少女魔法士は薔薇の宝石。

織緒こん

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守護龍は語る。

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「そこの人間の言うことは正しい」

 面倒くさそうにしていたバロライの守護龍さんが、爬虫類の眼差しをフィッツヒュー団長に向けた。

「神になったばかりのあの娘は、何度も眠って大地の力と人間ひとの瘴気を溜め込んだ。あのまま最初の神子と微睡んでおれば、大地の力だけ取り込んで、地母神の一柱にでもなっておったであろうにな。今となっては、尻尾の一振りで山のひとつふたつ、軽く薙ぎ払える邪神の卵ぞ」

「あの娘って⋯⋯知り合い?」

「なんだ。我が姫よ、妬いておるのか? 可愛いの」

「今、それいらない」

 見事に塩対応ね、ユン。て言うか、ものすごい情報ぶっ込んできておいて、ユンが話し始めたらデレデレって⋯⋯。ブレない守護龍さんだわ。

「知り合い?」

 ユンがもう一度聞いた。

うたことがある。人型ひとがたになったばかりで手足を持て余して、ひとりで歩けもせなんだわ。人間ひとの感謝と大地の恵みをその身に受けて、とても良い一柱であったよ」

「いと気高き龍の君、一番はじめの神子があなた様にお会いしましたね」

「我の龍身を見て腰を抜かしておったな」

 守護龍さんがくつくつ笑った。楽しげで懐かしげな表情カオで、きっと幸せな思い出なんだと思った。

「最初の僕は死んでしまったので、稚い少女のようなザッカーリャ様しか知りませんでした。ふたり目の僕の中で目覚めたとき、ひどく驚きました。人間ひとの穢れを受けて、上半身は人の女性のまま、下半身の白い鱗が斑に赤黒く染まっていたのですから。退治しに行く人間を長い尾で振り払い、潰れてひしゃげた彼らを見ても、虚ろな表情カオは変わらぬままでした」

 半人半蛇⋯⋯なんだっけ、ギリシャ神話のラミアだ。主神ゼウスに愛されて子どもを産んで、最高女神ヘラにその子どもを殺された美女で、悲しみのあまり人間を襲う蛇の化け物になっちゃったのよね。

 ザッカーリャも引き金は悲しみだわ。

「彼女はふたり目の僕に腹を裂かれた衝撃で、ようやく自我を取り戻しました。ふたり目の僕はひとり目の甥でしたが、伯父が亡くなってから生まれたので、勇者として起つまで実に二十年の時が流れていました」

 なるほど、ザッカーリャは二十年も暴れていたわけだ。最初のきっかけがなんであれ、人間が最初に受けた幸運の白蛇ザッカーリャの恩恵を忘れるのには充分な年月だと思う。悪いことが起こるたび祠の邪王のせいにするのは、何かのせいにしなければ生きていけない弱い心のさがなんだわ。

「その後、幾度もザッカーリャ様は眠りを妨げられました。討伐隊と称する、手柄を立てたいならず者に、無理やり起こされたこともありました。その度に僕は、末裔すえの中で目覚めるのです」

 ミシェイル殿下の中で目覚めたと言うことは、ザッカーリャの眠りが覚めたと言うこと。陛下が調べたと言った地震は、守護龍さんの言う通りならザッカーリャの尻尾が原因なのかもしれない。

「そこの人間、知らぬふりをしてもよいが、邪神あの娘は目覚めつつある。宥めねば、山のすぐ隣にあるヴィラード国とやらも被害を受けるぞえ」

 守護龍さんが爬虫類の目を光らせて、くつくつ笑った。宰相を真っ直ぐに見て、言葉を続ける。

彼奴あやつらは化け物と戦って領土を取り戻すのと、西の豊かな土地を奪いに来るのと、どちらを選ぶのであろうな」

 龍って爬虫類になるのかしら? 蛇の化身のザッカーリャとは仲間意識でもあるの⁈ 

「⋯⋯あの娘でなくば、我が姫に神子を守れと言った時点で、おまえの首を撥ねてバロライに姫を連れ帰っておったわ」

 宰相閣下は血の気が一気に引いてよろめいた。近くの誰も動かなかったので、自力で踏ん張っている。頑張れおっさん。事情を知らなきゃ、あなたの意見は『ごもっとも』で王子殿下の望みはただの我儘よね。

「では、黄金の三枚羽たる私から、ご提案させていただこう」

 ずっと黙って聞いていたザシャル先生が、眠たげな眼差しで陛下を見た。陛下は息子と守護龍さんの遣り取りを諦めたように聞いていた。ザッカーリャ山にたどり着く前に殺されるか、祠のそばで一生を終えるかどちらかで、二度と会えなくなると思っているのかもしれない。

 陛下はザシャル先生に続きを促した。

「皇子殿下を含め、こちらの学生たちはギルドに登録いたしましょう。冒険者の身分なら国境を越えるのは自由ですし、武器を持った大人が何人かいようと、問題視されません。もちろん、私も同道します」

 冒険者ギルド‼︎

 あぁ、そんな機関を整備した、知識の宝珠がいたわよね。ザシャル先生、まじ登録かますんですか⁈
 
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