけよ。
自分で言うなんて、とんだナルシストだって? アラサーOLの意見です! 客観的に見てるんです! 整ってるってのは、顔面の左右の差が少なくて程々の凹凸って事だからね。別に美人だって言ってない。身長だって百五十五センチ、エスコートの相手に合わせてヒールで調節可能。ま、負け惜しみなんかじゃ、な、ないんだからね!
中高一貫の星稜学園は、お金持ちのご家庭御用達の学校である。中等部入学の際に受験なるものは存在するけど、そこまで難しい試験ではない。ここで大事なのは学力じゃなくて財力。入学金も授業料もそこそこお高いので、学園側が想定する家格で線引きされる。ある程度の財力がないと、中等部三年間の学費は賄えない。
そうして収められた潤沢な資金は、講師や教材に化ける。最高の教育は受験科目だけでなく、教養科目にも施される。中等部三年間で学力の底上げと社交界でのマナー習得を行うのである。言い換えれば、どんな野ザルでもお金さえ払えば紳士淑女の卵に変身させてくれるのが、星稜学園中等部ってところなわけ。
とは言え、そもそも上流階級の子弟だから、そこまで酷いのはいないんだけど。
そこから更に高等部に進学するときに、ちょっと篩にかけられる。あまりに素行が悪かったりすると進学内定が降りないので、ほかの高校を受験することになるの。中等部で基本のマナーだけ学んで留学する生徒もいるから、減った人数を外部受験で補充する。
中学受験して星稜学園に入ったわたしは、可もなく不可もなく中等部を終え、高等部に進学した。家を行き来する親しい友人も、前世レベルの気安さはない。
ほとんどの生徒が自家用車通学なので、下校途中に公園で話し込むとか、十代半ばの普通の中学生がしそうなことは出来ないし、家に遊びに行くのも相手のお家の予定を聞いて、事前にお持たせを用意して⋯⋯ともかく面倒くさい。まず、ふらりと徒歩で行ける範囲に住んでいない。
そんな星稜学園の高等部にやって来た『成金娘』は、名を花城アリスと言った。ゲームパッケージの髪色はぶっ飛びのピンク色だったけど、流石に現実には綺麗にカラーリングさせた茶色だ。見たところ、ピンクベースのカラー剤だけどさ。
花城さんは入学式に遅刻してきた後、ホームルームの自己紹介で、どうでも良い個人情報をダダ漏れにした。
曰く。
「この間まで、庶民生活してましたぁ。パパとママ、駆け落ちしてお爺ちゃんと縁切りしてたんだけど、仲直りして一緒に暮らすことになりました! 社交のこととか全然わからないから、色々教えてくださいね♡」
なんですか、この方?
この時のわたしは、まだアラサーOLに意識を占領されていなかったため、脳内ツッコミがやや丁寧だった。
ご両親の駆け落ちって、ご祖父上としては大袈裟にしたくない出来事ではないのかしら?
なんてポカーンとしてしまった。お爺ちゃんとしては孫に不自由させたことを悔いてるかもしれないし、十分なマナー教育が行き届いていないのは、社交界に出るつもりなら内緒にしとくものでしょ。とりあえずハリボテでごまかしつつ、ボロを出さないように中身を詰めるのが良いんじゃなかろうか。ハッタリ大事。
て言うか、そう言うのってごく一部の仲良しの子に、こっそり打ち明けるものだと思ってた。
複雑な家庭について同情を得たいのか、慣れない環境でも頑張る健気さをアピールしたいのか、さっぱりわからない。
彼女はこの一件で内部進学組から距離を置かれた。そりゃそうだ。ちょっとした秘密を大声で吹聴されたらたまらない。かと言って外部受験組と仲が良いかというと、そうでもない。こっちは花城さんの方からシカトしてた。
花城アリスと言う少女は、見事に内部進学組の男子にしか話しかけないの!
どうやら 外部受験組は家格が低いと思っているらしい。帰国子女セレブだの地方に拠点を置く有力な旧財閥だの、お家の都合で中等部を受験出来なかった方々が大勢いるのにね。
それに女同士の繋がりって馬鹿に出来ないのよ。アラサーOLを経た身としては、ほんっと強く思うわ~。
入学式から二週間、クラスは内部進学組と外部受験組が馴染んで新しい友誼を結んだりしていたんだけど、花城さんは見事に浮きまくっていた。そんな時だ、アフロボンバーがやって来たのは。
⋯⋯明日、学校に行きたくない。
ゲームにおいてはキャラクター表のビジュアルの他は、公式サイトで簡単な紹介があるだけなんだけど、わたしには生まれてきてから十五年の時間がある。
三峰の家は御維新後に興した呉服屋から成った企業の創業者一家で、現在は程々の歴史と程々の業績の、さほど目立つ家ではない。
前世のアラサーOLが育った家に比べれば物凄いお金持ちだけど、上には上がある。
星稜学園に通う生徒は、大体が一般的なお金持ちの子で、ほんの一握りのとんでもないお金持ちの子がいる。わたしは一般的な方だ。
そんな三峰家の二番目の子として生まれたわたしは、お金持ちの生活に首を傾げつつも順応し、突出した才能を開花させることもなく、お上品な家族とお友だちに囲まれて育った、ごくごく普通の良家の子女と言える。前世基準ではどこが普通じゃ、とつっこみたいけど、話が進まないから置いておく。
朗らかな父、万年少女の母、シスコン気味の兄、そして地味なわたし。地味と言っても顔立ちは整っている。ほら、漫画原作ドラマのちょいブス設定を演じるのが、可愛い女優さんだったりするでしょ。そもそもお金持ちなんて、お金にモノ言わせて美人を嫁にしちゃうんだから、ある程度の美形遺伝子は代々受け継がれてるわけよ。
自分で言うなんて、とんだナルシストだって? アラサーOLの意見です! 客観的に見てるんです! 整ってるってのは、顔面の左右の差が少なくて程々の凹凸って事だからね。別に美人だって言ってない。身長だって百五十五センチ、エスコートの相手に合わせてヒールで調節可能。ま、負け惜しみなんかじゃ、な、ないんだからね!
中高一貫の星稜学園は、お金持ちのご家庭御用達の学校である。中等部入学の際に受験なるものは存在するけど、そこまで難しい試験ではない。ここで大事なのは学力じゃなくて財力。入学金も授業料もそこそこお高いので、学園側が想定する家格で線引きされる。ある程度の財力がないと、中等部三年間の学費は賄えない。
そうして収められた潤沢な資金は、講師や教材に化ける。最高の教育は受験科目だけでなく、教養科目にも施される。中等部三年間で学力の底上げと社交界でのマナー習得を行うのである。言い換えれば、どんな野ザルでもお金さえ払えば紳士淑女の卵に変身させてくれるのが、星稜学園中等部ってところなわけ。
とは言え、そもそも上流階級の子弟だから、そこまで酷いのはいないんだけど。
そこから更に高等部に進学するときに、ちょっと篩にかけられる。あまりに素行が悪かったりすると進学内定が降りないので、ほかの高校を受験することになるの。中等部で基本のマナーだけ学んで留学する生徒もいるから、減った人数を外部受験で補充する。
中学受験して星稜学園に入ったわたしは、可もなく不可もなく中等部を終え、高等部に進学した。家を行き来する親しい友人も、前世レベルの気安さはない。
ほとんどの生徒が自家用車通学なので、下校途中に公園で話し込むとか、十代半ばの普通の中学生がしそうなことは出来ないし、家に遊びに行くのも相手のお家の予定を聞いて、事前にお持たせを用意して⋯⋯ともかく面倒くさい。まず、ふらりと徒歩で行ける範囲に住んでいない。
そんな星稜学園の高等部にやって来た『成金娘』は、名を花城アリスと言った。ゲームパッケージの髪色はぶっ飛びのピンク色だったけど、流石に現実には綺麗にカラーリングさせた茶色だ。見たところ、ピンクベースのカラー剤だけどさ。
花城さんは入学式に遅刻してきた後、ホームルームの自己紹介で、どうでも良い個人情報をダダ漏れにした。
曰く。
「この間まで、庶民生活してましたぁ。パパとママ、駆け落ちしてお爺ちゃんと縁切りしてたんだけど、仲直りして一緒に暮らすことになりました! 社交のこととか全然わからないから、色々教えてくださいね♡」
なんですか、この方?
この時のわたしは、まだアラサーOLに意識を占領されていなかったため、脳内ツッコミがやや丁寧だった。
ご両親の駆け落ちって、ご祖父上としては大袈裟にしたくない出来事ではないのかしら?
なんてポカーンとしてしまった。お爺ちゃんとしては孫に不自由させたことを悔いてるかもしれないし、十分なマナー教育が行き届いていないのは、社交界に出るつもりなら内緒にしとくものでしょ。とりあえずハリボテでごまかしつつ、ボロを出さないように中身を詰めるのが良いんじゃなかろうか。ハッタリ大事。
て言うか、そう言うのってごく一部の仲良しの子に、こっそり打ち明けるものだと思ってた。
複雑な家庭について同情を得たいのか、慣れない環境でも頑張る健気さをアピールしたいのか、さっぱりわからない。
彼女はこの一件で内部進学組から距離を置かれた。そりゃそうだ。ちょっとした秘密を大声で吹聴されたらたまらない。かと言って外部受験組と仲が良いかというと、そうでもない。こっちは花城さんの方からシカトしてた。
花城アリスと言う少女は、見事に内部進学組の男子にしか話しかけないの!
どうやら 外部受験組は家格が低いと思っているらしい。帰国子女セレブだの地方に拠点を置く有力な旧財閥だの、お家の都合で中等部を受験出来なかった方々が大勢いるのにね。
それに女同士の繋がりって馬鹿に出来ないのよ。アラサーOLを経た身としては、ほんっと強く思うわ~。
入学式から二週間、クラスは内部進学組と外部受験組が馴染んで新しい友誼を結んだりしていたんだけど、花城さんは見事に浮きまくっていた。そんな時だ、アフロボンバーがやって来たのは。
⋯⋯明日、学校に行きたくない。
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