一緒に命を絶った恋人が何故か生まれ変わった私のお父さまだった理由

五珠 izumi

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16 本当のお父さま

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「おかえりなさいませ! リディアお嬢様」

 お父さまの部屋からセバスチャンと三階の部屋へ戻ると、扉の前でミリーメイが待っていた。
 ミリーメイは、着ていたドレスから部屋着へと着替えを手伝いながら、私のドレス姿を見たお父さまがどんな反応をしたのかを知りたかったと言った。

「『とてもよく似合ってる』と言っていただきました」

 そう言ってくれたお父さまの顔を思い出すと、何だか恥ずかしくなってくる。
 そういえば、尋ねようと思っていたことは一つも聞けないままだった。

「よかった! アニス様も空の上でお喜びになられていますよ」
「空の上?」

 ミリーメイは窓の外に輝く星を指差し「アレです」と言った。

「アニス様は、亡くなったら夜空に輝く星になると言われていたんです」
「お母さまが?」
「はい。幼い頃に本でお読みになられたそうです。世界にはいろいろな伝説や神話、おまじないがあって、心から信じる者だけが願いを叶えることができると教えて下さいました」

「そう……」

 ──信じる者だけが叶えることができる──
 あの時、私は心から信じていた。
 だから生まれ変われたのだろうか。
(ラリーは望んでいなかったのに……)

 着替えが済むと、ミリーメイは自分がいなくなったら必ずカギを掛けて欲しいと言い部屋を出て行った。

 ミリーメイに言われた通りに部屋の鍵を掛けた私は、さっそく隠し扉の奥からあの箱を取り出した。

 箱には思っていた通りにスズランの絵が描かれていた。小さな錠も付いている。

 お父さまからもらったネックレスのカギを挿すと、錠はカチッと小さな音を立て外れた。

「あ……これ」

 中にはお母さまへ宛てた私の手紙が入っていた。

(これをどうして隠していたの?)

 手紙は最近のものばかりだった。
 内容は差し障りのないものだ。誰に読まれても問題はないはず。

(見られたくないものがあるの?)

 不思議に思いながら確認していると、間に【リディアへ】とお母さまの美しい文字で書かれた手紙が混じっていた。

(私宛て?)

 読んでみようと開いた時、コンコンと扉が叩かれた。

(誰? ミリーメイは明日の朝まで来ないはず)

 返事はせずに扉を見ていると、またコンコンと叩かれた。

「──お嬢様」
「……!」

 扉の向こうから聞こえてきた声はテイラーのものだった。

「お嬢様、お茶をお持ちしました」

(お茶?)
 部屋付きのメイドはミリーメイだ。テイラーじゃない。
 こんな時間に来ることも怪しい。
 お父さまを『ラリー』と呼ぶこと、使用人たちの話を聞いた後ということもあり、行動に疑念を抱いてしまった。


「…………」
 声を殺して様子を見ていると、ガチャガチャと取っ手が回された。
「……!」
「あら、カギが……」

 カギを掛けておいてよかったと、ミリーメイに心の中で感謝した。

「もう寝たのかしら……」

 その後テイラーはもう一度扉を叩いて、返事がないことを確認すると、足音を立て部屋の前からいなくなった。

(テイラー……?)



 しばらくして、私はお母さまの手紙を読みはじめた。

 読み終えた手紙をすべて入っていた箱に仕舞い、カギをかけて隠し扉の奥へ入れた。
 扉をしっかりと閉めたのを確認して、ベットに寝転んだ。

(私は、お父さまラリーの娘じゃなかった)

 手紙には、私の本当の父親のことが書かれていた。

 お母さまには恋人がいた。
 その人が、私の本当のお父さまだと書いてあった。
 名はエリック・レノン。

(お兄さまが、まさか本当のお父さまなんて……)

 エリック・レノンは前世のリディアの生き別れの兄だ。
 たった今思い出したお母さまの形見のネックレスが、紛れもない証拠。
 これは、前世の母が大切にしていたものだ。
(お兄さまが持っていたのね)
 両親を亡くした後、私と兄は別々の家に引き取られた。私はそのまま伯爵家で働くことになり、兄の行先はわからないままだった。
 エリックお兄さまが父親ならば、私の容姿が前世とそっくりなことも納得できる。

(私のお父さまはエリックお兄さま、ラリーじゃない)

 ──手紙にはもう一つ、私の名前のことが書かれていた。

『リディア』
 この名はお母さまが付けてくれた名前。

 しかし、それは『ローレンス様の大切な恋人の名前』をもらい付けたのだと書いてあった。




 ──翌朝。

「おはようございます。リディアお嬢様」

 明るい声でミリーメイが挨拶をする。

「おはよう」
 返事をすると、ミリーメイは眉根を寄せた。

「リディアお嬢様、あまりお休みになられていないのでは?」
「……どうして?」

 なぜわかったのだろう。
 昨夜はほとんど眠ることができなかったのだ。
 テイラーのことや、お母さまの手紙に書かれていた私に関する事が衝撃的だったから。

「温かいお飲み物をお持ちすればよかったですね」

 ミリーメイは体が温まると眠くなるんですよ、と話しながらテーブルに朝食を並べた。

 飲み物……。もしかして、テイラーは私が眠れないだろうと考えて部屋へ来たのだろうか?

(でも、あんな風に扉を開けようとするのはおかしい気がする)

 昨夜のテイラーの怪しい行動を思い出しながら、朝食を食べていると、ミリーメイがおずおずと話しはじめた。

「今日のご予定ですが、特に何もありません。それで、よろしければ私に公爵邸を案内させていただければと思っているのですが」

「いいの?」

 このまま部屋に篭っていては、考えごとばかりしてしまいそうだ。
 行きたい場所があった私は、ミリーメイの提案を喜んで受けさせてもらった。
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