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大歓迎と熊の鈴。
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石窯に突っ込んでいた怪魚もこんがり焼けて、ヤンジャンコンビにちぎってもらった生野菜を添える。芋を大量に蒸して醪とバターで和える。本当はバター醤油にしたかったけどないものはない。汁物は⋯⋯ヤンジャンの謎スープだ。食品ロス撲滅! なにより食べてあげなきゃ怪魚と蛙が哀れだ。
そろそろ昼食どきだ。
パンとかないから芋でごまかしたつもりだったけど、ミヤビンとコニー君を連れたアラフィフっぽい胡麻塩頭のおっちゃんが、籠に山ほどのパンを抱えて食堂に現れた。パンは地元集落の共同パン窯で焼いてもらうんだそうだ。
「各家庭で毎食焼くと大変だろう? この辺の人たちは集落の真ん中に共同のパン窯を持っていて、家で捏ねたパン種を持ち寄ってまとめて焼くんだよ」
女将さんたちに少しずつ多めに捏ねてもらって、パン窯で焼き上がりを分けてもらってるんだって。各家庭から一~二個もらうと、傭兵団全員に行き渡るらしい。気の良い集落の女将さんたちは自分たちの生活を立て直しにきた傭兵団からお金をもらうのを嫌がったので、壊れかけた窯を修繕してあげたんだって。
パン種を窯に持っていって焼き上がったパンを持ち帰るのは、子どもとお年寄りの仕事って言うから、うまい具合に力のない者にも役割があるんだね。良い集落だなぁ。子どもとお年寄りと女が元気な土地は、良い土地だよね。
「なんだ、こんなにパンがあるならお芋はいらなかったかもね」
どっしりした全粒粉のパンだ。食べ応えがありそうだ。ガッツリ大量に芋を蒸しちゃったの、食べ切れるかな。
「いや、奴らは食う」
「きっと食べます」
ギィとサイが断言したところで、胡麻塩頭のおっちゃんが豪快に笑い声を上げた。
「そりゃ、食うな! こんだけ美味そうな匂いがしてる。ビン、お前の姉ちゃんは料理上手だな。良い嫁さんになるぞ!」
「フィーおじさん、ルン兄ちゃんは男子だよ」
「そうだよ、フィー。失礼だよ」
ミヤビンは物おじしないでおっちゃんの腕をつついた。土木作業員にはこんな豪快なおっちゃんが多いからな。いつも飴をくれるノブさんやお小遣いをくれようとするマサさんが、こんなおっちゃんだ。
「そうかい? てっきり坊主のふりした嬢ちゃんだと思ったよ。ビンはそうだよな?」
ツッコミどころは満載だけど、俺が口を開く前にドヤドヤと薄汚れた男どもが二十人⋯⋯もっといるか? とにかく大勢食堂にやって来た。午前中も作業をしていたんだろう、汗と泥に塗れている。
「ビンちゃんの姉ちゃんか! コニーを助けてくれてありがとうな!」
「ビンちゃんの姉ちゃん、元気になってよかったなぁ!」
「ビンちゃんの姉ちゃ⋯⋯」
割れ鐘みたいな大声と陽気な笑顔でコニーを助けたことに感謝され、怪我が治ったことを喜んでくれる。人数と体格のせいで圧が凄い。思わずのけぞってたたらを踏んだ。
て言うか、姉ちゃん言うな。
気圧されてポカンと口を開けていたら、ギィにヒョイと抱え上げられた。最初にお風呂に連れて行かれたときみたいな、お父さん抱っこだ。視線が高くなって、圧迫感が薄れた。
「大丈夫か?」
「うん」
子ども扱いには言いたいことはたくさんあるけど、ぐっと飲み込む。それより先に言わなきゃいけないことがある。ギィの腕はどっしりと安定感があって、安心して傭兵たちにむかって振り向くことができた。
「しばらく前からご厄介になってます。ルンです。ビンの兄です。俺たちのこと、どこまで聞いてるかわからないけど、俺も話していいことといけないことの判断がつかないから、ギィにお任せしようと思ってます。とりあえず、ご飯を作ることになりそうです。よろしくお願いします」
「します!」
ミヤビンが俺の言葉尻を繰り返してペコリとした。俺はギィに抱っこされたままだから、頭だけ下げる。ギィが背中をトントンして『よく出来ました』ってするから、ちょっと唇を尖らせる。子ども扱いが酷い。
「うおぉ、副団長がコニー坊意外に優しいところ、初めて見た!」
「坊の恩人なら俺たちも崇め奉らねばならんな!」
「崇め⋯⋯って、お前、よく舌が回ったな。そんな上品じゃねぇだろ?」
よくわからんが、ここの人々は豪快で細かいことを気にしないようだ。
こうして俺とミヤビンは、傭兵団に受け入れられた。⋯⋯一番の理由はメシマズからの解放だろうけど。
蛙の唐揚げと怪魚のオーブン焼きは涙で歓迎された。そして謎スープはそれとは別の涙で濡れる傭兵たちの胃の中に収まった。俺もちょっと味見したけど、アレはちょっと凄い。火を吹くほどの唐辛子と胡椒でも消しきれない生臭さが、大蒜と混じるとそれはもう強烈だった。
ひと舐めでギブアップして、ミヤビンとコニー君の前にはスープ皿も置かなかった。今までコニー君のご飯はサイが作ってたそうだ。そりゃそうだ。この香辛料の量、子どもには良くないよ。
「ルンちゃん、ビンちゃん、もうずっと傭兵団にいていいからなぁ!」
「むしろ俺んとこに嫁に来て!」
「いやいやいや、俺んとこだから!」
男の俺を嫁にしたくなるほど、今までの食事が辛かったみたいだ。
「⋯⋯あのさ、集落の女将さんたちに賃金を払って、食事を作りに来てもらうことはできなかったの? って、今更か」
首を傾げて呟くと、食堂が一瞬で静かになった。あれ、どうしたの?
「⋯⋯そうか、そうすればよかったのか」
ギィが半ば呆然として言った。ぐるっと食堂を見回すと、だいたいみんな同じような表情をしている。もしかして、誰もそれを思い付かなかったのか?
「ここは借宿で依頼をこなしたらすぐに出ていくし、炊き出しの訓練になると思ったんだ」
「僕がアドバイスするまで、味付けは塩のみでした」
「文句言いたくても、じゃあお前が作れって返されたらどうしようってなるっす」
「自分のほうが美味いものが作れるなんて、誰も言えないっすよ」
ギィもサイも一応努力したんだ。ヤンジャンも情けなさそうに眉毛を下げていて、でかい図体の傭兵たちも軒並みしょんぼりしている。
「⋯⋯じゃあ、ギィ。俺、採用してもらえるってことで、いいのかな?」
「まだ納得してなかったか?」
「ギィがよくても、他のみんなの口に合わない料理じゃどうにもならないでしょ」
国が違えば好みの味も違う。ましてや世界が違うんだよ。
「美味いっす!」
「マジ、神っす!」
ヤンジャンは相変わらず軽いけど、それに呼応して食堂のみんなが野太い声で口々に料理を褒めてくれた。
こうして俺とミヤビンは傭兵団に迎え入れられて、正式に賄い夫として雇われた。食事をしながら自己紹介も順番にしてくれたけど、三十人弱は一気には覚えられなかった。彼らは食事当番の日は、俺の手伝いをしてくれることになった。怪魚をかかえることもできないわけだけど、それよりもっと大変なことがあったんだ。
貯蔵庫に角猪の肉があっただろ?
あれはヤンジャンが狩ってきて解体したものだったんだと。
⋯⋯無理っしょ。
小学校の入学式に、ピカピカの一年生は市役所から鈴を貰う。全員が黄色いカバーと貰った鈴を新品のランドセルにつけて、ワクワクドキドキするのが新一年生の証だ。⋯⋯鈴は熊よけなんだけれども。そんな田舎に居を構えている桜木家のじいちゃんは猟友会に入ってた。シーズンには役所から害獣駆除を要請されて、熊の他に鹿とか猪とか狩ってたんだよ。
解体も見たことあるし、生きていくうえでの殺生は避けて通れないことだと思うんだ。でも猟友会の腕っこきのおっちゃんたちが数人がかりで解体してたの、俺ひとりじゃ無理。そもそも、狩れない。罠はともかく弓とか使ったことないし。
昼食作りはお試しみたいなものだったから、後片付けはヤンジャンコンビが引き受けてくれた。
夕食の支度も作る量を考えたら、早めに始めなきゃならない。すぐにも始めたかったけど、他に用ができた。ギィにまずは俺とミヤビンの部屋を決めなきゃならないって言われたんだよね。たしかにそうだよ。俺が眠ってた部屋、ギィの部屋だったんだって。
「お前ひとりなら俺の部屋で一緒に寝泊まりしてもいいが、ビンがいるだろう? 今までビンには医務室のベッドで寝てもらって、若いのが交代で入り口の番をしてたんだよ」
子どもとは言え女の子、それも聖女様を大部屋に突っ込むわけには行かないし、ひとり部屋も心細いだろうって説明された。
「三階の一番奥に団長の部屋がある。そのとなりにビンとふたりで使える部屋を用意しよう」
「団長?」
そう言えば、ギィは副団長だった。
「胡麻塩頭のフィーだ」
「フィーさん、団長だったんだ。あ、さん付けダメだっけ?」
父さんほどの年齢の人を呼び捨てって、ちょっと慣れないな。そうか、だからミヤビンはおじさんっね呼んでるんだな。でも俺がフィーおじさんって呼ぶのは微妙だよな。今もミヤビンとコニー君をこの辺りの散策に連れ出してくれていて、めちゃくちゃ面倒見のいいおっちゃんって感じの人だけど。
「ここ、何階建て?」
意識のある状態で外観を見たことないし、ほとんどベッドの中だったから、どんな建物なのかよくわからない。
「三階建てだ」
団長さんの部屋が三階ってことは、偉い人は最上階ってことかな。エレベーターとかなさそうだから、地味に登るのキツそうだけど。鍛えた傭兵ならアラフィフでも余裕かな。最近まで高校生だった俺もへっちゃらで階段を登る。
「この建物の元の持ち主は、女主人の部屋として用意したらしい。備え付けの風呂と手洗いがあるから、ビンにはここがいいだろう。ふたりとも小柄だから、ベッドはひとつでいいか?」
ガチャリと扉を開けると、確かに女主人の部屋だった。ベッドは曲線が多用された柔らかなデザインで、壁紙は温かみのあるベージュピンクだ。朝まで俺が寝かせてもらっていたギィの部屋は、もっとゴツゴツした感じだったもんな。俺には可愛すぎるけど、ミヤビンがいるからありがたく使わせてもらおう。
「拠点の俺の家に帰ったら、ちゃんとひとりずつ部屋を用意してやるからな」
ギィは至れり尽くせりだ。ありがたすぎて涙が出てきそうだよ。
そろそろ昼食どきだ。
パンとかないから芋でごまかしたつもりだったけど、ミヤビンとコニー君を連れたアラフィフっぽい胡麻塩頭のおっちゃんが、籠に山ほどのパンを抱えて食堂に現れた。パンは地元集落の共同パン窯で焼いてもらうんだそうだ。
「各家庭で毎食焼くと大変だろう? この辺の人たちは集落の真ん中に共同のパン窯を持っていて、家で捏ねたパン種を持ち寄ってまとめて焼くんだよ」
女将さんたちに少しずつ多めに捏ねてもらって、パン窯で焼き上がりを分けてもらってるんだって。各家庭から一~二個もらうと、傭兵団全員に行き渡るらしい。気の良い集落の女将さんたちは自分たちの生活を立て直しにきた傭兵団からお金をもらうのを嫌がったので、壊れかけた窯を修繕してあげたんだって。
パン種を窯に持っていって焼き上がったパンを持ち帰るのは、子どもとお年寄りの仕事って言うから、うまい具合に力のない者にも役割があるんだね。良い集落だなぁ。子どもとお年寄りと女が元気な土地は、良い土地だよね。
「なんだ、こんなにパンがあるならお芋はいらなかったかもね」
どっしりした全粒粉のパンだ。食べ応えがありそうだ。ガッツリ大量に芋を蒸しちゃったの、食べ切れるかな。
「いや、奴らは食う」
「きっと食べます」
ギィとサイが断言したところで、胡麻塩頭のおっちゃんが豪快に笑い声を上げた。
「そりゃ、食うな! こんだけ美味そうな匂いがしてる。ビン、お前の姉ちゃんは料理上手だな。良い嫁さんになるぞ!」
「フィーおじさん、ルン兄ちゃんは男子だよ」
「そうだよ、フィー。失礼だよ」
ミヤビンは物おじしないでおっちゃんの腕をつついた。土木作業員にはこんな豪快なおっちゃんが多いからな。いつも飴をくれるノブさんやお小遣いをくれようとするマサさんが、こんなおっちゃんだ。
「そうかい? てっきり坊主のふりした嬢ちゃんだと思ったよ。ビンはそうだよな?」
ツッコミどころは満載だけど、俺が口を開く前にドヤドヤと薄汚れた男どもが二十人⋯⋯もっといるか? とにかく大勢食堂にやって来た。午前中も作業をしていたんだろう、汗と泥に塗れている。
「ビンちゃんの姉ちゃんか! コニーを助けてくれてありがとうな!」
「ビンちゃんの姉ちゃん、元気になってよかったなぁ!」
「ビンちゃんの姉ちゃ⋯⋯」
割れ鐘みたいな大声と陽気な笑顔でコニーを助けたことに感謝され、怪我が治ったことを喜んでくれる。人数と体格のせいで圧が凄い。思わずのけぞってたたらを踏んだ。
て言うか、姉ちゃん言うな。
気圧されてポカンと口を開けていたら、ギィにヒョイと抱え上げられた。最初にお風呂に連れて行かれたときみたいな、お父さん抱っこだ。視線が高くなって、圧迫感が薄れた。
「大丈夫か?」
「うん」
子ども扱いには言いたいことはたくさんあるけど、ぐっと飲み込む。それより先に言わなきゃいけないことがある。ギィの腕はどっしりと安定感があって、安心して傭兵たちにむかって振り向くことができた。
「しばらく前からご厄介になってます。ルンです。ビンの兄です。俺たちのこと、どこまで聞いてるかわからないけど、俺も話していいことといけないことの判断がつかないから、ギィにお任せしようと思ってます。とりあえず、ご飯を作ることになりそうです。よろしくお願いします」
「します!」
ミヤビンが俺の言葉尻を繰り返してペコリとした。俺はギィに抱っこされたままだから、頭だけ下げる。ギィが背中をトントンして『よく出来ました』ってするから、ちょっと唇を尖らせる。子ども扱いが酷い。
「うおぉ、副団長がコニー坊意外に優しいところ、初めて見た!」
「坊の恩人なら俺たちも崇め奉らねばならんな!」
「崇め⋯⋯って、お前、よく舌が回ったな。そんな上品じゃねぇだろ?」
よくわからんが、ここの人々は豪快で細かいことを気にしないようだ。
こうして俺とミヤビンは、傭兵団に受け入れられた。⋯⋯一番の理由はメシマズからの解放だろうけど。
蛙の唐揚げと怪魚のオーブン焼きは涙で歓迎された。そして謎スープはそれとは別の涙で濡れる傭兵たちの胃の中に収まった。俺もちょっと味見したけど、アレはちょっと凄い。火を吹くほどの唐辛子と胡椒でも消しきれない生臭さが、大蒜と混じるとそれはもう強烈だった。
ひと舐めでギブアップして、ミヤビンとコニー君の前にはスープ皿も置かなかった。今までコニー君のご飯はサイが作ってたそうだ。そりゃそうだ。この香辛料の量、子どもには良くないよ。
「ルンちゃん、ビンちゃん、もうずっと傭兵団にいていいからなぁ!」
「むしろ俺んとこに嫁に来て!」
「いやいやいや、俺んとこだから!」
男の俺を嫁にしたくなるほど、今までの食事が辛かったみたいだ。
「⋯⋯あのさ、集落の女将さんたちに賃金を払って、食事を作りに来てもらうことはできなかったの? って、今更か」
首を傾げて呟くと、食堂が一瞬で静かになった。あれ、どうしたの?
「⋯⋯そうか、そうすればよかったのか」
ギィが半ば呆然として言った。ぐるっと食堂を見回すと、だいたいみんな同じような表情をしている。もしかして、誰もそれを思い付かなかったのか?
「ここは借宿で依頼をこなしたらすぐに出ていくし、炊き出しの訓練になると思ったんだ」
「僕がアドバイスするまで、味付けは塩のみでした」
「文句言いたくても、じゃあお前が作れって返されたらどうしようってなるっす」
「自分のほうが美味いものが作れるなんて、誰も言えないっすよ」
ギィもサイも一応努力したんだ。ヤンジャンも情けなさそうに眉毛を下げていて、でかい図体の傭兵たちも軒並みしょんぼりしている。
「⋯⋯じゃあ、ギィ。俺、採用してもらえるってことで、いいのかな?」
「まだ納得してなかったか?」
「ギィがよくても、他のみんなの口に合わない料理じゃどうにもならないでしょ」
国が違えば好みの味も違う。ましてや世界が違うんだよ。
「美味いっす!」
「マジ、神っす!」
ヤンジャンは相変わらず軽いけど、それに呼応して食堂のみんなが野太い声で口々に料理を褒めてくれた。
こうして俺とミヤビンは傭兵団に迎え入れられて、正式に賄い夫として雇われた。食事をしながら自己紹介も順番にしてくれたけど、三十人弱は一気には覚えられなかった。彼らは食事当番の日は、俺の手伝いをしてくれることになった。怪魚をかかえることもできないわけだけど、それよりもっと大変なことがあったんだ。
貯蔵庫に角猪の肉があっただろ?
あれはヤンジャンが狩ってきて解体したものだったんだと。
⋯⋯無理っしょ。
小学校の入学式に、ピカピカの一年生は市役所から鈴を貰う。全員が黄色いカバーと貰った鈴を新品のランドセルにつけて、ワクワクドキドキするのが新一年生の証だ。⋯⋯鈴は熊よけなんだけれども。そんな田舎に居を構えている桜木家のじいちゃんは猟友会に入ってた。シーズンには役所から害獣駆除を要請されて、熊の他に鹿とか猪とか狩ってたんだよ。
解体も見たことあるし、生きていくうえでの殺生は避けて通れないことだと思うんだ。でも猟友会の腕っこきのおっちゃんたちが数人がかりで解体してたの、俺ひとりじゃ無理。そもそも、狩れない。罠はともかく弓とか使ったことないし。
昼食作りはお試しみたいなものだったから、後片付けはヤンジャンコンビが引き受けてくれた。
夕食の支度も作る量を考えたら、早めに始めなきゃならない。すぐにも始めたかったけど、他に用ができた。ギィにまずは俺とミヤビンの部屋を決めなきゃならないって言われたんだよね。たしかにそうだよ。俺が眠ってた部屋、ギィの部屋だったんだって。
「お前ひとりなら俺の部屋で一緒に寝泊まりしてもいいが、ビンがいるだろう? 今までビンには医務室のベッドで寝てもらって、若いのが交代で入り口の番をしてたんだよ」
子どもとは言え女の子、それも聖女様を大部屋に突っ込むわけには行かないし、ひとり部屋も心細いだろうって説明された。
「三階の一番奥に団長の部屋がある。そのとなりにビンとふたりで使える部屋を用意しよう」
「団長?」
そう言えば、ギィは副団長だった。
「胡麻塩頭のフィーだ」
「フィーさん、団長だったんだ。あ、さん付けダメだっけ?」
父さんほどの年齢の人を呼び捨てって、ちょっと慣れないな。そうか、だからミヤビンはおじさんっね呼んでるんだな。でも俺がフィーおじさんって呼ぶのは微妙だよな。今もミヤビンとコニー君をこの辺りの散策に連れ出してくれていて、めちゃくちゃ面倒見のいいおっちゃんって感じの人だけど。
「ここ、何階建て?」
意識のある状態で外観を見たことないし、ほとんどベッドの中だったから、どんな建物なのかよくわからない。
「三階建てだ」
団長さんの部屋が三階ってことは、偉い人は最上階ってことかな。エレベーターとかなさそうだから、地味に登るのキツそうだけど。鍛えた傭兵ならアラフィフでも余裕かな。最近まで高校生だった俺もへっちゃらで階段を登る。
「この建物の元の持ち主は、女主人の部屋として用意したらしい。備え付けの風呂と手洗いがあるから、ビンにはここがいいだろう。ふたりとも小柄だから、ベッドはひとつでいいか?」
ガチャリと扉を開けると、確かに女主人の部屋だった。ベッドは曲線が多用された柔らかなデザインで、壁紙は温かみのあるベージュピンクだ。朝まで俺が寝かせてもらっていたギィの部屋は、もっとゴツゴツした感じだったもんな。俺には可愛すぎるけど、ミヤビンがいるからありがたく使わせてもらおう。
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