7 / 14
生徒会長 藤宮錦 ①
しおりを挟む
星陵学園の映えある生徒会長・藤宮錦は、女子生徒が階段から落ちる姿を見送った。身体は反射的に彼女に向かって手を伸ばしたが、それは届かなかった。
「イヤっ、こわぁい」
ピンクブラウンに染めた髪の毛が胸元で揺れて、持ち主がしがみついている。無性にイラついて、両手で肩を掴んで引き剥がし、階段を駆け下りた。三峰依子の友人らしきふたりの、甲高い悲鳴が背中を追いかけて来る。男子生徒を下敷きにして、三峰依子がぐったりと倒れていた。
風紀委員長が珍妙な男子を怒鳴りつけていて、藤宮はそれどころじゃないだろうと舌打ちをした。
「依子さんっ、依子さんっ」
「誰か先生に連絡を!」
パタパタとスカートを翻してやって来た三峰嬢の友人たちが、彼女に取りすがろうとするのを引き止めた。頭を打っていたら、動かしては危険だ。
(大丈夫だよ、心配しないで)
三峰嬢の唇が震えた。藤宮は息を飲んだ。かすかな囁きは、友人を気遣うものだった。
「藤宮、何があった? 彼女の名前はわかるか?」
「一年百合組の三峰依子と言っていた。正直何が何だか⋯⋯。事故だとは思うがちょっと腑に落ちない」
風紀委員長・高根沢芳樹が寄って来た。高根沢は近くにいた風紀委員に保健医への連絡を指示し、野次馬から数人の男子を選んで現場を封鎖させた。流石に校内の警備をさせたら仕事が早い。
「三浦が重そうにしてるじゃないか! 早く三浦の上からのけろよ! アンタもこんなところで寝てたら迷惑なんだぞ!」
「お前は黙ってろ!」
「お前じゃない、大空翔だ! 名前はきちんと呼びなさいってお母さんに習わなかったのか? 俺は名乗ったぞ、お前の名前はなんだ?」
「そこのお前、コイツを黙らせろ!」
珍妙な男子がトンチンカンなことをほざいて、高根沢がキレ気味に、連れらしい地味なふたり連れに言った。突然振られたふたりは、オロオロするばかりだ。
「命令はダメだぞ、お願いしなくちゃ! そっちのアンタもいつまで寝てるんだ? いい加減起きなよ!」
「寝てるんじゃない! 失神してるんだ!」
「高根沢、コイツ締めていいか?」
一連のやり取りは藤宮をイラつかせた。大空と言う珍妙な一年生は、頭のネジが足りないどころか一本もないのに違いない。
「俺、大丈夫ですから。この子動かすと危険だから、救急車が来るまでこのままにしてください」
呻くように三浦が言った。どこか痛むのか眉根を寄せている。
「イヤなことはイヤって言わなきゃダメだぞ! 重たいだろ、三浦!」
「動かすとこの子、死ぬから」
「!!」
三浦が大空をにらんだ。流石に二の句が継げなかったのか大空が口を噤んだので静かになった。代わりに三浦の言葉に衝撃を受けた女子生徒ふたりが、ヘナヘナと座り込んだ。
藤宮と高根沢は、大空を黙らせるための方便だと気づいたが、友人の事故に動揺しているふたりには耐えられなかったようだ。
しばらく異様な沈黙が場を支配したが、程なくざわめきと共に保健医と一年百合組・蓮子組の担任がやって来た。保健医は直ぐに藤宮たちに情況をきくと、救急車の要請をした。
保健医が救急車に付き添って行き、担任たちは家族への連絡のため立ち去った。動揺するふたりの女子生徒を、校内カウンセリングの女性が保健室へ連れて行ったところで、藤宮と高根沢はほっと息をついた。
救急隊員と保健医のやり取りから察するに、大事には至らなそうだった。
「事情を整理しよう。階段の上で何があった?」
「生徒同士のトラブルがあったんだが、そこに居合わせた」
藤宮はかいつまんで説明した。
「で、その女子が手を払ったんだな? そんな端に立ってたのか?」
「いや、そうでもない。だったらあの女が抱きついて来た勢いで、俺が落ちてる」
ぽやぽやした雰囲気の彼女は、あの女に手を払われて一瞬目を丸くした。その後よろけて、捩った身体は後頭部から落ちて行った。女がしがみ付いて来て、伸ばした藤宮の手は空を切った。
「⋯⋯あの女が居ない」
頰を腫らして、上目遣で身体をくねらせた女。今のところ事故だが、当事者と言える女が消えた。救急隊員の回りをスゲースゲーと煩くしてついて行った大空と、彼を必死で引き止めながら追いかけていたふたり組は、ひとまず事故には関係ない。しかし、彼女には話を聞かなければならないだろう。
「あの女って犯人扱いか。犯罪のニュースだって、容疑が固まるまでは女性って言うだろ」
「生理的に受け付けないタイプだったんだ」
「そこは公平に見ろよ」
「さっきのトンチンカン野郎と同じ臭いがした」
「⋯⋯そりゃしょうがない」
高根沢は大空翔の空気を読まないトンチンカンな様を思い出して、ゲンナリした。アレの女版なら、さぞかしウザいことだろう。
「悪いが風紀を貸してくれ。一の百合の女子が何か騒ぎを起こしてないか、聞き込みを頼みたい」
「了解、今日中に終わらせる。明後日からゴールデンウィークだ、明日にはその女子、呼び出すんだろ?」
言いながら高根沢は身をかがめて、落ちていた構内シューズを拾い上げた。片方だけのそれは、三峰依子のものに違いなかった。
「イヤっ、こわぁい」
ピンクブラウンに染めた髪の毛が胸元で揺れて、持ち主がしがみついている。無性にイラついて、両手で肩を掴んで引き剥がし、階段を駆け下りた。三峰依子の友人らしきふたりの、甲高い悲鳴が背中を追いかけて来る。男子生徒を下敷きにして、三峰依子がぐったりと倒れていた。
風紀委員長が珍妙な男子を怒鳴りつけていて、藤宮はそれどころじゃないだろうと舌打ちをした。
「依子さんっ、依子さんっ」
「誰か先生に連絡を!」
パタパタとスカートを翻してやって来た三峰嬢の友人たちが、彼女に取りすがろうとするのを引き止めた。頭を打っていたら、動かしては危険だ。
(大丈夫だよ、心配しないで)
三峰嬢の唇が震えた。藤宮は息を飲んだ。かすかな囁きは、友人を気遣うものだった。
「藤宮、何があった? 彼女の名前はわかるか?」
「一年百合組の三峰依子と言っていた。正直何が何だか⋯⋯。事故だとは思うがちょっと腑に落ちない」
風紀委員長・高根沢芳樹が寄って来た。高根沢は近くにいた風紀委員に保健医への連絡を指示し、野次馬から数人の男子を選んで現場を封鎖させた。流石に校内の警備をさせたら仕事が早い。
「三浦が重そうにしてるじゃないか! 早く三浦の上からのけろよ! アンタもこんなところで寝てたら迷惑なんだぞ!」
「お前は黙ってろ!」
「お前じゃない、大空翔だ! 名前はきちんと呼びなさいってお母さんに習わなかったのか? 俺は名乗ったぞ、お前の名前はなんだ?」
「そこのお前、コイツを黙らせろ!」
珍妙な男子がトンチンカンなことをほざいて、高根沢がキレ気味に、連れらしい地味なふたり連れに言った。突然振られたふたりは、オロオロするばかりだ。
「命令はダメだぞ、お願いしなくちゃ! そっちのアンタもいつまで寝てるんだ? いい加減起きなよ!」
「寝てるんじゃない! 失神してるんだ!」
「高根沢、コイツ締めていいか?」
一連のやり取りは藤宮をイラつかせた。大空と言う珍妙な一年生は、頭のネジが足りないどころか一本もないのに違いない。
「俺、大丈夫ですから。この子動かすと危険だから、救急車が来るまでこのままにしてください」
呻くように三浦が言った。どこか痛むのか眉根を寄せている。
「イヤなことはイヤって言わなきゃダメだぞ! 重たいだろ、三浦!」
「動かすとこの子、死ぬから」
「!!」
三浦が大空をにらんだ。流石に二の句が継げなかったのか大空が口を噤んだので静かになった。代わりに三浦の言葉に衝撃を受けた女子生徒ふたりが、ヘナヘナと座り込んだ。
藤宮と高根沢は、大空を黙らせるための方便だと気づいたが、友人の事故に動揺しているふたりには耐えられなかったようだ。
しばらく異様な沈黙が場を支配したが、程なくざわめきと共に保健医と一年百合組・蓮子組の担任がやって来た。保健医は直ぐに藤宮たちに情況をきくと、救急車の要請をした。
保健医が救急車に付き添って行き、担任たちは家族への連絡のため立ち去った。動揺するふたりの女子生徒を、校内カウンセリングの女性が保健室へ連れて行ったところで、藤宮と高根沢はほっと息をついた。
救急隊員と保健医のやり取りから察するに、大事には至らなそうだった。
「事情を整理しよう。階段の上で何があった?」
「生徒同士のトラブルがあったんだが、そこに居合わせた」
藤宮はかいつまんで説明した。
「で、その女子が手を払ったんだな? そんな端に立ってたのか?」
「いや、そうでもない。だったらあの女が抱きついて来た勢いで、俺が落ちてる」
ぽやぽやした雰囲気の彼女は、あの女に手を払われて一瞬目を丸くした。その後よろけて、捩った身体は後頭部から落ちて行った。女がしがみ付いて来て、伸ばした藤宮の手は空を切った。
「⋯⋯あの女が居ない」
頰を腫らして、上目遣で身体をくねらせた女。今のところ事故だが、当事者と言える女が消えた。救急隊員の回りをスゲースゲーと煩くしてついて行った大空と、彼を必死で引き止めながら追いかけていたふたり組は、ひとまず事故には関係ない。しかし、彼女には話を聞かなければならないだろう。
「あの女って犯人扱いか。犯罪のニュースだって、容疑が固まるまでは女性って言うだろ」
「生理的に受け付けないタイプだったんだ」
「そこは公平に見ろよ」
「さっきのトンチンカン野郎と同じ臭いがした」
「⋯⋯そりゃしょうがない」
高根沢は大空翔の空気を読まないトンチンカンな様を思い出して、ゲンナリした。アレの女版なら、さぞかしウザいことだろう。
「悪いが風紀を貸してくれ。一の百合の女子が何か騒ぎを起こしてないか、聞き込みを頼みたい」
「了解、今日中に終わらせる。明後日からゴールデンウィークだ、明日にはその女子、呼び出すんだろ?」
言いながら高根沢は身をかがめて、落ちていた構内シューズを拾い上げた。片方だけのそれは、三峰依子のものに違いなかった。
30
あなたにおすすめの小説
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!
木風
恋愛
婚約者に裏切られ、成金伯爵令嬢の仕掛けに嵌められた私は、あっけなく「悪役令嬢」として婚約を破棄された。
胸に広がるのは、悔しさと戸惑いと、まるで物語の中に迷い込んだような不思議な感覚。
けれど、この身に宿るのは、かつて過労に倒れた29歳の女医の記憶。
勉強も社交も面倒で、ただ静かに部屋に籠もっていたかったのに……
『神に愛された強運チート』という名の不思議な加護が、私を思いもよらぬ未来へと連れ出していく。
子供部屋の安らぎを夢見たはずが、待っていたのは次期国王……王太子殿下のまなざし。
逃れられない運命と、抗いようのない溺愛に、私の物語は静かに色を変えていく。
時に笑い、時に泣き、時に振り回されながらも、私は今日を生きている。
これは、婚約破棄から始まる、転生令嬢のちぐはぐで胸の騒がしい物語。
※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。
表紙イラストは、Wednesday (Xアカウント:@wednesday1029)さんに描いていただきました。
※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。
©︎子供部屋悪役令嬢 / 木風 Wednesday
放蕩な血
イシュタル
恋愛
王の婚約者として、華やかな未来を約束されていたシンシア・エルノワール侯爵令嬢。
だが、婚約破棄、娼館への転落、そして愛妾としての復帰──彼女の人生は、王の陰謀と愛に翻弄され続けた。
冷徹と名高い若き王、クラウド・ヴァルレイン。
その胸に秘められていたのは、ただ1人の女性への執着と、誰にも明かせぬ深い孤独。
「君が僕を“愛してる”と一言くれれば、この世のすべてが手に入る」
過去の罪、失われた記憶、そして命を懸けた選択。
光る蝶が導く真実の先で、ふたりが選んだのは、傷を抱えたまま愛し合う未来だった。
⚠️この物語はフィクションです。やや強引なシーンがあります。本作はAIの生成した文章を一部使用しています。
【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
答えられません、国家機密ですから
ととせ
恋愛
フェルディ男爵は「国家機密」を継承する特別な家だ。その後継であるジェシカは、伯爵邸のガゼボで令息セイルと向き合っていた。彼はジェシカを愛してると言うが、本当に欲しているのは「国家機密」であるのは明白。全てに疲れ果てていたジェシカは、一つの決断を彼に迫る。
乙女ゲームっぽい世界に転生したけど何もかもうろ覚え!~たぶん悪役令嬢だと思うけど自信が無い~
天木奏音
恋愛
雨の日に滑って転んで頭を打った私は、気付いたら公爵令嬢ヴィオレッタに転生していた。
どうやらここは前世親しんだ乙女ゲームかラノベの世界っぽいけど、疲れ切ったアラフォーのうろんな記憶力では何の作品の世界か特定できない。
鑑で見た感じ、どう見ても悪役令嬢顔なヴィオレッタ。このままだと破滅一直線!?ヒロインっぽい子を探して仲良くなって、この世界では平穏無事に長生きしてみせます!
※他サイトにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる