ハズレの姫は獣人王子様に愛されたい 〜もしかして、もふもふに触れる私の心の声は聞こえていますか?〜

五珠 izumi

文字の大きさ
8 / 58

8 番のリング

しおりを挟む
 トントン

 お茶を飲みながら、モリーさんと話をしていると、扉が優しく叩かれた。

 不審な顔で扉の方に目を向けたモリーさんだが、すぐにニッコリと笑顔になった。

「エリザベート様、ラビー様がいらっしゃいました、お通ししても宜しいですか?」
「は、はい」

 ラビー様、私に服を貸してくださっている人。

 モリーさんの様子から、彼女はいい人なのだろう。けど、扉を見ただけでどうして分かるの?

 ……モリーさん……もしかして、透視もできるの?


「おじゃましまーす」

 陽気な感じで入ってきたラビー様は、とても背の高い麗しい人だった。

 スラリとした体、小さなお顔。ピンク色の髪から、ピョコンと白く長い獣耳が出ている。赤い大きな目を、髪の色と同じピンク色のとても長いまつ毛が縁取っていた。

 身体に沿った赤い服が凄く色っぽい感じ。

 私が男性なら一目で恋しちゃうかも……。

「はじめまして、エリザベート様。私はラビー・ラビッツです。よろしくね」

 ラビー様はパチリとウインクをする。

 私も慌てて立ち上がり挨拶をした。

「はじめまして、エリザベート・ル・リフテスです。よろしくお願いします」
「うふふっ、本当に私の子供の頃の服がちょうどいいのね、とって置いてよかったわ!」

 頭一つ半ほど背が高いラビー様は私を見下ろす様にして笑った。

「どう、シリルとは上手くいきそう?  あの人、私と婚約するつもりだったらしいから」
「……はい、たぶん」

 そうだ、シリル様はラビー様が好きなんだ。

 確か最初に、婚約するつもりだったとモリーさんが言っていた。

 私は申し訳なく思い、ラビー様に尋ねた。

「あの、ラビー様は宜しかったのですか? 私がシリル様と結婚する事に決まってしまって……」

「ん? もちろんいいわよ。私が好きなのはシリルじゃないもの。第六王子のルシファなの。だからあの人がハズレを引かなくて良かったって、ホッとしてるのよ」
「……ハズレ」

 慌ててラビー様は両手で口を押さえた。

「ちっ、違うわ、当たりよ、あ・た・り! とにかくシリルの事は、なーんとも思っていないから心配なんてしないでね」

「はい……」
(また言われてしまった。ハズレ……)

「今日はね、結婚式で着るドレスの事もあって来たのよ」

 ラビー様の家、ラビッツ公爵家はいろいろなお仕事をされているらしい。

「昨日この国に来たばかりで、まだよく分からないだろうけど、シリルとエリザベート様の結婚式はひと月後よ。準備するにはギリギリなの」
「はい」
(結婚式、してくれるんだ……)

「王族の結婚では、代々受け継がれたドレスを着ているからサイズを直すだけなんだけど、エリザベート様は小さいから、新しく作った方が早いかもね。後でシリルに聞いてみるわね、たぶん作るというはずだけど……」

 ふふふ、とラビー様は何か思い出した様に笑った。

「そんな……私、少しぐらい大きくても大丈夫です。新しく作るなんて」
「いいのよ、シリルがお金を出すんだから。それよりつがいのリングはどうする?」

「つがいのリング?」
「そう、人はしないの? 結婚した二人が指とか首にお揃いの物を着けたりしない?」

「結婚……指輪なら聞いたことがあります」

 母さんはしてなかった……もらっていたのかな? 
 装飾品を着けているところは記憶にない。

「獣人にはね『番』という、ピタリと合う運命の相手がいると言われているの。それに真似て『番のリング』を着けるのよ」

 手をかかげ指を見ながら話すラビー様。

「もしかして、シリル様はラビー様の番だったのですか!」
「何でそうなるの⁈    私が好きなのはルシファだって言ったじゃない。それに『運命の番』は結婚した相手のことよ」
「結婚相手……?」
「だって結婚したんでしょ? その人が番よ」
「えっ、でもお見合いとか、政略結婚……とか(私達みたいに)無理な結婚だったら」
「あのね、エリザベート様。それも一つの運命的な出会いなの。だって会うべくして出会ったんだもの」

 どんな出会いでも、出会った人が運命の番……。

 だったら、シリル様は私の運命の番ということ?

 ラビー様は、ガバッと両手を広げるとまるで舞台女優の様に叫んだ。

「私もそう、たまたまラビッツ公爵家に生まれて、すぐ近くにルシファがいた。これこそ運命よっ!」

「シリル様もいましたよね?」
「……シリルもいたけど……あっ!」

「……?」

 急に私に向け頭を下げるラビー様。

 ふわふわの白い耳がペタンと折れる。
 顔を上げると、赤い目が戸惑う様に私を見つめていた。

「私、シリルとキスした事があるの。軽くなんだけど……嫌でしょ? 私達、兎獣人は挨拶みたいな感じで誰とでもすぐにキスするけど、人は違うでしょ?」

 軽いキス……それってどんなの?
 キスって違いがあるの?

「エリザベート様、だから私の弟には、特に気をつけてね。一番危ないのはメイナードよ、歳は私の一つ下の十九歳。残りの七人はまだ理性があるから大丈夫だと思うけど。とにかく、私と同じ耳を見たら隠れるのよ……あ、匂いでわかっちゃうか……」

「匂い?」

 やっぱり、私って臭いの?

 不安になり、クンクンと手首を匂ってみるが、自分ではよくわからない。
 私の様子を見ていたラビー様はクスクスと笑いだした。

「あのね、エリザベート様は……臭い訳じゃないわ、危険なのよ」

「危険な匂い?」

 驚いて目を見開く私。
 笑っていたラビー様は、真剣な顔になり目を顰めた。

「……そうね、いろんな意味で危険な匂いよ」

 それって……どんな匂い⁈

 尋ねようとしたが、ラビー様は話題を変えてしまった。

「番のリングはいろんな物があるけど、エリザベート様はどんな物がいいかしら? 別れない限り付けたままだからあんまり大きくない方がいいと思うけど」
「別れる? 番でも別れるんですか⁈ 」

「どんな物でもいつかは壊れる時が来るでしょ? どんなに運命的に結ばれたってダメになる事はあるわよ。えっ、人は別れないの?」

「いえ、別れることはあります」
「でしょ? 生き物は皆同じね! 心は変わっていくものよ、でも私はずっとルシファが好きなんだけど」


 それからラビー様はどんなにルシファ王子様の事が好きかを話しながら、私の体を採寸していった。

 ラビー様が指をクルクルと回すと、空中に紙とペンが出てくる。
 そのペンは、一人でにサラサラと何かを紙に書いていく。
 書かれたそれを、ラビー様が確認して頷くと、紙とペンはパッと消えた。

「……すごい」

「ふふっ、私のラビッツ家はね、元王族なの。だから魔力も強いのよ」
「どうして今は公爵なのですか?」
「ご先祖様はね、自由な人だったの。昔はマフガルド家と一緒に王様をやってたらしいけど、王様って好き勝手出来ないじゃない。あっちは真面目なのよ、それで、王様の仕事は全部マフガルド家に任せたらしいわ」

 採寸を済ませたラビー様は、じゃあね! とウインクすると帰って行った。

 ラビー様も、充分ご先祖様の気質を受け継いでいる様だ。

 ……ラビッツ家も元王族……。


 ラビー様が部屋を出ると、モリーさんは急いで扉に鍵を掛けていた。

「はあ……そうでした。メイナード様が一番危ないんだった」
「モリーさん、どうしたんですか?」

 モリーさんは扉の前をウロウロと歩いている。

「いえね、マフガルド家の王子様達は秩序を守ってくれると思うんです。私もここにいる訳ですし……ただねぇ」
「……はい?」
「メイナード様は手が早い‼︎」
「手が早い?」

「気をつけないとあっという間に孕らせられてしまいます」
「……それは……私もですか?」
「……‼︎   もちろんです! 今一番危険なのはエリザベート様ですよっ!」
「人なのに?」

 ほとんどの獣人は『人』を嫌っているとマフガルド王は言っていた。
 メイナード様は珍しい獣人なのかしら……?

「メイナード様に関して、種族や見た目は問題ありません。『女性』である、それイコール子作りなのです」

 ……すごい。
 そんな人、近くにいた事がない。……危ない人だ。

 獣人って、さっき聞いた『番』だけを愛するのかと思ってた。

 でも、私の相手がメイナード様だったらメリーナを助けに行く日も早くなったかも知れない……。


 ……いや、私には無理だ。
 誰にでも手が早い人なんて、まるでリフテス王と同じ。

 父親だけど、あの人は嫌い。

 母さんを放って置いて、メリーナを人質にとる非情な人だもの。

 一日も早く子供を連れてリフテスへ帰り、メリーナを助けたい。
 そう思っているけれど、でも……出来ることなら好きな人の子供を生みたい。

 考えたら複雑な気持ちになってしまった。


「マフガルド家とラビッツ家は家族も同然なのです。シリル様とラビー様は歳も近く、兄妹の様にお育ちになられましたが、ある日ラビー様がいつもの調子で軽い感じでキスをされ、結婚しよーねと言われて……シリル様は真面目な方ですので、まぁ、勘違いをされてしまって……」

「そ、そうですか」
(随分詳しい……モリーさんは見ていたの?)

「シリル様はそれは清らかなお心をお持ちの青年なんです。決して悪い方ではございません! 背も高く、力も強くその上優しい方なのです」

 なぜか必死にシリル様の良いところを話しだすモリーさん。

 けれど、無理ですよ、シリル様は私の事嫌いなんですから。

「まだ、一晩しか経っておりませんが、エリザベート様はシリル様をどう思われますか?」

「とても美形な方だと思いますが……」
「まあっ‼︎ 」
「私は嫌われているので……」
「えっ⁈ 」
「結婚はするけど、触ることはないと言われていますし」
「あっ、それは……」

「いえ、せっかく結婚してもらうんです。好きになってもらえる様にがんばってみます。こうして出会えたのも運命のようですから……」

 そうじゃないとメリーナを助けられないもの

「まあっ……」

 私の本心を知らないモリーさんは、凄く喜んでいた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

虐げられた私が姉の策略で結婚させられたら、スパダリ夫に溺愛され人生大逆転しました。

専業プウタ
恋愛
ミリア・カルマンは帝国唯一の公爵家の次女。高貴な皇族の血を引く紫色の瞳を持って生まれたワガママな姉の陰謀で、帝国一裕福でイケメンのレナード・アーデン侯爵と婚約することになる。父親であるカルマン公爵の指示のもと後継者としてアカデミーで必死に勉強してきて首席で卒業した。アカデミー時代からの恋人、サイラスもいる。公爵になる夢も恋人も諦められない。私の人生は私が決めるんだから、イケメンの婚約者になど屈しない。地位も名誉も美しさも備えた婚約者の弱みを握り、婚約を破棄する。そして、大好きな恋人と結婚してみせる。そう決意して婚約者と接しても、この婚約者一筋縄ではいかない。初対面のはずなのに、まるで自分を知っていたかのような振る舞い。ミリアは恋人を裏切りたくない、姉の思い通りになりたくないと思いつつも彼に惹かれてく気持ちが抑えられなくなっていく。

子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!

屋月 トム伽
恋愛
私と婚約をすれば、真実の愛に出会える。 そのせいで、私はラッキージンクスの令嬢だと呼ばれていた。そんな噂のせいで、何度も婚約破棄をされた。 そして、9回目の婚約中に、私は夜会で襲われてふしだらな令嬢という二つ名までついてしまった。 ふしだらな令嬢に、もう婚約の申し込みなど来ないだろうと思っていれば、お父様が氷の伯爵様と有名なリクハルド・マクシミリアン伯爵様に婚約を申し込み、邸を売って海外に行ってしまう。 突然の婚約の申し込みに断られるかと思えば、リクハルド様は婚約を受け入れてくれた。婚約初日から、マクシミリアン伯爵邸で住み始めることになるが、彼は未婚のままで子供がいた。 リクハルド様に似ても似つかない子供。 そうして、マクリミリアン伯爵家での生活が幕を開けた。

【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?

氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。 しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。 夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。 小説家なろうにも投稿中

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~

狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない! 隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。 わたし、もう王妃やめる! 政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。 離婚できないなら人間をやめるわ! 王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。 これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ! フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。 よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。 「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」 やめてえ!そんなところ撫でないで~! 夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――

転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。 前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。 恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに! しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに…… 見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!? 小説家になろうでも公開しています。 第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品

氷狼陛下のお茶会と溺愛は比例しない!フェンリル様と会話できるようになったらオプションがついてました!

屋月 トム伽
恋愛
ディティーリア国の末王女のフィリ―ネは、社交なども出させてもらえず、王宮の離れで軟禁同様にひっそりと育っていた。そして、18歳になると大国フェンヴィルム国の陛下に嫁ぐことになった。 どこにいても変わらない。それどころかやっと外に出られるのだと思い、フェンヴィルム国の陛下フェリクスのもとへと行くと、彼はフィリ―ネを「よく来てくれた」と迎え入れてくれた。 そんなフィリ―ネに、フェリクスは毎日一緒にお茶をして欲しいと頼んでくる。 そんなある日フェリクスの幻獣フェンリルに出会う。話相手のいないフィリ―ネはフェンリルと話がしたくて「心を通わせたい」とフェンリルに願う。 望んだとおりフェンリルと言葉が通じるようになったが、フェンリルの幻獣士フェリクスにまで異変が起きてしまい……お互いの心の声が聞こえるようになってしまった。 心の声が聞こえるのは、フェンリル様だけで十分なのですが! ※あらすじは時々書き直します!

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

処理中です...