神の末裔は褥に微睡む。

織緒こん

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神様のご利用は計画的に。

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 旅の間は勘弁してくれ、と言って逃げていた夜のアレコレについては、王都に帰ってきて早速にがっつり喰われた、と言っておこう。

 自業自得だ。

 お互いの寝室を繋ぐ扉の鍵は、夫側に鍵穴があって妻側にはつまみがある。ジェムは鍵を俺に渡して顳顬にキスして寝室に引っ込んだ。

 ズルくね? とか思ったわけだ。

 ジェムの方からは鍵がないと開かないのに、俺に渡すって。なんだかんだで一緒に眠る習慣がついてるのに、今更なんだよ。

 ムカついた俺の、ちょっとした出来心だったんた。⋯⋯こっちから襲ってみたら、どんな反応するのかなって。

 音がしないように細心の注意を払って鍵を開けて、そろそろとジェムが眠っているベッドに近づいた。

 ⋯⋯さーせんでしたッ!

 ベッドに引き摺り込まれて、あとはもう⋯⋯いや、言うまい。

 そんなわけで夜が明けてからもジェムにひたすらに甘やかされて、『コレが娘が言っていたスパダリというヤツか』と遠い目をしてしまったのは許してくれ。

 シュリは平然と朝風呂の支度をしているし、朝食に呼びに来た家令はジェムの寝室に居る俺を見て、穏やかに微笑んで何も言わずに去っていく。ワゴンに乗った食事がすぐに運ばれてきて悶絶した。食堂の義両親、特にお義母様の反応が怖い。

 シュリをはじめ侍従と侍女が微笑んで見ている中、求愛給餌とも言える公開処刑のような朝食を終えると早々に来客が伝えられた。宰相と内務卿の約束は、もう少し後だったはず。

「シャッペン伯爵がシュトレーゼンのお方を伴ってお訪ねになりました」

 外務卿からの先触れはお義父様のところにはちゃんときていたらしい。継嗣夫妻への連絡が遅れたのは、新婚夫婦の蜜月の邪魔をしないため、とか言われて再び悶絶した。満足そうなジェムが憎い⋯⋯。

 客を迎える応接間にジェムにエスコートされて向かう。ごめん、見栄張った。エスコート? ⋯⋯介助だ、介助。我慢してたぶんたがが外れたとか抜かしやがった。抱っこで運ばれると『なにをしたのか』バレバレっぽくて恥ずかしいので断固拒否したものの、結局自力で真っ直ぐ座れなくて膝に乗せられるにあたり、こんなことなら運んで貰えばよかったと黄昏れたのだった。

「おっはよう、アリスぅ。気怠そうにして、色っぽいぞぅ」

 ベリー、君の言葉は時に刃だ。マッティ、無表情でつがいを見つめてないで止めてくれ。微妙に唇の端が上がってるから、どうせベリーのこと可愛いとか思ってんだろうけど。

 ⋯⋯ジェムとマッティ、伴侶に対する姿勢が激しく似ている気がする。

「ベリンダ嬢、それくらいにしておかないと、アリスレア夫人が羞恥で憤死しそうだ」

 外務卿がベリーを嗜めた。外務卿なら俺を揶揄って楽しみそうなんだけど、ベリーがあんまりにもドストレートに突っ込んでくるので、流石に不憫に思ったようだ。王都に来てからふたりは外務卿の屋敷に泊まっているようだから、彼らに散々振り回されたのだと察せられる。朝から疲れたような表情カオをしている。

外務卿マスクス卿、ベリーがシャッペン伯爵家あなたの家で失礼なことしてませんか?」

 思わず聞いてしまった。

「いや、失礼なことはなにも⋯⋯」

「てことは、なにかしでかししたんですね?」

 言葉を濁したので突っ込んでみる。

「敷地内で『水寄せの魔法』なるものを使って、水脈を引き寄せた。毎日の水汲みに苦労していた下男が大助かりだ」

「一応聞くけど、やっぱそれって非常識だって言いたいんだよね?」

「それを確認してくるあなたもですよ」

 シュトレーゼン領では、新しい家を建てるときは、一番はじめに水を引いてもらうんだけど、よそは違うみたいだ。

 シュトレーゼン出身の三人で顔を見合わせた。やっぱり俺たちの常識は非常識みたいだ。

「アリスレア様のご実家の領地って、すごいんですのね」

 トーニャが目をキラキラさせて言った。俺たちは生まれたときからそうだったから、なにがすごいのかわからない。それでも褒められたことは嬉しいので、ベリーは「でっしょー」とニコニコして頷いた。トーニャとベリーは年齢も近いし、いい友達になれそうだ。

 そんな雑談をしていると、約束の時間になって、宰相と内務卿がやって来た。そして、少し遅刻して軍務卿と財務卿。⋯⋯軍務卿、財務卿を抱っこですか。ぐったりしてしどけないんですが、お屋敷で休ませてあげたほうが良かったのでは?

「俺がヴィッツ邸に邪魔してる間に、隙を見つけて逃げられたらどうする。一応抱き潰してはいるが、知恵のあるやつはなんとでもしやがるからな」

 俺の視線で言いたいことを察したのか、軍務卿はニヤリと笑って言った。

 物理的に動けなさそうな財務卿が、逃げられるわけがないと思う。彼はなじるように小さく「馬鹿」と言った。顔を軍務卿の胸に押し付けるようにして背けている。羞恥で俺たちに顔を見られたくないんだろう。

 その気持ち、すっごいわかる。

 今まさに、俺が同じ気持ちだからだ。

「さて、揃ったか」

 内務卿が気の毒げに財務卿をチラ見しながら注目を求めた。今日は法務卿は城で仕事らしい。て言うか、流石に全員は不味いとか。いや、宰相と四卿までいたら充分怪しいって。

 集会の目的は、姉神イェンが大陸中の神殿に撒いた神託について話し合うことだ。恐らく王都の神殿にも、すでに神託は下りている。

 教会の幹部が神殿に呼ばれて駆けつけていった以外に、未だ動きはない。ことが重大すぎて、民に大々的に知らせるべきか議論されるんだろう。本来なら城にも知らせが飛ぶはずなんだが、教会はアリスレアの婚姻とその無効をきっかけに、クシュナ王を信用していない。

「教会と神殿に、我らと陛下は袂を別っていると理解してもらわねばならんな」

 教会には来たるべき日に民の救済を行ってもらわなければならない。それも、俺たちと足並みを揃えてだ。

「イェン様に説明して貰えば良いよぅ」

「そうだなぁ。結局それが一番、信用してもらえそうだよなぁ」

 ベリーが軽く言ったので、俺も賛成する。こっちから教会に挨拶に行って、神託のかたりだとか言われても反論できる根拠がない。嘘か本当かなんて、俺たちの胸のうちにあるものなんて、証明のしようがないもんな。

「アリス、ここにイェン神をお呼びできるか?」

「うーん、湖じゃないからどうだろう。やってみるけど」

「待ちたまえ、ヴィッツ将軍。なにを普通にしてるんだ」

 膝に乗った俺に自然に話しかけたジェムに、顳顬に青筋を立てた内務卿が待ったをかけた。

「君はこちら側にいてもらわねば困る! 王妃⋯⋯ではない、アリスレア夫人が常識を欠いたとき修正できるのは、共にいる君のはずだ!」

 失礼な。俺の常識、非常識だったかもしれないけど、悪事を働くわけでもあるまいに。ちょっと不貞腐れて唇を尖らせると、ジェムにそこをつつかれた。やめれ。

「呼べるよぅ。はい、湖のお水ぅ。じゃじゃーん」

 ベリーが内務卿をまるっと無視して、斜めがけにしていた大きなバッグから、大きな瓶を取り出した。俺の感覚で言ったら一升瓶サイズだな。重たかったろうに。

「あたしだと手順がいるしイェン様の気まぐれ次第だけど、アリスなら大丈夫だよぅ」

 言いながらベリーは、お茶の支度のために用意されていたカップを拝借して瓶から水を注ぎ入れた。すでに一回、呼んでるんだもんな。

「お水に指つけてればいいよぅ」

「了解。じゃあ呼ぶな」

「⋯⋯待ちたまえ!」

 内務卿が咄嗟に止めたれど。

「呼んだ?」

 呼ぶ前に唐突に現れた美しい女神は、ジェムの膝に乗る俺の頬に手を伸ばし、嬉しげに笑った。
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