神の末裔は褥に微睡む。

織緒こん

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温もりに慣れる。

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 やらかした気がする。

 目が覚めるとジェムの腕の中だった。ふたりで毛布にくるまっている。ふたりとも昨夜の服装のままで、自分があのまま寝落ちたことに気づいた。

 俺が昨日の格好なのは自業自得として、ジェムの襟元すら寛げられていないのは、どう考えても彼のチュニックの胸元を握りしめている俺のせいだと思う。

 って、いつまで握ってるんだ、俺!

 慌てて離すと、どんだけ長時間握っていたんだと頭を抱えたくなるくらい、チュニックは見事にしわくちゃだった。意味もなく手を握って開いてオタオタする。

 とにかく起きよう!

 ダメだ、起き上がれない。背中にがっちりジェムの腕が回ってる!

 ⋯⋯この腕で木の上から下ろしてくれたんだよな。そんで泣いてる俺を慰めるみたいにハグしてくれて。

 昨夜の俺、子どもみたいだった。

 外見年齢に引き摺られすぎだろう!

 あーとかうーとか唸っていたら、頭の上からクスクス笑う声が聞こえた。同時に背中に回されたジェムの腕に、力が込められる。

「⋯⋯起きてる?」

「起きている」

「⋯⋯いつから?」

「最初から」

 うーおーッ、なんてことだ。俺の意味不明なグーパーとかオタオタしてるのとか、全部見られてたのか。くそぅ、歳下のくせに余裕ぶりやがって。いや、こいつが歳上か? いやいや、俺はおっさんだ。だから俺のほうが歳上のはずだ!

 腕が緩められた隙を突いて拘束を逃れると、素早く起き上がって間合いを取った。今まで毛布でぬくぬくしていたせいか、ブルっと震えが走った。

 ジェムはゆったりと起き上がると、ごく自然に手を伸ばして俺の頬に触れた。親指で目の下をなぞられる。切なげな眼差しに射られる。⋯⋯なんだ、これ。

「元気になってよかった。泣いたあと気絶してしまったから、とても心配した」

「気絶? 寝落ちじゃなくて?」

「あれは気絶だろう。呼吸も浅くてこのまま目覚めねば、捕らえた野盗どもを全員殺してやろうと思ったぞ」

「裁判しろっ! 一方的な虐殺、反対!」

 クソ真面目で私刑じみたことなんか無縁に見えるのに、なに恐ろしいことのたまってるんだ。それだけ俺のことが心配だったってことだけど、それにしたって朝から刺激が強すぎる。

「それより、侍従と従僕は平気?」

 護衛の人たちは腕を信じてるから心配するほうが失礼な気がするけど、身の回りを世話するためのみんなは、怪我とかしていないだろうか。

「こちらは誰も怪我はしていない」

 ⋯⋯野盗は怪我してるんだな。将軍様ご一行の天幕を襲ったんだ。もありなん。

「侍従を呼んでいいか? まぶたが腫れている。誰にも見られたくはないかもしれないが、私ではうまく世話ができぬ」

 戦場いくさばでの荒っぽい応急処置は得意なんだが、とつぶやくので、謹んでご辞退申し上げる。

 程なくしてやって来た侍従に冷たく絞った手巾で目元を冷やしてもらって、用意された服に着替える。その間に身なりを整えたジェムは、外務卿の元に話を聞きに行った。捕らえた野盗の尋問を任せていたそうだ。ごめん、今の今まで外務卿のこと忘れてた。ジェムのことでいっぱいいっぱいだ。

 外務卿は他国の間者の尋問などにも長けているらしい。日本の外務大臣、そんなことしないと思うんだけど、お国違えば? 世界違えば? とにかく国同士の難しいあれこれをやり過ごす外務卿にとって、野盗の尋問など大した労力もいらないそうだ。

 侍従に先導されて、朝食の支度が進む焚き火の前まで連れていかれる。天幕を出たらすぐそこだけど、昨日の今日だし、侯爵継嗣夫人だし、一応貴人ではあるわけで。

「若奥様の支度が整いましてございます」

 いや、着替えただけだし。

 侍従は当然のようにジェムのとなりに誘導し、ジェムも当然のように手を広げていざなった。となり⋯⋯あれ、なんで膝の上?

「心配で離したくない」

「がっ外務卿が見てるから!」

「おや、私がいなければよろしいので? 外しましょうか?」

「いや、大事な話、してんだろ⁈」

 俺は野盗が何人いたのかとか、目的とか、何も知らない。見張りだか斥候だかのふたりに遭遇しただけで、彼らがどうなったのかも知らない。木の上で息を潜めていただけだ。朝食を摂りながらなんて消化に悪そうではあるが、聞くことは聞いておかないと。

 彼らは俺に内緒でコソコソすると、思いもよらぬ逆襲をされると思っている。別に俺が意図して反撃するつもりはないけれど、俺が常識だと思ってたことが神様級の爆弾だったりするもんだから、ちょっと警戒してんだよな。

 大事な話をする体制ではないので、もぞもぞと抜け出そうとするけど、ジェムの野郎、びくとしない。鍛え方が違うから当然か。

「金目のものを持った貴族が、少人数でシュトレーゼン領まで旅をするって情報を得たらしい。な護衛は金目のものを持っているとバレるから、敢えて護衛を減らしたと思われてたよ」

 俺とジェムの静かな攻防を綺麗さっぱり無視して、外務卿は話を進めた。瞳は面白いものを見るように輝いている。チクショウ、王都に帰ってもトーニャに会わせてやらないからな!

 それはさておき、そんな情報がどこから出た?

「金持ちそうな奴が、わざと薄汚れた格好でで言いふらしていたとか」

「なんで金持ちってわかるの?」

 興味を惹かれたので、ジェムの膝から降りるのを諦めて尋ねた。

「わかるさ。そういう奴は爪が綺麗だ。手の甲は汚しても、爪の隙間に泥を仕込む奴は滅多にいない。そこまでできるのは本職プロだな」

 背後からジェムが教えてくれた。

「つまり後ろ暗いことをしている素人だってんだな。ピンポイントで俺たちの情報ってことは、城から出たな」

 城って言うか、ゲス乳兄弟だろ。

「三年もクズ王を独占されていた恨み、晴らしにきたんじゃねぇの?」

 クズ王あっちが勝手にアリスレアを王妃に納めていたとしても、嫉妬に燃えるサイコヤンデレ野郎に常識は通じないからな。

 俺はいろんなことが嫌になって、脱力した。安定した背もたれに身を預けて⋯⋯ぎゃっ、ジェムだった!

 腹に回した手をギュッてするな‼︎
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