少女魔法士は薔薇の宝石。

織緒こん

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最初の冒険の予感?

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「おい、ちょっといい話があるんだけどよ、後で抜けてこねぇか?」

 ならず者が意味ありげにこっちを見ながらアル従兄様に言った。頭悪いなぁ、そんなにあからさまじゃ、そっちの行商のお兄さんから、こっちにターゲットを移したの、バレバレよ~。

 アル従兄様はニヤリと人の悪い笑みを浮かべて、ならず者に「後でな」と呟くと、ならず者はアル従兄様をお仲間認定してその場を去った。

「大丈夫ですか?」

 タタンが成り行きを呆然と見ていたお兄さんに声をかけると、彼はハッとしてアル従兄様とタタンを見比べて、合点が入ったように肩の力を抜いた。

「すみません、本当は買い物に来たんじゃないんです」

「助けてくれてありがとう。そんなことまで気にするなんて、律儀だね。もしかして、同業者?」

「帝都の商会で見習いをしております」

 タタンとお兄さんはお互いにぺこぺこと頭を下げあっていた。なんか可愛い。

「和むけど、一旦終わりにして、さっきの奴らのこと、きかせてくんね?」

「⋯⋯ここで居合わせただけなので、なんとも言えません。連れが戻ってくればなにか知っているかもしれません」

 またアイツらがやって来ては危険なので、お兄さんには露天を一旦片付けて、こっちの馬車まで荷物を寄せてもらった。

 護衛の冒険者さんは、夕食のおかずを仕留めに行っているらしい。

「我々も狩りに行きたいところですが、次回にしましょうか」

 ザシャル先生がアル従兄様とアリアンさんに確認を取った。帝国内で学生組に狩りをさせたかったらしい。国境越えてもできるけど、万が一はぐれたとき、自力でタンパク質を確保できるようにしておきたいって、アル従兄様が言い出したのよ。

 お兄さんは申し訳なさそうに、小さくなった。

 お兄さんの連れが帰ってくるまでの間、私たちもベースの設置を始めることにした。お喋りしながらテントを張ったり簡易の竈門を馬車の荷台から下ろしたりした。アルミのような金属の竈門は、嵩張るけど軽い。

「これは便利なものばかりですね」

「我々は商品を持ちませんから。身の回りのものが増やせるんですよ」

 ザシャル先生とお兄さんが穏やかに話している間に、馬車に積んでいた食料でチャチャっと料理を作る。ミシェイル様以外は全員料理が出来たのよね。

「シーリア、料理するのね」

 超お嬢様なのに、意外だわ。

「あら、わたくしは何処に嫁ぐかわかりませんもの。ロージーこそ辺境伯爵家の一人娘ですのに、随分手際がいいのね」

 そこはほら、アラサーO Lはひとり暮らしで自炊してたし。あと、辺境伯爵領はヴィラード国からの侵攻を想定して大規模な演習をするから、その炊き出しとか。

 ユンは下拵えだけ参加してくれた。バロライの調味料は根本的に味付けが違うので、ユンが最後まですると誰も食べられなくなる可能性が高い。

 ⋯⋯獣の血液のゼリー固めとか、食べられる気がしない。文化は否定しないけど、多分無理。

 ミシェイル様が一生懸命玉葱の皮を剥いてくれて、感動したわ。え? 高校球児がグラウンドでボール投げてるだけで感動できるのが、アラサーO Lクオリティーですが、なにか?

 そうやってわちゃわちゃしていたら、お兄さんのお連れさんが帰ってきた。

 でかっ。

「チチェ! 何処だ、チチェ!」

「ここだよ~」

 お連れさんの焦った声に、お兄さん⋯⋯チチェーノさんがぽやんと手を振った。馴染んでるな、お兄さん。

「ここだよ、ガウリー。絡まれてるの、助けてもらっちゃった」

 なんだ、この可愛い生き物。テヘペロ似合いそうな大人って⋯⋯。

「人様にご迷惑をかけてんじゃねぇ! テメェはトラブルホイホイなんだ、おとなしくしてろや!」

「おとなしくしてたら、絡まれたんだよ」

 いかにも『冒険者!』な佇まいのガウリーさんが、チチェーノさんの首根っこを押さえて頭を下げながら、仕留めてきた獲物を差し出してきた。お礼のつもりらしい。山鳩が五羽、血抜きの為に脚を括られてぶら下げられている。

「ガウリー、お嬢さんたちもいるんだから、そんな堂々とぶら下げないの!」

「あ、悪い」

 叱っていたはずが叱られ返して、ガウリーさんは申し訳なさそうにこっちを見た。ごめん、なんかこっちの女子チーム、へっちゃらみたいよ。ちょっと青い顔になったのは、ミシェイル様だけだった。

「あなたの食卓にのぼったこともあるでしょう。山鳩ですよ。こうして命を分けてもらっているのです」

 アリアンさんがミシェイル様にそっと囁いて、彼はしっかり頷いた。お付きの騎士様は、食育もしっかりしていくようだ。

「さて、お連れさんも帰ってきたみたいだし、俺はちょっと誘いに乗ってくるかな」

 アル従兄様が立ち上がって、お尻の泥をはたいた。

「ガウリーさんとやら、冒険者崩れのならず者の情報、ギルドで仕入れてないかい?」

「⋯⋯それはないな。ただ、この街道で行方不明になる駆け出しの冒険者がいるらしい。全員が行方不明になるわけじゃないんだが、今のところ、ド新人冒険者って言う共通点しかねぇ」

「帝都のギルドマスターはなにも言っていませんでしたね」

「これからだろ? 最近この先の街のギルドに報告が上がったんだ」

 ザシャル先生も話に加わって、ベテラン冒険者同士、三人でなにやら話し合いが始まった。

「さっきの奴ら、ちょっとイヤな臭い・・がしたんで、行ってくるな。あ、飯は残しといて」

 アル従兄様はほっぺたをペチペチ叩いて、あーとかうーとか言いながら悪人面を練習すると、軽い調子で「行ってきます」と言ってこの場を離れたのだった。

 

 



 

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