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19 揺らぐ心
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「リディアお嬢様ー!」
地下室を出たところで、ミリーメイの声が聞こえた。
お父さまは慌てて繋いでいた手を離す。
廊下の先にミリーメイの姿が見えた。
「まだここにいらしたんですね、大丈夫でしたか⁉︎」
早足でやってきたミリーメイは、私とお父さまを確認するように見て、ほっと息をついた。
「大丈夫ってどうして?」
お父さまは話があると言って私に会いにきている。
危険なことはない。
「私、リディアお嬢様とお別れした後、食堂へ行っていたんです。メイド仲間と休憩をとらせてもらっていたんですけど、そこにメイド長が来て」
テイラーはミリーメイを見た途端、「どうしてお前はここにいるの! 二人はどうしたの!」と喚き声を上げたという。
ミリーメイはビックリしたのと怖いのとで泣きべそをかきながらも、テイラーに話をした。
「『お話はお二人でされる方がいいと思って、私も下がらせていただきました』と答えたんです。そうしたら……」
テイラーは再び声を荒げて、
「お前が一緒だというから仕方なく離れたのに! 役立たずめ!」と食堂を出て行った。
そのあまりの剣幕に、食堂にいた使用人たちも静まり返って。
すると、誰かがテイラーが何かするのではないかと騒ぎ出した為ミリーメイは私たちのもとへ急ぎ来たと言った。
「メイド長、公爵様とリディアお嬢様に何かあるとでも思っているんですよ。まったく、お二人は親子でいらっしゃるのに、そんな事考える方がおかしいです!」
ミリーメイの真っ直ぐな目がお父さまと私に注がれる。
──何か、と言われ、地下室でのことを思い出してしまった。
もう少しで交わされるところだった口づけを──。
「ええ、何もなかったわ。ただお話をしていただけ……」
私が小声で話すと、お父さまも「……そうだね……」と声を小さくした。
「ですよね!」
ミリーメイはうんうんと頷くと、腕を組み首を傾げた。
「メイド長はどこへ行ったのでしょうか? 真っ先にここへ行くと思ったのに」
ミリーメイはテイラーの姿を探すようにキョロキョロと辺りを見回している。
もしかしたら、私たちが地下室にいる間に来たのかも知れない。
見当たらず、どこか別の場所を探しに行ったのだろう。
この近くで話をする場所となれば、庭園にある四阿だろうか。
それとも……。
前世の記憶を辿り、テイラーが探しそうな場所を考えていると、お父さまが眉根を寄せ「まさか私の部屋へ」と呟いた。
お父さまの部屋?
それは、二階フロアだけでなく私室の出入りも許しているということだ。
まさか、あの話……。
盗み聞きしてしまった使用人たちの話が頭を過ぎった。
私を探していたと現れたお父さまは、テイラーと一緒だった。
二人の会話に遠慮はなく、テイラーは甘えたように『ラリー』と呼んでいた。
使用人たちの話の通り、二人は本当にそういう関係なのだろうか。
考えるだけで胸がザワザワとする。
──聞いてみると決心したのに。
お父さまを前にすると、こうして思い煩うばかりだ。
このままじゃダメ。思い切って、今聞いてみよう。
そう思い、お父さまに声を掛けた。
「お父さま!」
思いの外、声が大きくなってしまった。
お父さまはちょっとだけ驚いた顔をしたけれど、すぐに優しい微笑みを浮かべた。
「どうしたの? リディア」
「あの、お父さまはテイラーと……」
『どういう関係なの?』と聞こうとして言えなくなった。
「リディア? 何か……」
「教会へは、テイラーも一緒に行くのですか?」
──答えを聞くのが怖くなり、違う話にすり替えてしまった。
使用人たちのあの話が本当のことで、後妻に迎えるつもりだと言われてしまったら……私には耐えられないから。
「テイラー?」
お父さまはすぐに首を横に振った。
キレイな金色の髪がサラサラと揺れる。
「いや、テイラーは行かない。セバスチャンだけ連れて行く予定だった。リディアが一緒に行ってくれるのなら、ノエルも連れて行こうと思っていたところだ」
ノエルは、お母さまととても仲がよかったと話したお父さまは、「支度を済ませたら玄関で待っていて」と告げて先に部屋へと戻った。
◇
支度を済ませた私とノエルは、玄関ホールでお父さまとセバスチャンが降りてくるのを待っていた。
五分ほど経った頃、階段の上から駄々を捏ねるテイラーの声が聞こえてきた。
「どうして? 私は行けないの⁈」
「…………」
「だったら、馬車を変えればいいだけじゃない!」
テイラーはお父さまと何やら揉めているようだ。
「お父さま、大丈夫かな……」
お父さまを心配し階段を見上げていると、並んで待っていたノエルが「相変わらずだこと」と呆れたように言葉を吐き捨てた。
相変わらず?
それはテイラーのこと?
私の前世の記憶では、テイラーはこんな話し方をする人ではなかった。
しかし、ノエルがこんな言葉を口にするという事は、メイドのリディアが亡くなってからは、このような話し方をしていたのだろうか?
それとも、ラリーに対してだけこんな感じで話していたとか?
あれこれと詮索ばかりしてしまう。
思い切って、ノエルに聞いてしまえばいいだけなのに、その勇気も出ない。
それから少し待って、ようやくお父さまとセバスチャンが階段を降りてきた。
「待たせてすまない。さぁ、行こうか」
お父さまは私へと笑顔を向ける。
その向こうに、苦々しい顔をするテイラーの姿があった。
地下室を出たところで、ミリーメイの声が聞こえた。
お父さまは慌てて繋いでいた手を離す。
廊下の先にミリーメイの姿が見えた。
「まだここにいらしたんですね、大丈夫でしたか⁉︎」
早足でやってきたミリーメイは、私とお父さまを確認するように見て、ほっと息をついた。
「大丈夫ってどうして?」
お父さまは話があると言って私に会いにきている。
危険なことはない。
「私、リディアお嬢様とお別れした後、食堂へ行っていたんです。メイド仲間と休憩をとらせてもらっていたんですけど、そこにメイド長が来て」
テイラーはミリーメイを見た途端、「どうしてお前はここにいるの! 二人はどうしたの!」と喚き声を上げたという。
ミリーメイはビックリしたのと怖いのとで泣きべそをかきながらも、テイラーに話をした。
「『お話はお二人でされる方がいいと思って、私も下がらせていただきました』と答えたんです。そうしたら……」
テイラーは再び声を荒げて、
「お前が一緒だというから仕方なく離れたのに! 役立たずめ!」と食堂を出て行った。
そのあまりの剣幕に、食堂にいた使用人たちも静まり返って。
すると、誰かがテイラーが何かするのではないかと騒ぎ出した為ミリーメイは私たちのもとへ急ぎ来たと言った。
「メイド長、公爵様とリディアお嬢様に何かあるとでも思っているんですよ。まったく、お二人は親子でいらっしゃるのに、そんな事考える方がおかしいです!」
ミリーメイの真っ直ぐな目がお父さまと私に注がれる。
──何か、と言われ、地下室でのことを思い出してしまった。
もう少しで交わされるところだった口づけを──。
「ええ、何もなかったわ。ただお話をしていただけ……」
私が小声で話すと、お父さまも「……そうだね……」と声を小さくした。
「ですよね!」
ミリーメイはうんうんと頷くと、腕を組み首を傾げた。
「メイド長はどこへ行ったのでしょうか? 真っ先にここへ行くと思ったのに」
ミリーメイはテイラーの姿を探すようにキョロキョロと辺りを見回している。
もしかしたら、私たちが地下室にいる間に来たのかも知れない。
見当たらず、どこか別の場所を探しに行ったのだろう。
この近くで話をする場所となれば、庭園にある四阿だろうか。
それとも……。
前世の記憶を辿り、テイラーが探しそうな場所を考えていると、お父さまが眉根を寄せ「まさか私の部屋へ」と呟いた。
お父さまの部屋?
それは、二階フロアだけでなく私室の出入りも許しているということだ。
まさか、あの話……。
盗み聞きしてしまった使用人たちの話が頭を過ぎった。
私を探していたと現れたお父さまは、テイラーと一緒だった。
二人の会話に遠慮はなく、テイラーは甘えたように『ラリー』と呼んでいた。
使用人たちの話の通り、二人は本当にそういう関係なのだろうか。
考えるだけで胸がザワザワとする。
──聞いてみると決心したのに。
お父さまを前にすると、こうして思い煩うばかりだ。
このままじゃダメ。思い切って、今聞いてみよう。
そう思い、お父さまに声を掛けた。
「お父さま!」
思いの外、声が大きくなってしまった。
お父さまはちょっとだけ驚いた顔をしたけれど、すぐに優しい微笑みを浮かべた。
「どうしたの? リディア」
「あの、お父さまはテイラーと……」
『どういう関係なの?』と聞こうとして言えなくなった。
「リディア? 何か……」
「教会へは、テイラーも一緒に行くのですか?」
──答えを聞くのが怖くなり、違う話にすり替えてしまった。
使用人たちのあの話が本当のことで、後妻に迎えるつもりだと言われてしまったら……私には耐えられないから。
「テイラー?」
お父さまはすぐに首を横に振った。
キレイな金色の髪がサラサラと揺れる。
「いや、テイラーは行かない。セバスチャンだけ連れて行く予定だった。リディアが一緒に行ってくれるのなら、ノエルも連れて行こうと思っていたところだ」
ノエルは、お母さまととても仲がよかったと話したお父さまは、「支度を済ませたら玄関で待っていて」と告げて先に部屋へと戻った。
◇
支度を済ませた私とノエルは、玄関ホールでお父さまとセバスチャンが降りてくるのを待っていた。
五分ほど経った頃、階段の上から駄々を捏ねるテイラーの声が聞こえてきた。
「どうして? 私は行けないの⁈」
「…………」
「だったら、馬車を変えればいいだけじゃない!」
テイラーはお父さまと何やら揉めているようだ。
「お父さま、大丈夫かな……」
お父さまを心配し階段を見上げていると、並んで待っていたノエルが「相変わらずだこと」と呆れたように言葉を吐き捨てた。
相変わらず?
それはテイラーのこと?
私の前世の記憶では、テイラーはこんな話し方をする人ではなかった。
しかし、ノエルがこんな言葉を口にするという事は、メイドのリディアが亡くなってからは、このような話し方をしていたのだろうか?
それとも、ラリーに対してだけこんな感じで話していたとか?
あれこれと詮索ばかりしてしまう。
思い切って、ノエルに聞いてしまえばいいだけなのに、その勇気も出ない。
それから少し待って、ようやくお父さまとセバスチャンが階段を降りてきた。
「待たせてすまない。さぁ、行こうか」
お父さまは私へと笑顔を向ける。
その向こうに、苦々しい顔をするテイラーの姿があった。
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