34 / 47
誘拐と更なる誘拐と見えない何か。
しおりを挟む
「ねぇ、シュウさん。あの山賊モドキは暁傭兵団の偽装かなぁ?」
見たことある顔なんて、ひとつもないけれど。小窓のシェードをちょっとだけずらして外を見ると、むさ苦しい⋯⋯いや、凶悪そうな面構えの男たちに取り囲まれていた。こんな金ピカの馬車、動く身代金みたいなものだ。狙われても仕方がないな。
先を行く二台の馬車には宰相と侯爵がそれぞれ乗っている。利害が一致しなければ仲が悪そうだから、相乗りはしていない。俺と同乗する権利を争った結果、三台目の馬車を用意して俺にあてがったと言うわけだ。
わぁわぁ叫びながら護衛の私兵団が剣を振り回している。悪漢は余裕を持ってそれを躱して、手入れの行き届いていなさそうな長いナイフを護衛に突き込んだ。
チカっと脳裏で弾けたのは、朧に揺れるふたつの月と少年に向かって振り下ろされる剣だった。斬られそうになったコニー君の前に飛び出してしまったときの記憶だ。一瞬目の前が真っ暗になって、グッと堪える。ここで失神したら、シュウさんの足を引っ張ってしまう。それでなくても戦闘力のない俺はお荷物なんだから、せめて意識は保っておかなくちゃ。
「本物の破落戸ですね。ルン様、絶対に顔を見せてはいけませんよ。ブチから手を離さないで」
「わかった」
目を覚ました幼子がキョロキョロと馬車の中を見渡している。ブチには外の様子を見せていないので、何が起こっているのかわからないようだ。こんな小さな子どもが次から次へと暴力沙汰に巻き込まれるなんて、あってはならないことだ。
「ブチ、ルン様から離れないでください。大きな声も出してはいけませんよ」
「あい」
「いい子です」
シュウさんは神妙に返事をしたブチの頭をするりと撫でて、微笑んだ。
「わたくしが出ても、せいぜい三、四人しか相手にできません。ここはか弱い侍従のふりをして、ルン様と共におります」
突っ込みたい点はあれど、黙って頷いておいた。シュウさんがどれだけ強いかわからないけれど、山賊たちは軽く二十人はいたように見えた。王都から宰相が連れてきた護衛も、侯爵家の私兵も動きは鈍い。俺はてんで素人だけど、ギィたちの鍛錬を見たことがあるから、違いはなんとなくわかった。
ガツガツと争う音が続く間、俺たちはじっと息を潜めた。前の馬車が順番にあばかれている。「無礼者!」とか「儂を誰だと思っておる!」とか、空気を読まない怒声が聞こえてくる。山賊を刺激してどうするんだ。考えがあって挑発しているのなら勇気を讃えるが、箒とビア樽の阿呆さ加減じゃあ、それは絶対にない。
馬が興奮気味に嘶いている。時折ギシギシ馬車が揺れるのは、脚を踏み鳴らしているからだろう。御者はとっくに逃げ出したようで馬の暴走を心配する。暴走馬車の事故と破落戸との遭遇、どちらがより悲惨なんだろう。
ついに俺たちが乗る馬車の扉が開かれた。
逆光を背負って現れた山賊は、ずんぐりとしていて大きかった。顔中が髭に覆われている。清潔にしていないせいで脂と埃に塗れて塊になっていて、すえた臭いがした。
「こりゃ上玉だ。売り飛ばす前に、味見をするのもいいかもしれねぇなぁ」
濁声で不愉快なことを言われた。
「馬鹿なこと言うなよ。値が下がるだろう」
濁声が増えた。ひとまずの危険は回避されたけれど、あんまり嬉しくない。強奪品の俺たちは、どこかで金に変える算段がなされているようだ。
腕の中でブチがひゅっと息を吸い込んで、小さな手のひらで口を覆った。シュウさんに言われたことを健気に守っている。強い子だ。
「綺麗なのと可愛いのと先が楽しみなのか。どれも好事家が喜びそうだ」
下卑た輩の下卑た発言に、俺を背中に庇うシュウさんの肩が一瞬揺れた。それは近くにいた俺にしかわからないほど僅かなもので、彼がひどく怒っていることがわかる。
それからしばらくは入れ替わり立ち替わり、似たような髭面の山賊たちが馬車の中を見にきた。ヒュウと口笛を吹いたり、厭らしい言葉を投げかけてきたり、全く気持ち悪い奴らだった。けれど誰も俺たちを馬車から引き摺り出そうとしなかったのを不思議に思っていたら、疑問はすぐに解決した。馬車ごと誘拐されたんだよ。
金ピカ馬車の装飾は本物の宝飾だから、立派な財産だ。この場でひっぺがすよりアジトで丁寧に作業をしたほうが、傷をつけずに分解できる。馬だって侯爵家の馬だから、見栄えのいい子たちだった。逃げ出したと思われた御者もすぐに捕まって御者台に括り付けられ、彼の手綱捌きで山賊のアジトに向かって発進した。
その間、俺たちは三人で抱き合って震えていた。⋯⋯半分ふりだったけれど。
シュウさんはもちろん、震えているはずがない。俺はひとまずの危機が去ったことに気が抜けて、ブチに至っては状況が理解できていないからだ。
「宰相たちの馬車は残しておくようですね」
ばきんばきんと破壊音に混じって、おっさんたちが喚き散らす声と、山賊たちの歓声が聞こえる。あっちの馬車は金ピカを剥がして運ぶようだ。完品は一台で充分らしい。
「ですが妙です」
走り出す馬車は宰相たちから離れていく。声もすぐに聞こえなくなって、本当に彼らから引き離されたのがわかる。その様子を気配で把握しながら、シュウさんが眉根を寄せた。
「生命を奪う気配がありません。生かしておいても足がつくだけですのに」
「身代金目的じゃないの?」
「捨てていくのですから、それはないです」
それもそうか。なんかこう、もやっとしたもので胸が気持ちが悪い。解決しそうでしないイラつきに唇を尖らせる。
「わざと⋯⋯わざとだよな」
「それは間違いないです。ですがご安心ください。ジャンがビン様の魔力を追っていますから、我々を見失うことはありません」
兄のアロンさんほどではないけれど、ジャンもそれなりの魔力持ちだそうだ。兄の凄さを見て育った彼は、自分の魔力は大したことがないと思い込んでいたし、ちまちまと文献を漁るのは性分でないと騎士を目指したんだって。結果、魔法も使える騎士と言う、非常にレアな存在になってしまったんだとか。彼なら俺が首から下げているミヤビンの魔力を辿れるはずだ。
それから俺は、小窓をほんの少し⋯⋯本当に少しだけ開いて、手首の鳥笛を吹いた。人間の耳にはなにも聞こえない。開けた小窓に気づかれやしないかとドキドキする。ブチの温もりと励ますように頷いてくれるシュウさんに励まされて、数分おきにそれを繰り返す。
しばらくしてバサバサと羽音がして、山賊どもが騒ぎ立てる声が聞こえた。
「ヨーコちゃんだ!」
雌の鷹だから鷹子ちゃん、安直な名前だけれど賢くて美しい子だ。もう一度すかすかと鳥笛を鳴らすとすぐに外は静かになって、ヨーコちゃんが飛び去ったと見当をつける。山賊たちも猛禽に襲われる恐怖から脱したらしい。
手紙は付けられなかったけれど、ギィのところへ向かうように合図をした。ギィがヨーコちゃんに気づいてくれますように。ジャンのことは信頼しているけれど、やっぱりギィの腕の中に勝る安心はない。
食事かトイレの隙をついて逃げ出すことも考えたけれど、さほど時間もかからずに目的地に着いたようだ。今度こそ馬車から引き摺り出されて、アジトに連れ込まれた。抵抗はしない。下手に暴れてブチを奪われたら困る。シュウさんもチラリと目配せを寄越すに留まっているから、正解なんだろう。
外観は古い洋館だった。この国に日本家屋なんてないから、何の特徴にもならないか。作業のための小屋じゃない。ちゃんと人が住むための家だな。ただし空き家になって何年か経っていそうだ。
じっくり観察する間もなく、一階の奥まった部屋に押し込められた。窓は打ち付けられていて外の光は余り入ってこない。埃っぽいしジメジメしている。歩いている間、山賊にお尻を撫で回されて、めちゃくちゃ不快だった。電車の中だったら『痴漢です!』って大声を出してやったのに。
見ればシュウさんはもっとあからさまに首を撫でられたり、口に汚い指を突っ込まれたりしている。彼が無表情で何の反応も返さないので、山賊は舌打ちをして指を引き抜いた。シュウさんは懐からハンカチを取り出してそこに唾を吐く。
「別嬪さん、随分舐めた真似をしてくれるじゃねぇか。そのちっせい尻にドデカイ魔羅を突っ込んで、ヒイヒイいわしてやろうか?」
「わーわーわーッ!」
なんだってゲスいヤツらは小さな子どもの前で、お行儀の悪いことばかり言うんだよ! 思わず大声を出しながら、ブチの耳を塞いだ。
「かわい子ちゃんも黙りな」
「おっさんも黙れよ! 子どもに聞かせていい話じゃないだろう⁈」
「へぇ、お前は意味がわかってんだな」
ニヤつくな、気持ち悪い!
「下のおクチは初物じゃないと値が下がるが、上のおクチはバレねぇんだぜ?」
「噛みちぎってやるから安心しろ」
想像するだけで吐き気がするが、報復はしっかりしてやる。
「オッソロしいこと言うなよ! ひゅんってしたぞ!」
「勝手にしてろ」
「見た目は可愛いが、とんだじゃじゃ馬だな! 変なことしてみろ、そのガキをぶち殺してやるからな‼︎」
うっかり挑発しすぎたか? 髭の隙間からわずかに見える皮膚がドス黒く色を変えた。清潔にしてたら紅潮して見えるんだろうが、激しく不潔なのでそうは見えない。俺に掴みかかろうとしたのか、山賊が大きく腕を振りかぶって⋯⋯ズドンと音を立てて前のめりに倒れ込んだ。
シュウさんに素早く後ろに引いてもらったおかげで下敷きにならずに済んだけど、俺の視線は倒れた山賊の背中に釘付けになった。
剣が生えている。
足跡の残る埃まみれの床板に、山賊の身体から流れる血液が広がっていく。光採窓からわずかに差し込む光の筋に、舞い上がった埃がキラキラと輝いている。
「助けに来ましたよ、聖女様」
そう言って微笑んだ男に向かって、俺は呆然と呼びかけた。
「誰?」
と。
見たことある顔なんて、ひとつもないけれど。小窓のシェードをちょっとだけずらして外を見ると、むさ苦しい⋯⋯いや、凶悪そうな面構えの男たちに取り囲まれていた。こんな金ピカの馬車、動く身代金みたいなものだ。狙われても仕方がないな。
先を行く二台の馬車には宰相と侯爵がそれぞれ乗っている。利害が一致しなければ仲が悪そうだから、相乗りはしていない。俺と同乗する権利を争った結果、三台目の馬車を用意して俺にあてがったと言うわけだ。
わぁわぁ叫びながら護衛の私兵団が剣を振り回している。悪漢は余裕を持ってそれを躱して、手入れの行き届いていなさそうな長いナイフを護衛に突き込んだ。
チカっと脳裏で弾けたのは、朧に揺れるふたつの月と少年に向かって振り下ろされる剣だった。斬られそうになったコニー君の前に飛び出してしまったときの記憶だ。一瞬目の前が真っ暗になって、グッと堪える。ここで失神したら、シュウさんの足を引っ張ってしまう。それでなくても戦闘力のない俺はお荷物なんだから、せめて意識は保っておかなくちゃ。
「本物の破落戸ですね。ルン様、絶対に顔を見せてはいけませんよ。ブチから手を離さないで」
「わかった」
目を覚ました幼子がキョロキョロと馬車の中を見渡している。ブチには外の様子を見せていないので、何が起こっているのかわからないようだ。こんな小さな子どもが次から次へと暴力沙汰に巻き込まれるなんて、あってはならないことだ。
「ブチ、ルン様から離れないでください。大きな声も出してはいけませんよ」
「あい」
「いい子です」
シュウさんは神妙に返事をしたブチの頭をするりと撫でて、微笑んだ。
「わたくしが出ても、せいぜい三、四人しか相手にできません。ここはか弱い侍従のふりをして、ルン様と共におります」
突っ込みたい点はあれど、黙って頷いておいた。シュウさんがどれだけ強いかわからないけれど、山賊たちは軽く二十人はいたように見えた。王都から宰相が連れてきた護衛も、侯爵家の私兵も動きは鈍い。俺はてんで素人だけど、ギィたちの鍛錬を見たことがあるから、違いはなんとなくわかった。
ガツガツと争う音が続く間、俺たちはじっと息を潜めた。前の馬車が順番にあばかれている。「無礼者!」とか「儂を誰だと思っておる!」とか、空気を読まない怒声が聞こえてくる。山賊を刺激してどうするんだ。考えがあって挑発しているのなら勇気を讃えるが、箒とビア樽の阿呆さ加減じゃあ、それは絶対にない。
馬が興奮気味に嘶いている。時折ギシギシ馬車が揺れるのは、脚を踏み鳴らしているからだろう。御者はとっくに逃げ出したようで馬の暴走を心配する。暴走馬車の事故と破落戸との遭遇、どちらがより悲惨なんだろう。
ついに俺たちが乗る馬車の扉が開かれた。
逆光を背負って現れた山賊は、ずんぐりとしていて大きかった。顔中が髭に覆われている。清潔にしていないせいで脂と埃に塗れて塊になっていて、すえた臭いがした。
「こりゃ上玉だ。売り飛ばす前に、味見をするのもいいかもしれねぇなぁ」
濁声で不愉快なことを言われた。
「馬鹿なこと言うなよ。値が下がるだろう」
濁声が増えた。ひとまずの危険は回避されたけれど、あんまり嬉しくない。強奪品の俺たちは、どこかで金に変える算段がなされているようだ。
腕の中でブチがひゅっと息を吸い込んで、小さな手のひらで口を覆った。シュウさんに言われたことを健気に守っている。強い子だ。
「綺麗なのと可愛いのと先が楽しみなのか。どれも好事家が喜びそうだ」
下卑た輩の下卑た発言に、俺を背中に庇うシュウさんの肩が一瞬揺れた。それは近くにいた俺にしかわからないほど僅かなもので、彼がひどく怒っていることがわかる。
それからしばらくは入れ替わり立ち替わり、似たような髭面の山賊たちが馬車の中を見にきた。ヒュウと口笛を吹いたり、厭らしい言葉を投げかけてきたり、全く気持ち悪い奴らだった。けれど誰も俺たちを馬車から引き摺り出そうとしなかったのを不思議に思っていたら、疑問はすぐに解決した。馬車ごと誘拐されたんだよ。
金ピカ馬車の装飾は本物の宝飾だから、立派な財産だ。この場でひっぺがすよりアジトで丁寧に作業をしたほうが、傷をつけずに分解できる。馬だって侯爵家の馬だから、見栄えのいい子たちだった。逃げ出したと思われた御者もすぐに捕まって御者台に括り付けられ、彼の手綱捌きで山賊のアジトに向かって発進した。
その間、俺たちは三人で抱き合って震えていた。⋯⋯半分ふりだったけれど。
シュウさんはもちろん、震えているはずがない。俺はひとまずの危機が去ったことに気が抜けて、ブチに至っては状況が理解できていないからだ。
「宰相たちの馬車は残しておくようですね」
ばきんばきんと破壊音に混じって、おっさんたちが喚き散らす声と、山賊たちの歓声が聞こえる。あっちの馬車は金ピカを剥がして運ぶようだ。完品は一台で充分らしい。
「ですが妙です」
走り出す馬車は宰相たちから離れていく。声もすぐに聞こえなくなって、本当に彼らから引き離されたのがわかる。その様子を気配で把握しながら、シュウさんが眉根を寄せた。
「生命を奪う気配がありません。生かしておいても足がつくだけですのに」
「身代金目的じゃないの?」
「捨てていくのですから、それはないです」
それもそうか。なんかこう、もやっとしたもので胸が気持ちが悪い。解決しそうでしないイラつきに唇を尖らせる。
「わざと⋯⋯わざとだよな」
「それは間違いないです。ですがご安心ください。ジャンがビン様の魔力を追っていますから、我々を見失うことはありません」
兄のアロンさんほどではないけれど、ジャンもそれなりの魔力持ちだそうだ。兄の凄さを見て育った彼は、自分の魔力は大したことがないと思い込んでいたし、ちまちまと文献を漁るのは性分でないと騎士を目指したんだって。結果、魔法も使える騎士と言う、非常にレアな存在になってしまったんだとか。彼なら俺が首から下げているミヤビンの魔力を辿れるはずだ。
それから俺は、小窓をほんの少し⋯⋯本当に少しだけ開いて、手首の鳥笛を吹いた。人間の耳にはなにも聞こえない。開けた小窓に気づかれやしないかとドキドキする。ブチの温もりと励ますように頷いてくれるシュウさんに励まされて、数分おきにそれを繰り返す。
しばらくしてバサバサと羽音がして、山賊どもが騒ぎ立てる声が聞こえた。
「ヨーコちゃんだ!」
雌の鷹だから鷹子ちゃん、安直な名前だけれど賢くて美しい子だ。もう一度すかすかと鳥笛を鳴らすとすぐに外は静かになって、ヨーコちゃんが飛び去ったと見当をつける。山賊たちも猛禽に襲われる恐怖から脱したらしい。
手紙は付けられなかったけれど、ギィのところへ向かうように合図をした。ギィがヨーコちゃんに気づいてくれますように。ジャンのことは信頼しているけれど、やっぱりギィの腕の中に勝る安心はない。
食事かトイレの隙をついて逃げ出すことも考えたけれど、さほど時間もかからずに目的地に着いたようだ。今度こそ馬車から引き摺り出されて、アジトに連れ込まれた。抵抗はしない。下手に暴れてブチを奪われたら困る。シュウさんもチラリと目配せを寄越すに留まっているから、正解なんだろう。
外観は古い洋館だった。この国に日本家屋なんてないから、何の特徴にもならないか。作業のための小屋じゃない。ちゃんと人が住むための家だな。ただし空き家になって何年か経っていそうだ。
じっくり観察する間もなく、一階の奥まった部屋に押し込められた。窓は打ち付けられていて外の光は余り入ってこない。埃っぽいしジメジメしている。歩いている間、山賊にお尻を撫で回されて、めちゃくちゃ不快だった。電車の中だったら『痴漢です!』って大声を出してやったのに。
見ればシュウさんはもっとあからさまに首を撫でられたり、口に汚い指を突っ込まれたりしている。彼が無表情で何の反応も返さないので、山賊は舌打ちをして指を引き抜いた。シュウさんは懐からハンカチを取り出してそこに唾を吐く。
「別嬪さん、随分舐めた真似をしてくれるじゃねぇか。そのちっせい尻にドデカイ魔羅を突っ込んで、ヒイヒイいわしてやろうか?」
「わーわーわーッ!」
なんだってゲスいヤツらは小さな子どもの前で、お行儀の悪いことばかり言うんだよ! 思わず大声を出しながら、ブチの耳を塞いだ。
「かわい子ちゃんも黙りな」
「おっさんも黙れよ! 子どもに聞かせていい話じゃないだろう⁈」
「へぇ、お前は意味がわかってんだな」
ニヤつくな、気持ち悪い!
「下のおクチは初物じゃないと値が下がるが、上のおクチはバレねぇんだぜ?」
「噛みちぎってやるから安心しろ」
想像するだけで吐き気がするが、報復はしっかりしてやる。
「オッソロしいこと言うなよ! ひゅんってしたぞ!」
「勝手にしてろ」
「見た目は可愛いが、とんだじゃじゃ馬だな! 変なことしてみろ、そのガキをぶち殺してやるからな‼︎」
うっかり挑発しすぎたか? 髭の隙間からわずかに見える皮膚がドス黒く色を変えた。清潔にしてたら紅潮して見えるんだろうが、激しく不潔なのでそうは見えない。俺に掴みかかろうとしたのか、山賊が大きく腕を振りかぶって⋯⋯ズドンと音を立てて前のめりに倒れ込んだ。
シュウさんに素早く後ろに引いてもらったおかげで下敷きにならずに済んだけど、俺の視線は倒れた山賊の背中に釘付けになった。
剣が生えている。
足跡の残る埃まみれの床板に、山賊の身体から流れる血液が広がっていく。光採窓からわずかに差し込む光の筋に、舞い上がった埃がキラキラと輝いている。
「助けに来ましたよ、聖女様」
そう言って微笑んだ男に向かって、俺は呆然と呼びかけた。
「誰?」
と。
147
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
悪役令嬢の兄、閨の講義をする。
猫宮乾
BL
ある日前世の記憶がよみがえり、自分が悪役令嬢の兄だと気づいた僕(フェルナ)。断罪してくる王太子にはなるべく近づかないで過ごすと決め、万が一に備えて語学の勉強に励んでいたら、ある日閨の講義を頼まれる。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?
キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。
知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。
今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど——
「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」
幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。
しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。
これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。
全8話。
「今夜は、ずっと繋がっていたい」というから頷いた結果。
猫宮乾
BL
異世界転移(転生)したワタルが現地の魔術師ユーグと恋人になって、致しているお話です。9割性描写です。※自サイトからの転載です。サイトにこの二人が付き合うまでが置いてありますが、こちら単独でご覧頂けます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる