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18 重なる想い
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お父さまと手を繋いだまま、薄暗い地下室を歩いていく。
あの頃とほとんど変わっていない地下室の、使われることのない家具の間を抜けて奥へと進むと、天窓のある場所へと出た。
窓から差す陽光が思い出のある長椅子に降り注いでいる。
(昼間はこんなに明るかったのね……)
椅子の周りはキレイに掃除されていた。
お父さまは私を長椅子に座らせて、少し離れた場所に立った。
「お父さまも一緒に座って下さい」
他に座れそうな物はここにはない。
長椅子は、大人二人が余裕で座れる広さがあるのだ。
それに、前世ではいつも隣に彼が座っていたから、こうして一人で座るのは落ち着かない。そう思い口にした。
意外な言葉だったのか、お父さまは目を見開いた。
「……隣に座ってもいいの?」
お父さまの顔に緊張の色が見えている。
「はい」
平然とした顔で返事をしたが、心臓は早鐘を打っていた。
自ら言ったこととはいえ、この場所で、この長椅子にラリーと座るのだ。
あの甘い日々を思い出さずにはいられない。
お父さまは困ったような顔をして、私を見つめた。
「父親といっても、私と『リディア』は会ってまだ間もない。隣は……嫌じゃないかと……」
「手を繋いだのに?」
手だけじゃない、頬にも触れた。
首を傾げて見せるとお父さまは恥ずかしそうに目を逸らした。
「そうだね……うん」
自らを納得させるように呟いて、お父さまは私から少し間を空けて座った。
膝の上で手を組むと、その手に目を落とす。
私も、お父さまと同じように膝の上に重ねた手を見つめた。
ここは、私とラリーが人知れず逢瀬をした場所。そして、生まれ変わりを約束し命を断った場所だ。
あの夜私は死に、約束通り生まれ変わった。
彼は死ぬことなく結婚し私の父親になっていた。
裏切られたのだと思い、一度は彼のことを憎んだ。
けれど前世の彼への想いが強くて、完全には恨みきれないまま、私はどうすることもできない恋心を抱えていた。
昨夜、お母さまの手紙を見つけ読むまで、この想いは胸の中に仕舞い込まなければならないと思っていた……。
けれど、お父さまは本当の父親ではなかった。
そして、お母さまが付けてくれた私の名前『リディア』それは、偶然付けられたものではなく、ラリーの『大切な恋人の名前』だったと知った。
ラリーは、メイドのリディアを恋人だと思ってくれていた。それも、大切な恋人だと、お母さまに話してくれていた。
嬉しくてたまらなかった。
本当は今すぐにでも、この想いを伝えたかった。
あなたに会うために、生まれ変わってきたのだと言いたかった。
お父さまではなく、『ラリー』と呼びたかった。
──それができずにいるのは……どうしても気になることがあるから。
一緒に生まれ変わろうと約束したあの夜、ラリーは同じ毒の入ったワインを飲んだ。それなのに、死んだのはメイドのリディアだけ。
ラリーはなぜ、こうして生きているのか。
お母さまと結婚することになったのはなぜなのか。
……テイラーが『ラリー』と親しげに呼ぶ理由を……私が知らないその訳を聞きたい。
(ラリー……)
隣に座るラリーに目を向けた。
──と、偶然にもラリーも私へと顔を向けて。
私たちは互いに魅入られるように目と目を合わせた。
心が覚えてる。
まるで昨日のことのように思い出せる。
ここでこうして何度も見つめ合い、愛を確かめあったこと。
私を抱きしめる彼の腕の強さを、甘い吐息を、重なった熱い唇の感触を。
彼の緑色の瞳が熱を孕んだように甘くなり、私を捉える。
互いに引き寄せられるかのように、私たちは体を寄せた。
座面に置いた私の手に彼の手が重ねられ、互いの顔に息が触れるほど近くなった。
彼が今、私のお父さまであることも、自身が娘であることもすべて忘れてしまっていた。
私の目に映るのは、恋人のラリー。
そしてお父さまの目にも『リディア』が映っていたのだろう。
「リディア……」
ラリーは熱のこもった甘い声で、私の名を呼ぶと口づけをするように顔の角度を変えた。
鼻先が触れ合い、まさに彼の唇が私の唇に触れようとした──その時。
天窓の外から、バンッと大きな音が鳴り響いた。
同時に視界を影が横切って。
私とお父さまは同時にはっと目を開き、慌てて体を離して顔を背けた。
(もう少しでキスをしてしまうところだった……)
心臓がバクバクと音を立てる。
あの物音が、視界を横切る影がなかったなら、私はラリーと口づけを交わしていただろう。
あの頃のように、深く甘い口づけを。
『娘』が『父親』と……。
未遂に終わったけれど、ラリーが血の繋がった父親ではないことを知らなければ決して許されない行為だった。
しばらくすると、お父さまがパッと席を立った。
そのまま私から数歩離れた壁際に立つと、何もなかったように平然な顔をした。
「この後、教会へアニスが生前預けていた物を取りに行く予定なんだ。よければリディアも一緒に行かないか?」
お父さまは淡々と話した。
先程のことは、無かったことにしたいのだ。
そう思い、私も平静を装った。
「私も一緒にいいのですか?」
口角を上げると、お父さまも柔らかな笑みを浮かべた。
「うん。今度はセバスチャンも一緒だから、心配しないで」
(心配……?)
お父さまは「部屋を出よう」と再び私に手を差し伸べた。
あの頃とほとんど変わっていない地下室の、使われることのない家具の間を抜けて奥へと進むと、天窓のある場所へと出た。
窓から差す陽光が思い出のある長椅子に降り注いでいる。
(昼間はこんなに明るかったのね……)
椅子の周りはキレイに掃除されていた。
お父さまは私を長椅子に座らせて、少し離れた場所に立った。
「お父さまも一緒に座って下さい」
他に座れそうな物はここにはない。
長椅子は、大人二人が余裕で座れる広さがあるのだ。
それに、前世ではいつも隣に彼が座っていたから、こうして一人で座るのは落ち着かない。そう思い口にした。
意外な言葉だったのか、お父さまは目を見開いた。
「……隣に座ってもいいの?」
お父さまの顔に緊張の色が見えている。
「はい」
平然とした顔で返事をしたが、心臓は早鐘を打っていた。
自ら言ったこととはいえ、この場所で、この長椅子にラリーと座るのだ。
あの甘い日々を思い出さずにはいられない。
お父さまは困ったような顔をして、私を見つめた。
「父親といっても、私と『リディア』は会ってまだ間もない。隣は……嫌じゃないかと……」
「手を繋いだのに?」
手だけじゃない、頬にも触れた。
首を傾げて見せるとお父さまは恥ずかしそうに目を逸らした。
「そうだね……うん」
自らを納得させるように呟いて、お父さまは私から少し間を空けて座った。
膝の上で手を組むと、その手に目を落とす。
私も、お父さまと同じように膝の上に重ねた手を見つめた。
ここは、私とラリーが人知れず逢瀬をした場所。そして、生まれ変わりを約束し命を断った場所だ。
あの夜私は死に、約束通り生まれ変わった。
彼は死ぬことなく結婚し私の父親になっていた。
裏切られたのだと思い、一度は彼のことを憎んだ。
けれど前世の彼への想いが強くて、完全には恨みきれないまま、私はどうすることもできない恋心を抱えていた。
昨夜、お母さまの手紙を見つけ読むまで、この想いは胸の中に仕舞い込まなければならないと思っていた……。
けれど、お父さまは本当の父親ではなかった。
そして、お母さまが付けてくれた私の名前『リディア』それは、偶然付けられたものではなく、ラリーの『大切な恋人の名前』だったと知った。
ラリーは、メイドのリディアを恋人だと思ってくれていた。それも、大切な恋人だと、お母さまに話してくれていた。
嬉しくてたまらなかった。
本当は今すぐにでも、この想いを伝えたかった。
あなたに会うために、生まれ変わってきたのだと言いたかった。
お父さまではなく、『ラリー』と呼びたかった。
──それができずにいるのは……どうしても気になることがあるから。
一緒に生まれ変わろうと約束したあの夜、ラリーは同じ毒の入ったワインを飲んだ。それなのに、死んだのはメイドのリディアだけ。
ラリーはなぜ、こうして生きているのか。
お母さまと結婚することになったのはなぜなのか。
……テイラーが『ラリー』と親しげに呼ぶ理由を……私が知らないその訳を聞きたい。
(ラリー……)
隣に座るラリーに目を向けた。
──と、偶然にもラリーも私へと顔を向けて。
私たちは互いに魅入られるように目と目を合わせた。
心が覚えてる。
まるで昨日のことのように思い出せる。
ここでこうして何度も見つめ合い、愛を確かめあったこと。
私を抱きしめる彼の腕の強さを、甘い吐息を、重なった熱い唇の感触を。
彼の緑色の瞳が熱を孕んだように甘くなり、私を捉える。
互いに引き寄せられるかのように、私たちは体を寄せた。
座面に置いた私の手に彼の手が重ねられ、互いの顔に息が触れるほど近くなった。
彼が今、私のお父さまであることも、自身が娘であることもすべて忘れてしまっていた。
私の目に映るのは、恋人のラリー。
そしてお父さまの目にも『リディア』が映っていたのだろう。
「リディア……」
ラリーは熱のこもった甘い声で、私の名を呼ぶと口づけをするように顔の角度を変えた。
鼻先が触れ合い、まさに彼の唇が私の唇に触れようとした──その時。
天窓の外から、バンッと大きな音が鳴り響いた。
同時に視界を影が横切って。
私とお父さまは同時にはっと目を開き、慌てて体を離して顔を背けた。
(もう少しでキスをしてしまうところだった……)
心臓がバクバクと音を立てる。
あの物音が、視界を横切る影がなかったなら、私はラリーと口づけを交わしていただろう。
あの頃のように、深く甘い口づけを。
『娘』が『父親』と……。
未遂に終わったけれど、ラリーが血の繋がった父親ではないことを知らなければ決して許されない行為だった。
しばらくすると、お父さまがパッと席を立った。
そのまま私から数歩離れた壁際に立つと、何もなかったように平然な顔をした。
「この後、教会へアニスが生前預けていた物を取りに行く予定なんだ。よければリディアも一緒に行かないか?」
お父さまは淡々と話した。
先程のことは、無かったことにしたいのだ。
そう思い、私も平静を装った。
「私も一緒にいいのですか?」
口角を上げると、お父さまも柔らかな笑みを浮かべた。
「うん。今度はセバスチャンも一緒だから、心配しないで」
(心配……?)
お父さまは「部屋を出よう」と再び私に手を差し伸べた。
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