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17 地下室へ〜ローレンス+リディア〜
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【ローレンスsideからです。】
早朝、執事とともに部屋へと入ってきたテイラーは、用事を済ませた執事が部屋を後にしたのを見計らい、いつものように私に詰め寄ってきた。
「マクスウェル公爵家には後継者が必要です」
それは、アニスがリディアを生み、その後体調がすぐれなくなって以降、両親から口煩く告げられていた言葉。
両親が亡くなってからは、こうしてテイラーが言うようになった。
「すぐに結婚とはいかないことは承知しています。ですから、先に子供を」
テイラーの白く細い手が、腕に触れる寸前で私は体を翻した。
「アニスを亡くしたばかりで後妻など、ましてや子供など考えられない」
警戒したとテイラーに悟らせないように、椅子に掛けておいた上着を手に取り羽織る。
「ですが、このままでは」
テイラーは不服そうな顔をして、出していた手を引っ込めた。
アニスがこの世を去る少し前から、テイラーは両親に委託されたと言い、私に男女の関係を迫るようになっていた。
テイラーと関係を持つことはできない、考えられないと、これまで何度も否定しているが、状況は変わっていない。
「後継者ならリディアがいる。彼女に夫を……」
思わず言葉を詰まらせてしまった。
夫を迎えればいい、その言葉が言えなかった。
だが、このまま彼女自身が生まれ変わったことに気づかなければ、いつの日か私は父親として娘の結婚を見届けることになる。
彼女が、他の誰かと……。
「ラリーどうしたの? そんな青い顔をして……」
私の顔を覗き込み、テイラーは目を丸くした。
「あなたまさか、娘のリディアをあの子の生まれ変わりと思っているのではないでしょうね?」
テイラーは呆れ顔をし、近くにあった椅子に座り足を組み上目遣いに私を見る。
「…………」
言い返す言葉もなく、私はテイラーを見下ろした。
「はっ、まさか今まで生まれ変わりが本当にあると信じていたの?」
「それは君が教えてくれたことだ」
生まれ変われるという言い伝えを、私に教えてくれたのはテイラーだ。
彼女が慕っていたテイラーは、私たちの交際を応援してくれていた。
だから、私は無条件にテイラーの言葉を信じた。
二人で命を絶ったが、私だけが生き残ってしまった。
彼女を失い茫然自失となった私を支えてくれたのはテイラーだった。
私自身、テイラーをリディアと同じく姉のように思い、信用していたのだ。
だが……。
「言い伝えは本当よ。でも、生まれ変わりなんてないわ。少なくとも私は信じていない」
「そんな……」
「ラリーは信じているの? 似た顔を見たせいかしら?」
嘲るような口調で話したテイラーは「あなたの娘、あなたには少しも似ていないけれど、気持ち悪いぐらいにあの子にそっくりね」と、鼻先で笑った。
「リディアは、アニスに似たんだ」
そう言って、部屋を出ようと扉を開いた。
(セバスチャンが戻ってくるのは三十分後、これ以上、テイラーと二人きりで部屋にいるのは危険だ)
「どこへ行くの⁈」
テイラーが慌てた様子で追いかけてくる。
ただのメイドに答える必要はないと思いながら、私は行き先を告げた。
「……娘の所へ行く」
(今日は何も予定はなかったはず。部屋にいるといいが……)
「はっ? どうして行くのよ」
まるで後妻気取りの話し方に、さすがに私も腹を立てた。
「父親が娘に会いに行くのに、メイドの許可が必要か?」
怒気を孕めて告げ、扉を開け放ったまま部屋を後にした。
◇
「ここが南館です。公爵邸で一番日当たりのよい場所です。大広間は二階まで吹き抜けになっていて、とっても豪華なんです。隣の広間はちょっとしたお茶会の席に使われるそうです」
公爵邸の南館は、使われることがない限り二日に一度使用人が入るだけ。
普段は人気が無いのだとミリーメイは話した。
それから、広間の隣にある階段を指差した。
「この階段の裏側には地下室への扉があります」
「地下室?」
そこは、私とラリーが真夜中に会っていた場所だ。
私が行きたいと思っていた場所。
ここへ来れば、何かわかるかもしれないと思った。
「地下室は、ずいぶん前から立ち入り禁止となっているそうです」
「入れないの?」
ミリーメイは激しく首を横に振った。
「絶対に入ってはいけません」
「どうして?」
ミリーメイは私の耳に手を添えて「お化けが出るそうです」と囁いた。
「えっ、お化け?」
「しーっ、リディアお嬢様そんなに大きな声で言ったらダメです。現れたらどうするんですか」
ミリーメイは腕を抱いて周りを見ながらぶるぶると震えた。
お化け……そんな話があるなんて。
ただの物置のはずなのに。
この地下室で、私が死んだからだろうか。
気になって階段下の地下室の扉を覗いていると、ミリーメイから服を引っ張られた。
「リディアお嬢様、公爵様とメイド長がきます」
「……!」
(どうして二人がここへ?)
見れば、本当に廊下の向こうから二人がこちらへ歩いて来ている。
「リディアお嬢様にご用なのでしょうか?」
ミリーメイは首を傾げている。
「どうなのかしら……」
用もなにも、今お父さまに会うのは気まずい。
それも、よりによってこの場所で。
お父さまが本当の父親じゃないと知ってしまったばかりで、顔を見ることになるなんて。
(テイラーまで一緒だなんて……)
昨夜の恐怖が蘇る。
そっと場所を移そうかと考えたが、二人は既に私たちを確認して、こちらへと向かって来ているため動けなかった。
(落ち着いて、平常心を保てば大丈夫よ)
側にいるミリーメイに気づかれないように、ゆっくりと深呼吸をしていると、お父さまが目の前に来た。
お父さまは、私を優しく見つめ微笑みを浮かべた。
「リディア、ここにいたんだね」
「おはようございます、お父さま」
できるだけ自然な笑みを浮かべ挨拶をした。
「……リディア?」
やはり不自然だったのか、お父さまが首を傾げる。
「顔色が……」
そう言うと、お父さまは私の頬にスッと手を伸ばし触れて。
「…………!」
「眠れなかった?」
お父さまは頬に触れたまま、まるで恋人だった頃と変わらない甘い声で囁くように話した。
「……あ、あのっ」
さすがに無理だ。
平静でなんていられない。
自分でも顔が赤くなっていくのがわかるほど熱が彼の手に集まっていく。
赤くなった私に気づいたのか、お父さまはハッと目を開き頬に触れていた手を離し、気まずそうに声を落とした。
「すまない、つい……」
「いえ……」
お父さまと私は、付き合いたての恋人同士のように恥ずかしそうに視線を交わして。
その様子が不快だったのか、すぐ後ろにいたテイラーが低い声を上げた。
「お嬢様、娘とはいえ、そのような接触は控えられた方がよろしいと思います」
テイラーは冷たく私を見据える。
私から触れたわけでもない。
ほんの少し頬に触れられて、私が変に意識をしてしまい顔を赤くしてしまっただけ。
けれど、テイラーの目には不快に映ったらしい。
「はい……」
「テイラー、私がリディアにしたことだ。彼女に話をするのは間違っている」
お父さまがテイラーを一蹴した。
「ですが」
テイラーはお父さまの顔を見つめながら、自分の言ったことはおかしくないのだと主張する。
「君はもう下がっていい。私はリディアと話がある。そのためにここまで来たんだ」
「お話なら、お部屋へお戻りになられてからされてはどうですか。このような場所で二人きりなんていけません」
「戻りましょう」と、テイラーはお父さまの手を取ろうとした。
お父さまは、その手をぱっと振り払った。
「ここでいい。それにリディアは娘だ、二人でいても問題はない。ミリーメイもいる、そもそも二人きりではない」
お父さまはきっぱりと言い聞かせた。
ミリーメイは小さな声で「私の名前、覚えていらしたなんて!」と感激していた。
一方テイラーは、眉を吊り上げて不満を露わにしていた。
「でしたら私も残ります」
「テイラー、君は下がっていいと私が言っている」
お父さまはマクスウェル公爵家当主、この屋敷で一番力を持つ人物だ。
その自分の言うことが聞けないのかと、お父さまは強く言い放った。
「でも、ラリー」
テイラーはそれでも従おうとせず、甘えるように『ラリー』と呼んだ。
それを聞いた途端、お父さまは苦々しい表情を浮かべた。
「テイラー、下がれ」
お父さまが不服そうに目を逸らしたのを見て、テイラーは諦めたように一歩後ろに下がった。
「ローレンス様、一時間後には教会へ出かけることになっています。お話は、それまでに済ませ部屋へお戻り下さい」
言伝をし、テイラーは渋々その場を後にした。
テイラーの姿が廊下から完全に見えなくなると、ミリーメイがアワアワと話しはじめた。
「公爵様、リディアお嬢様。わ、私も下がります。お話があられるんですよね」
思いがけない言葉だったのか、お父さまは目を丸くした。
「え、いや、君はいても構わない」
「いえ、そういうわけにはいきません。リディアお嬢様、一時間後にお迎えにあがります」
ぶんっと音の鳴るほど早く頭を下げて、ミリーメイは、早足でその場から去って行ってしまった。
私とラリーは呆気に取られその後ろ姿が視界からなくなるまで見ていた。
完全にミリーメイの姿が見えなくなると、お父さまは私に体を向けた。
「リディア……」
「はい……」
緑色の優しい目が柔らかく細められる。
前世、何度も見た表情だ。
大好きな、ラリーの……。
「どうしてここにいたの?」
「ミリーメイに、邸の中を案内してもらっていて、そこに入ってはいけない部屋があると聞いて見ていました」
「ああ、そこは地下室なんだ。入ってみる?」
「えっ」
「そうだ、部屋の中には椅子もあるから、入って話そう」
そう言うと、ラリーはポケットから鍵を取り出し、地下室の扉を開いた。
「でもそこは」
「部屋の中を誰にも穢されたくなかったから、私が決めたことなんだ、だから心配しなくていいよ」
お父さまは私へ手を差し伸べた。
「中は薄暗いから」
「はい……」
その手を取って、私は一緒に地下室へと入っていった。
早朝、執事とともに部屋へと入ってきたテイラーは、用事を済ませた執事が部屋を後にしたのを見計らい、いつものように私に詰め寄ってきた。
「マクスウェル公爵家には後継者が必要です」
それは、アニスがリディアを生み、その後体調がすぐれなくなって以降、両親から口煩く告げられていた言葉。
両親が亡くなってからは、こうしてテイラーが言うようになった。
「すぐに結婚とはいかないことは承知しています。ですから、先に子供を」
テイラーの白く細い手が、腕に触れる寸前で私は体を翻した。
「アニスを亡くしたばかりで後妻など、ましてや子供など考えられない」
警戒したとテイラーに悟らせないように、椅子に掛けておいた上着を手に取り羽織る。
「ですが、このままでは」
テイラーは不服そうな顔をして、出していた手を引っ込めた。
アニスがこの世を去る少し前から、テイラーは両親に委託されたと言い、私に男女の関係を迫るようになっていた。
テイラーと関係を持つことはできない、考えられないと、これまで何度も否定しているが、状況は変わっていない。
「後継者ならリディアがいる。彼女に夫を……」
思わず言葉を詰まらせてしまった。
夫を迎えればいい、その言葉が言えなかった。
だが、このまま彼女自身が生まれ変わったことに気づかなければ、いつの日か私は父親として娘の結婚を見届けることになる。
彼女が、他の誰かと……。
「ラリーどうしたの? そんな青い顔をして……」
私の顔を覗き込み、テイラーは目を丸くした。
「あなたまさか、娘のリディアをあの子の生まれ変わりと思っているのではないでしょうね?」
テイラーは呆れ顔をし、近くにあった椅子に座り足を組み上目遣いに私を見る。
「…………」
言い返す言葉もなく、私はテイラーを見下ろした。
「はっ、まさか今まで生まれ変わりが本当にあると信じていたの?」
「それは君が教えてくれたことだ」
生まれ変われるという言い伝えを、私に教えてくれたのはテイラーだ。
彼女が慕っていたテイラーは、私たちの交際を応援してくれていた。
だから、私は無条件にテイラーの言葉を信じた。
二人で命を絶ったが、私だけが生き残ってしまった。
彼女を失い茫然自失となった私を支えてくれたのはテイラーだった。
私自身、テイラーをリディアと同じく姉のように思い、信用していたのだ。
だが……。
「言い伝えは本当よ。でも、生まれ変わりなんてないわ。少なくとも私は信じていない」
「そんな……」
「ラリーは信じているの? 似た顔を見たせいかしら?」
嘲るような口調で話したテイラーは「あなたの娘、あなたには少しも似ていないけれど、気持ち悪いぐらいにあの子にそっくりね」と、鼻先で笑った。
「リディアは、アニスに似たんだ」
そう言って、部屋を出ようと扉を開いた。
(セバスチャンが戻ってくるのは三十分後、これ以上、テイラーと二人きりで部屋にいるのは危険だ)
「どこへ行くの⁈」
テイラーが慌てた様子で追いかけてくる。
ただのメイドに答える必要はないと思いながら、私は行き先を告げた。
「……娘の所へ行く」
(今日は何も予定はなかったはず。部屋にいるといいが……)
「はっ? どうして行くのよ」
まるで後妻気取りの話し方に、さすがに私も腹を立てた。
「父親が娘に会いに行くのに、メイドの許可が必要か?」
怒気を孕めて告げ、扉を開け放ったまま部屋を後にした。
◇
「ここが南館です。公爵邸で一番日当たりのよい場所です。大広間は二階まで吹き抜けになっていて、とっても豪華なんです。隣の広間はちょっとしたお茶会の席に使われるそうです」
公爵邸の南館は、使われることがない限り二日に一度使用人が入るだけ。
普段は人気が無いのだとミリーメイは話した。
それから、広間の隣にある階段を指差した。
「この階段の裏側には地下室への扉があります」
「地下室?」
そこは、私とラリーが真夜中に会っていた場所だ。
私が行きたいと思っていた場所。
ここへ来れば、何かわかるかもしれないと思った。
「地下室は、ずいぶん前から立ち入り禁止となっているそうです」
「入れないの?」
ミリーメイは激しく首を横に振った。
「絶対に入ってはいけません」
「どうして?」
ミリーメイは私の耳に手を添えて「お化けが出るそうです」と囁いた。
「えっ、お化け?」
「しーっ、リディアお嬢様そんなに大きな声で言ったらダメです。現れたらどうするんですか」
ミリーメイは腕を抱いて周りを見ながらぶるぶると震えた。
お化け……そんな話があるなんて。
ただの物置のはずなのに。
この地下室で、私が死んだからだろうか。
気になって階段下の地下室の扉を覗いていると、ミリーメイから服を引っ張られた。
「リディアお嬢様、公爵様とメイド長がきます」
「……!」
(どうして二人がここへ?)
見れば、本当に廊下の向こうから二人がこちらへ歩いて来ている。
「リディアお嬢様にご用なのでしょうか?」
ミリーメイは首を傾げている。
「どうなのかしら……」
用もなにも、今お父さまに会うのは気まずい。
それも、よりによってこの場所で。
お父さまが本当の父親じゃないと知ってしまったばかりで、顔を見ることになるなんて。
(テイラーまで一緒だなんて……)
昨夜の恐怖が蘇る。
そっと場所を移そうかと考えたが、二人は既に私たちを確認して、こちらへと向かって来ているため動けなかった。
(落ち着いて、平常心を保てば大丈夫よ)
側にいるミリーメイに気づかれないように、ゆっくりと深呼吸をしていると、お父さまが目の前に来た。
お父さまは、私を優しく見つめ微笑みを浮かべた。
「リディア、ここにいたんだね」
「おはようございます、お父さま」
できるだけ自然な笑みを浮かべ挨拶をした。
「……リディア?」
やはり不自然だったのか、お父さまが首を傾げる。
「顔色が……」
そう言うと、お父さまは私の頬にスッと手を伸ばし触れて。
「…………!」
「眠れなかった?」
お父さまは頬に触れたまま、まるで恋人だった頃と変わらない甘い声で囁くように話した。
「……あ、あのっ」
さすがに無理だ。
平静でなんていられない。
自分でも顔が赤くなっていくのがわかるほど熱が彼の手に集まっていく。
赤くなった私に気づいたのか、お父さまはハッと目を開き頬に触れていた手を離し、気まずそうに声を落とした。
「すまない、つい……」
「いえ……」
お父さまと私は、付き合いたての恋人同士のように恥ずかしそうに視線を交わして。
その様子が不快だったのか、すぐ後ろにいたテイラーが低い声を上げた。
「お嬢様、娘とはいえ、そのような接触は控えられた方がよろしいと思います」
テイラーは冷たく私を見据える。
私から触れたわけでもない。
ほんの少し頬に触れられて、私が変に意識をしてしまい顔を赤くしてしまっただけ。
けれど、テイラーの目には不快に映ったらしい。
「はい……」
「テイラー、私がリディアにしたことだ。彼女に話をするのは間違っている」
お父さまがテイラーを一蹴した。
「ですが」
テイラーはお父さまの顔を見つめながら、自分の言ったことはおかしくないのだと主張する。
「君はもう下がっていい。私はリディアと話がある。そのためにここまで来たんだ」
「お話なら、お部屋へお戻りになられてからされてはどうですか。このような場所で二人きりなんていけません」
「戻りましょう」と、テイラーはお父さまの手を取ろうとした。
お父さまは、その手をぱっと振り払った。
「ここでいい。それにリディアは娘だ、二人でいても問題はない。ミリーメイもいる、そもそも二人きりではない」
お父さまはきっぱりと言い聞かせた。
ミリーメイは小さな声で「私の名前、覚えていらしたなんて!」と感激していた。
一方テイラーは、眉を吊り上げて不満を露わにしていた。
「でしたら私も残ります」
「テイラー、君は下がっていいと私が言っている」
お父さまはマクスウェル公爵家当主、この屋敷で一番力を持つ人物だ。
その自分の言うことが聞けないのかと、お父さまは強く言い放った。
「でも、ラリー」
テイラーはそれでも従おうとせず、甘えるように『ラリー』と呼んだ。
それを聞いた途端、お父さまは苦々しい表情を浮かべた。
「テイラー、下がれ」
お父さまが不服そうに目を逸らしたのを見て、テイラーは諦めたように一歩後ろに下がった。
「ローレンス様、一時間後には教会へ出かけることになっています。お話は、それまでに済ませ部屋へお戻り下さい」
言伝をし、テイラーは渋々その場を後にした。
テイラーの姿が廊下から完全に見えなくなると、ミリーメイがアワアワと話しはじめた。
「公爵様、リディアお嬢様。わ、私も下がります。お話があられるんですよね」
思いがけない言葉だったのか、お父さまは目を丸くした。
「え、いや、君はいても構わない」
「いえ、そういうわけにはいきません。リディアお嬢様、一時間後にお迎えにあがります」
ぶんっと音の鳴るほど早く頭を下げて、ミリーメイは、早足でその場から去って行ってしまった。
私とラリーは呆気に取られその後ろ姿が視界からなくなるまで見ていた。
完全にミリーメイの姿が見えなくなると、お父さまは私に体を向けた。
「リディア……」
「はい……」
緑色の優しい目が柔らかく細められる。
前世、何度も見た表情だ。
大好きな、ラリーの……。
「どうしてここにいたの?」
「ミリーメイに、邸の中を案内してもらっていて、そこに入ってはいけない部屋があると聞いて見ていました」
「ああ、そこは地下室なんだ。入ってみる?」
「えっ」
「そうだ、部屋の中には椅子もあるから、入って話そう」
そう言うと、ラリーはポケットから鍵を取り出し、地下室の扉を開いた。
「でもそこは」
「部屋の中を誰にも穢されたくなかったから、私が決めたことなんだ、だから心配しなくていいよ」
お父さまは私へ手を差し伸べた。
「中は薄暗いから」
「はい……」
その手を取って、私は一緒に地下室へと入っていった。
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