一緒に命を絶った恋人が何故か生まれ変わった私のお父さまだった理由

五珠 izumi

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20 告白

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 私とお父さまラリー、執事のセバスチャン、ノエルの四人で馬車に乗り教会へと向かった。
 教会はマクスウェル公爵家から一時間ほどの場所にある。
 特に会話をすることもなく、四人を乗せた馬車は教会へと到着した。

 私たちは教会の一室に通された。
 小さな窓が一つだけあり、部屋の中央には木のテーブルが一つ、シンプルな木の椅子が四脚、壁に寄せ並べ置いてある。
 座って待っていると、司教がお母さまから預かっていた物を持って現れた。

「お待たせいたしました。お預かりしていた品物はこちらになります」

 テーブルの上に封書と小さな箱を置いた司教は、私たちに一度深く頭を下げた後、話をはじめた。

「アニス様は、お嬢様が成人を迎えられるということで祝福を授かりに来られていたのです」

 司教から贈り物に祝福を授けてもらう間、お母さまは私の出生記録を見ていたという。

 出生記録には生まれた日と名前、両親の名前が記される。

「アニス様は、はじめてご覧になられたようで、大変驚かれておりました」

 司教は、私の出生記録をテーブルの上に置いた。

「リディアの出生記録は、両親が届けると言って……」

 お父さまラリーの声は微かに震えている。

 私の出生記録には、生まれた日と名前の横に『養子』と記されていた。
 両親の名前は記載されておらず、当時のマクスウェル公爵夫妻、私の祖父母の名前が記されている。

「リディアが養子? 私の子ではなく、両親の『養子』に?」

 お父さまラリーはセバスチャンに目を向けた。
 セバスチャンは首を横に振って知らなかったと話した。

 お父さまラリーは再び出生記録を見ると、司教に尋ねた。

「これでは、私とリディアは親子ではなく義兄妹になるのでは?」

 司教は首を縦にして「はい」と一言告げる。

「そんな……。だが……」

 ラリーは困惑していた。
 私だってそう。
『恋人』だったラリーが『父親』になってしまったと思ったら『義兄』になったのだから。

 でもわからない。なぜ公爵夫妻は私を『養子』にしたのだろう。
 それもの養子に。

「そのことを、アニス様はマクスウェル公爵夫妻にお尋ねになられておりました」

 司教は神妙な面持ちで話す。
 ラリーは首を傾げた。

「両親に? アニスは両親と一緒に教会へ?」
「いえ、マクスウェル公爵夫妻は別の用事でおいでになられていたのです」

 お母さまは偶然会った公爵夫妻に出生記録を見せ、問いただしていたという。
 司教は、お父さまへ封書を差し出した。

「この封書をローレンス・マクスウェル様へ渡して欲しいと頼まれました」
「これを、私に?」
「はい、そしてこちらはリディア様に」

 司教は小さな箱を私の前に置いた。

「しばらくこの部屋を使うことはございません。どうぞごゆっくりお過ごし下さい」

 司教は頭を下げると部屋を出ていった。

 ラリーはすぐに封書を開き、読みはじめた。

 読み進めるたびに、顔色は悪くなっていった。
 最後まで読み終えると、私へと切なげな目を向けた。

「リディア、まず君に言っておかなければならないことがある」
「はい」

「君の母親はアニスだ。だが、父親は私ではない。君の本当の父親はアニスの恋人だった。アニスは、私のせいで恋人と引き離され、政略結婚をすることになったんだ」

 ラリーは、自分がパーティーでたまたま話をしたために、お母さまは結婚相手に選ばれてしまったと話した。
 初夜にお母さまから恋人がいたことと妊娠を打ち明けられたラリーは、政略結婚のため離縁は難しい、子供は自分の子として育てさせて欲しいと告げた。
 妊娠はわかったばかり、生まれ月の誤差は誤魔化せるだろうと思っていたと。

 公爵夫妻は懐妊を聞き、とても喜んでいた。

 出産までは何事もなく順調に時は過ぎた。
 だが子供が生まれた途端、公爵夫妻は後継者のラリーも知らなかった『しきたり』があると言い出した。

『しきたり』の為、すぐに子供と乳母を別邸へと送ると聞いたラリーは、せめて母親を一緒にと頼んだ。だが、公爵夫妻は後継者を生む役目が残っていると、聞き入れなかった。
 
 お母さまは『しきたり』を受け入れる代わりに、名前は自分に付けさせて欲しいと言って『リディア』と名付けた。


「『リディア』その名は、私の失った愛する人の名前だ。アニスは私のためにその名を付けてくれた」

 ラリーは真っ直ぐに私を見ると、泣きそうな顔をした。

「リディア、私と君には血の繋がりはない。だが、私は父親であるつもりでいた……」

 そのまま声を詰まらせ、目を伏せてしまった。

(ラリー……)

「リディアお嬢様、私もアニス様よりお聞きしておりました。別邸で一緒に暮らしていたジャスミンとジョンも知っています」

 ノエルは愛しむような微笑みを浮かべ、話してくれた。
 セバスチャンは、ラリーから聞いていたと頭を下げ「他に知る者はおりません」と告げた。

 私も、昨夜お母さまの手紙を見つけたこと、そこに父親が違うことが書いてあったため知っていたと話した。

「部屋?」
 ラリーが首を傾げる。

「はい。壁の棚の奥に隠し扉があり、そこに手紙が隠されていました」

「アニスが手紙を……」
 ラリーは、「そうか」と呟くと封書に手を置いた。

「ここからは私も知らなかったことだ。もちろんアニスも」

 封書を読んだラリーが話したのは、『しきたり』に関することだった。


 教会で出生記録を見たお母さまは、偶然会った公爵夫妻に『養子』と書かれていたことを問い詰めた。

 公爵夫妻は『リディア』がローレンスの子供ではないことを知っていたと話し、大事な息子の記録に、他所者の名を残し汚すことはできないと告げた。
 だが、自分の子と信じている息子の為に、自分たちの『養子』とし、マクスウェルの名を与えてやったと話した──と。

 ラリーは項垂れ、首を横に振った。

「両親はリディアが私の娘ではないと知っていたんだ。『しきたり』は両親が作り上げたにせものだ」

 ギュッと拳を握りしめ、ラリーは顔を上げた。
 優しい緑色の瞳の奥に強い光がみえた。

「両親は『リディア』などと女の名を付けるとは思わなかった、と笑っていたそうだ」


 ──それは──

 一瞬、頭の中が真っ白になった。
 公爵夫妻の言う『リディア』は、前世の私、メイドのリディアのことだろうか?

「リディア……」

 ラリーは何かを待つように私を見ている。
 ノエルとセバスチャンは話を理解したのか、青い顔になった。


 ──始末した女の名──

 それが『リディア』というのなら……。

 生まれ変わりを約束したあの夜、前世の私は始末された、殺されたのだ。

 だから、ラリーは生きていた……。
 はじめから、私だけが死ぬように仕向けられていた。

 ──ドクン、ドクンと心臓が音を立てる。


 ラリーの緑色の瞳が、あの夜のように切なく細められた。

「……ラリー……」

 自然に、彼の名前を呼んだ。
 お父さまではない、かつての恋人の愛称を。
 ──愛しい人の名前を──


 ラリーの目が、一瞬大きく開いた。

「ラリー……私は……」

「リディア……」

「ラリー、私は殺されたの?」

 ラリーの目から、つっと涙がこぼれた。

「ごめん、リディア、私が君を好きになったばかりに……ごめん」

 そう言って、ラリーは私を抱きすくめた。
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