一緒に命を絶った恋人が何故か生まれ変わった私のお父さまだった理由

五珠 izumi

文字の大きさ
17 / 39

17 地下室へ〜ローレンス+リディア〜

しおりを挟む
【ローレンスsideからです。】


 早朝、執事とともに部屋へと入ってきたテイラーは、用事を済ませた執事が部屋を後にしたのを見計らい、いつものように私に詰め寄ってきた。

「マクスウェル公爵家には後継者が必要です」

 それは、アニスがリディアを生み、その後体調がすぐれなくなって以降、両親から口煩く告げられていた言葉。
 両親が亡くなってからは、こうしてテイラーが言うようになった。

「すぐに結婚とはいかないことは承知しています。ですから、先に子供を」

 テイラーの白く細い手が、腕に触れる寸前で私は体を翻した。

「アニスを亡くしたばかりで後妻など、ましてや子供など考えられない」

 警戒したとテイラーに悟らせないように、椅子に掛けておいた上着を手に取り羽織る。

「ですが、このままでは」

 テイラーは不服そうな顔をして、出していた手を引っ込めた。

 アニスがこの世を去る少し前から、テイラーは両親に委託されたと言い、私に男女の関係を迫るようになっていた。

 テイラーと関係を持つことはできない、考えられないと、これまで何度も否定しているが、状況は変わっていない。


「後継者ならリディアがいる。彼女に夫を……」

 思わず言葉を詰まらせてしまった。
 夫を迎えればいい、その言葉が言えなかった。

 だが、このまま彼女リディア自身が生まれ変わったことに気づかなければ、いつの日か私は父親としてリディアの結婚を見届けることになる。

 彼女リディアが、他の誰かと……。

「ラリーどうしたの? そんな青い顔をして……」

 私の顔を覗き込み、テイラーは目を丸くした。
 
「あなたまさか、娘のリディアをあの子の生まれ変わりと思っているのではないでしょうね?」

 テイラーは呆れ顔をし、近くにあった椅子に座り足を組み上目遣いに私を見る。

「…………」

 言い返す言葉もなく、私はテイラーを見下ろした。

「はっ、まさか今まで生まれ変わりが本当にあると信じていたの?」

「それは君が教えてくれたことだ」

 生まれ変われるという言い伝えを、私に教えてくれたのはテイラーだ。
 彼女リディアが慕っていたテイラーは、私たちの交際を応援してくれていた。
 だから、私は無条件にテイラーの言葉を信じた。
 二人で命を絶ったが、私だけが生き残ってしまった。
 彼女リディアを失い茫然自失となった私を支えてくれたのはテイラーだった。

 私自身、テイラーをリディアと同じく姉のように思い、信用していたのだ。
 だが……。

「言い伝えは本当よ。でも、生まれ変わりなんてないわ。少なくとも私は信じていない」
「そんな……」

「ラリーは信じているの? 似た顔を見たせいかしら?」

 嘲るような口調で話したテイラーは「あなたの娘、あなたには少しも似ていないけれど、気持ち悪いぐらいにあの子にそっくりね」と、鼻先で笑った。

「リディアは、アニスに似たんだ」

 そう言って、部屋を出ようと扉を開いた。
(セバスチャンが戻ってくるのは三十分後、これ以上、テイラーと二人きりで部屋にいるのは危険だ)

 

「どこへ行くの⁈」

 テイラーが慌てた様子で追いかけてくる。

 ただのメイドに答える必要はないと思いながら、私は行き先を告げた。

「……リディアの所へ行く」

(今日は何も予定はなかったはず。部屋にいるといいが……)

「はっ? どうして行くのよ」

 まるで後妻気取りの話し方に、さすがに私も腹を立てた。

「父親が娘に会いに行くのに、メイドの許可が必要か?」
 
 怒気を孕めて告げ、扉を開け放ったまま部屋を後にした。






「ここが南館です。公爵邸で一番日当たりのよい場所です。大広間は二階まで吹き抜けになっていて、とっても豪華なんです。隣の広間はちょっとしたお茶会の席に使われるそうです」

 公爵邸の南館は、使われることがない限り二日に一度使用人が入るだけ。
 普段は人気が無いのだとミリーメイは話した。
 それから、広間の隣にある階段を指差した。

「この階段の裏側には地下室への扉があります」
「地下室?」

 そこは、私とラリーが真夜中に会っていた場所だ。
 私が行きたいと思っていた場所。
 ここへ来れば、何かわかるかもしれないと思った。

「地下室は、ずいぶん前から立ち入り禁止となっているそうです」
「入れないの?」

 ミリーメイは激しく首を横に振った。

「絶対に入ってはいけません」
「どうして?」

 ミリーメイは私の耳に手を添えて「お化けが出るそうです」と囁いた。

「えっ、お化け?」

「しーっ、リディアお嬢様そんなに大きな声で言ったらダメです。現れたらどうするんですか」

 ミリーメイは腕を抱いて周りを見ながらぶるぶると震えた。

 お化け……そんな話があるなんて。
 ただの物置のはずなのに。

 この地下室で、リディアが死んだからだろうか。
 気になって階段下の地下室の扉を覗いていると、ミリーメイから服を引っ張られた。

「リディアお嬢様、公爵様とメイド長がきます」
「……!」

(どうして二人がここへ?)

 見れば、本当に廊下の向こうから二人がこちらへ歩いて来ている。

「リディアお嬢様にご用なのでしょうか?」

 ミリーメイは首を傾げている。

「どうなのかしら……」

 用もなにも、今お父さまラリーに会うのは気まずい。
 それも、よりによってこの場所で。
 お父さまラリーが本当の父親じゃないと知ってしまったばかりで、顔を見ることになるなんて。
(テイラーまで一緒だなんて……)
 昨夜の恐怖が蘇る。
 そっと場所を移そうかと考えたが、二人は既に私たちを確認して、こちらへと向かって来ているため動けなかった。

(落ち着いて、平常心を保てば大丈夫よ)

 側にいるミリーメイに気づかれないように、ゆっくりと深呼吸をしていると、お父さまラリーが目の前に来た。
 お父さまラリーは、私を優しく見つめ微笑みを浮かべた。

「リディア、ここにいたんだね」
「おはようございます、お父さま」

 できるだけ自然な笑みを浮かべ挨拶をした。

「……リディア?」

 やはり不自然だったのか、お父さまラリーが首を傾げる。

「顔色が……」

 そう言うと、お父さまラリーは私の頬にスッと手を伸ばし触れて。

「…………!」
「眠れなかった?」

 お父さまは頬に触れたまま、まるで恋人だった頃と変わらない甘い声で囁くように話した。

「……あ、あのっ」

 さすがに無理だ。
 平静でなんていられない。
 自分でも顔が赤くなっていくのがわかるほど熱が彼の手に集まっていく。

 赤くなった私に気づいたのか、お父さまラリーはハッと目を開き頬に触れていた手を離し、気まずそうに声を落とした。

「すまない、つい……」
「いえ……」

 お父さまラリーと私は、付き合いたての恋人同士のように恥ずかしそうに視線を交わして。

 その様子が不快だったのか、すぐ後ろにいたテイラーが低い声を上げた。

「お嬢様、娘とはいえ、そのような接触は控えられた方がよろしいと思います」

 テイラーは冷たく私を見据える。

 私から触れたわけでもない。
 ほんの少し頬に触れられて、私が変に意識をしてしまい顔を赤くしてしまっただけ。
 けれど、テイラーの目には不快に映ったらしい。

「はい……」

「テイラー、私がリディアにしたことだ。彼女に話をするのは間違っている」

 お父さまラリーがテイラーを一蹴した。
 
「ですが」

 テイラーはお父さまラリーの顔を見つめながら、自分の言ったことはおかしくないのだと主張する。

「君はもう下がっていい。私はリディアと話がある。そのためにここまで来たんだ」

「お話なら、お部屋へお戻りになられてからされてはどうですか。このような場所で二人きりなんていけません」

「戻りましょう」と、テイラーはお父さまラリーの手を取ろうとした。

 お父さまラリーは、その手をぱっと振り払った。

「ここでいい。それにリディアは娘だ、二人でいても問題はない。ミリーメイもいる、そもそも二人きりではない」

 お父さまラリーはきっぱりと言い聞かせた。
 ミリーメイは小さな声で「私の名前、覚えていらしたなんて!」と感激していた。

 一方テイラーは、眉を吊り上げて不満を露わにしていた。

「でしたら私も残ります」

「テイラー、君は下がっていいとが言っている」

 お父さまラリーはマクスウェル公爵家当主、この屋敷で一番力を持つ人物だ。
 その自分の言うことが聞けないのかと、お父さまは強く言い放った。

「でも、ラリー」

 テイラーはそれでも従おうとせず、甘えるように『ラリー』と呼んだ。
 それを聞いた途端、お父さまは苦々しい表情を浮かべた。

「テイラー、下がれ」

 お父さまラリーが不服そうに目を逸らしたのを見て、テイラーは諦めたように一歩後ろに下がった。

「ローレンス様、一時間後には教会へ出かけることになっています。お話は、それまでに済ませ部屋へお戻り下さい」

 言伝をし、テイラーは渋々その場を後にした。

 テイラーの姿が廊下から完全に見えなくなると、ミリーメイがアワアワと話しはじめた。

「公爵様、リディアお嬢様。わ、私も下がります。お話があられるんですよね」

 思いがけない言葉だったのか、お父さまラリーは目を丸くした。

「え、いや、君はいても構わない」
「いえ、そういうわけにはいきません。リディアお嬢様、一時間後にお迎えにあがります」

 ぶんっと音の鳴るほど早く頭を下げて、ミリーメイは、早足でその場から去って行ってしまった。

 私とラリーは呆気に取られその後ろ姿が視界からなくなるまで見ていた。

 完全にミリーメイの姿が見えなくなると、お父さまラリーは私に体を向けた。

「リディア……」
「はい……」

 緑色の優しい目が柔らかく細められる。
 前世、何度も見た表情だ。
 大好きな、ラリーの……。

「どうしてここにいたの?」
「ミリーメイに、邸の中を案内してもらっていて、そこに入ってはいけない部屋があると聞いて見ていました」
「ああ、そこは地下室なんだ。入ってみる?」
「えっ」
「そうだ、部屋の中には椅子もあるから、入って話そう」

 そう言うと、ラリーはポケットから鍵を取り出し、地下室の扉を開いた。

「でもそこは」
「部屋の中を誰にも穢されたくなかったから、私が決めたことなんだ、だから心配しなくていいよ」

 お父さまラリーは私へ手を差し伸べた。
 
「中は薄暗いから」
「はい……」

 その手を取って、私は一緒に地下室へと入っていった。
 
しおりを挟む
感想 36

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

【連載版】婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
短編では、なろうの方で異世界転生・恋愛【1位】ありがとうございます! 読者様の方からの連載の要望があったので連載を開始しました。 シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます! ※連載のためタイトル回収は結構後ろの後半からになります。

【完結】二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました

三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。 優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。 優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。 そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。 絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。 そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?

いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。 「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」 「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」 冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。 あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。 ショックで熱をだし寝込むこと1週間。 目覚めると夫がなぜか豹変していて…!? 「君から話し掛けてくれないのか?」 「もう君が隣にいないのは考えられない」 無口不器用夫×優しい鈍感妻 すれ違いから始まる両片思いストーリー

愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください

無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――

処理中です...