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天啓は大特価。
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ローゼウス辺境伯爵の城砦は、皇子殿下を迎えても特別な夜会などは開かなかった。お忍びの旅ではあるし、幼年の王子に夜会はひどく負担になるからだ。
それでも母様は遠い帝都から旅をしてきた皇子に、居心地の良い部屋を用意してもてなした。
「どうしましょう、殿下もタタン君もローゼウスの男どもと違って、とても可愛らしいのだけど⋯⋯!」
母様が悶えた。
そうね、私が覚えてる十五歳の時の三兄様も、すでに暑苦しかったもの。大兄様も次兄様も色っぽさや儚さの向こうに黒さが滲んで見えるしねぇ。母様と私は、ローゼウスの男どもの取り柄は顔だけだと思っている。
「私の薔薇の宝石よ! よく帰ってきたね!」
あぁ、うるさいのが嗅ぎつけてきたわ。大兄様が応接間の扉を蹴破らんばかりにして入ってきた。
「よく無事で⋯⋯。アルから聞きました。ならず者に拐われそうになったのですって?」
開けっ放しの扉から飛び込んできたのは次兄様だ。儚げな面貌に涙をにじませているけど、兄弟の中で一番エゲツない性格をしている。
応接室に入っては来ないけど、廊下には従兄弟が数人群がっていて、口々に私に向かって帰還の喜びの言葉を投げつけてきた。
お忍びだけど、ここに座すのは第三皇子殿下なんですけど⋯⋯。不敬で一族丸ごと処分されないかしら?
「⋯⋯ロージー、あなたのご一族の話しって大袈裟じゃなかったのね」
「眩しい⋯⋯。美形ばっかり⋯⋯」
「僕、睨まれてませんか⁈」
タタン、ごめん。私の隣にいるからだと思うわ。
「数日、邪魔をする。世話をかけて申し訳ないが、よろしく頼む」
ミシェイル様が大兄様に言った。領主の父様が帝都にいるので、継嗣の大兄様が代理で城砦を守っているから、声はまず大兄様に掛けなきゃならない。それから母様よ。
「辺境伯爵夫人、あなたの甥御殿とご令嬢にも、とてもよくしてもらっている。ありがとう」
「勿体ないお言葉でございます」
母様が美しい礼をした。かつて田舎伯爵夫人と馬鹿にしてきた、帝都住まいの伯爵夫人の鼻を明かした、完璧な淑女の礼よ。それを見たシーリアが感嘆のため息を漏らした。
「なんて美しいんでしょう。是非ご教授いただきたいわ」
私から見たら、シーリアも完璧なんだけど。
「父から話しは聞いています。ローゼウスの密偵も、ヴィラード国が東のザッカーリャ山を警戒していると知らせてきました。帝都の密偵とほとんど同じ情報と思われます」
次兄様はローゼウスの情報処理を一手に引き受けている。
「邪神の祠とやらは、ヴィラード国側の斜面にあるようですね。アエラ国側には被害はあまりありません。ヴィラード国側は空気が澱み、山から滲み出す水が汚れて、少ない作物がさらに育ちにくくなっています」
「そのせいか、最近ローゼウス領への越境が多い。圧政と飢えから逃げてきた難民は受け入れたいとは思うが、どんな人間が紛れているかわからないからな」
大兄様と次兄様がまともなことを話している。いつもこうなら、かっこいいのに。
それにしても、空気が澱んでるのね。光化学スモッグとか石炭粉塵とか危ないのよね。ザッカーリャ山の邪神が原因なら、ラノベ的発想で瘴気とかだと思うんだけど。
「次兄様、空気が澱んだ場所に住んでいる人たちに健康被害⋯⋯咳が止まらないとか、胸が痛いとかいう話しは聞きませんか? 他にも目が痛い、鼻水が出るなども」
「その通りだ。可能なら四六時中、それこそ眠っている間も風の魔術でシールドを張ることを勧めたい」
それ無理でしょ。このメンバー、ザシャル先生しかできる気がしないわ。
「私たちは三合目あたりまでしか行くことができませんので、それは現実的ではないですね」
ほら、ザシャル先生も言ってる。
『ウィルス、細菌、有機物などを除去し、快適な空間を保つんです! お値段は、な、な、なんと!』
なんだなんだ⁈
突然脳裏に浮かんだ、テレビショッピング!
空気清浄機かぁ。ザッカーリャに会いに行くまで、ひとまず私たちの周りだけなんとかできないかな。魔道具的な⋯⋯。
あ。
オタクなアラサーOL、なんで今まで魔道具の存在を思いつかなかったんだろう。タタンの剣に彫金して魔剣にしちゃったじゃん。あれも魔道具っちゃ魔道具よね。
「魔道具、私が作ればいいじゃない」
「魔道具?」
あら、口から出てた? みんなが怪訝な顔するってことは、魔道具の概念がないのか。
やらかしたような気がしないでもないけど、命の保証と天秤にかけたら作る一択だけどね。
先生、また研究者の顔してますよ~。
それでも母様は遠い帝都から旅をしてきた皇子に、居心地の良い部屋を用意してもてなした。
「どうしましょう、殿下もタタン君もローゼウスの男どもと違って、とても可愛らしいのだけど⋯⋯!」
母様が悶えた。
そうね、私が覚えてる十五歳の時の三兄様も、すでに暑苦しかったもの。大兄様も次兄様も色っぽさや儚さの向こうに黒さが滲んで見えるしねぇ。母様と私は、ローゼウスの男どもの取り柄は顔だけだと思っている。
「私の薔薇の宝石よ! よく帰ってきたね!」
あぁ、うるさいのが嗅ぎつけてきたわ。大兄様が応接間の扉を蹴破らんばかりにして入ってきた。
「よく無事で⋯⋯。アルから聞きました。ならず者に拐われそうになったのですって?」
開けっ放しの扉から飛び込んできたのは次兄様だ。儚げな面貌に涙をにじませているけど、兄弟の中で一番エゲツない性格をしている。
応接室に入っては来ないけど、廊下には従兄弟が数人群がっていて、口々に私に向かって帰還の喜びの言葉を投げつけてきた。
お忍びだけど、ここに座すのは第三皇子殿下なんですけど⋯⋯。不敬で一族丸ごと処分されないかしら?
「⋯⋯ロージー、あなたのご一族の話しって大袈裟じゃなかったのね」
「眩しい⋯⋯。美形ばっかり⋯⋯」
「僕、睨まれてませんか⁈」
タタン、ごめん。私の隣にいるからだと思うわ。
「数日、邪魔をする。世話をかけて申し訳ないが、よろしく頼む」
ミシェイル様が大兄様に言った。領主の父様が帝都にいるので、継嗣の大兄様が代理で城砦を守っているから、声はまず大兄様に掛けなきゃならない。それから母様よ。
「辺境伯爵夫人、あなたの甥御殿とご令嬢にも、とてもよくしてもらっている。ありがとう」
「勿体ないお言葉でございます」
母様が美しい礼をした。かつて田舎伯爵夫人と馬鹿にしてきた、帝都住まいの伯爵夫人の鼻を明かした、完璧な淑女の礼よ。それを見たシーリアが感嘆のため息を漏らした。
「なんて美しいんでしょう。是非ご教授いただきたいわ」
私から見たら、シーリアも完璧なんだけど。
「父から話しは聞いています。ローゼウスの密偵も、ヴィラード国が東のザッカーリャ山を警戒していると知らせてきました。帝都の密偵とほとんど同じ情報と思われます」
次兄様はローゼウスの情報処理を一手に引き受けている。
「邪神の祠とやらは、ヴィラード国側の斜面にあるようですね。アエラ国側には被害はあまりありません。ヴィラード国側は空気が澱み、山から滲み出す水が汚れて、少ない作物がさらに育ちにくくなっています」
「そのせいか、最近ローゼウス領への越境が多い。圧政と飢えから逃げてきた難民は受け入れたいとは思うが、どんな人間が紛れているかわからないからな」
大兄様と次兄様がまともなことを話している。いつもこうなら、かっこいいのに。
それにしても、空気が澱んでるのね。光化学スモッグとか石炭粉塵とか危ないのよね。ザッカーリャ山の邪神が原因なら、ラノベ的発想で瘴気とかだと思うんだけど。
「次兄様、空気が澱んだ場所に住んでいる人たちに健康被害⋯⋯咳が止まらないとか、胸が痛いとかいう話しは聞きませんか? 他にも目が痛い、鼻水が出るなども」
「その通りだ。可能なら四六時中、それこそ眠っている間も風の魔術でシールドを張ることを勧めたい」
それ無理でしょ。このメンバー、ザシャル先生しかできる気がしないわ。
「私たちは三合目あたりまでしか行くことができませんので、それは現実的ではないですね」
ほら、ザシャル先生も言ってる。
『ウィルス、細菌、有機物などを除去し、快適な空間を保つんです! お値段は、な、な、なんと!』
なんだなんだ⁈
突然脳裏に浮かんだ、テレビショッピング!
空気清浄機かぁ。ザッカーリャに会いに行くまで、ひとまず私たちの周りだけなんとかできないかな。魔道具的な⋯⋯。
あ。
オタクなアラサーOL、なんで今まで魔道具の存在を思いつかなかったんだろう。タタンの剣に彫金して魔剣にしちゃったじゃん。あれも魔道具っちゃ魔道具よね。
「魔道具、私が作ればいいじゃない」
「魔道具?」
あら、口から出てた? みんなが怪訝な顔するってことは、魔道具の概念がないのか。
やらかしたような気がしないでもないけど、命の保証と天秤にかけたら作る一択だけどね。
先生、また研究者の顔してますよ~。
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