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27 雷雨〜ローレンス
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「ラリー、ごめんなさい」
正午過ぎ、視察を終え公爵邸へ戻った私の下へテイラーが駆け寄ってきた。
避ける間もなく抱きつかれる。
「失礼です、離れなさい」
セバスチャンがテイラーの肩を掴み、離れるように告げる。
──が、テイラーは私の服にしがみつき離れない。セバスチャンは諦めて一歩後ろへ下がった。
「テイラー、そうしていてはわからないよ」
優しく言葉をかけると、テイラーはゆっくりと涙に濡れた顔を上げた。
「私の所為なの。私が言ってしまったから」
「…………?」
テイラーは唇を震わせ意味のわからないことを話す。
「でも、間違ったことは言っていないの、それなのにお嬢様は許せないと」
(お嬢様……リディアに何か言ったのか……)
周りにいた使用人たちが足を止め、何事かとこちらを様子見ている。
使用人たちの間では、すでに私とテイラーが親しい仲であると、いずれは彼女を後妻にするのだという話が流れていると聞いている。
テイラーは、それをわかった上で、この場所まで私を出迎え抱きついたのだ。
「──セバスチャン、人払いを」
一言告げると、セバスチャンは手を三度叩いた。
玄関ホールに響いた音を聞いた使用人たちは、足早にその場を立ち去った。
視界から人影が消え、この場に私たち三人だけになった所で、テイラーの肩を掴み体を離した。
「ちゃんと話してくれないか?」
目を合わせると、テイラーは頬にかかった後れ毛を細い指で耳にかけながら、瞬きをして涙を溢して見せた。
「お願いラリー、私を許して」
(許すも何も、まだ何も聞いていない)
「わかったから」
優しく言うとテイラーは目を細めた。
──本当は、こうして近くで顔を見ることも、触れられることも疎ましく感じている。
けれど、その気持ちを抑え私は笑みを浮かべる。
彼女に心を許していると、思わせておかなければならないからだ。
両親と共謀し、私から『リディア』を奪ったという確かな証拠を見つける為に。
その罪を償わせる為に。
「テイラー、私にわかるように話してくれないかな?」
テイラーは瞳を潤ませ、少女のように声を高くした。
「お嬢様から、どうして『ラリー』と呼ぶのかと聞かれたの」
「リディアが……」
(しまった……。口づけをするより先に伝えておかなければならないことだったのに)
リディアが、テイラーとの関係を気にしていた理由の一つは呼び名だったに違いない。
すぐに話を──。
リディアの下へと、はやる気持ちをぐっと抑えた。
今はテイラーの話に耳を傾けなければならない。
「それで?」
できるだけ優しく声をかけると、テイラーは嬉しそうな顔をして話しを続けた。
「ちゃんと言ったの。あなたから許されていると、それから、公爵夫妻から後妻になるように言われていることも」
「……それで……」
「お嬢様は、私が後妻になると聞いて怒ったのか、ミリーメイを連れて出て行ったの」
(出て行った?)
──ドドンッ、とタイミングをはかったように雷鳴が轟き、激しい雨が降り出した。
「それはいつ頃だ」
テイラーへの疑念と動揺から、自然と怒気を含んだ声になった。
「どうしたの、ラリー?」
「二人が邸を出て行った時間を聞いているんだ、わからないのか?」
冷たい目を向けると、テイラーはひどく驚いた表情になった。
「……三時間ほど前よ」
「そうか、ではこれから捜しに出る」
どれほど遠くまで行ったとしても、歩いて三時間程の距離。捜せばすぐに見つかるはずだ。
「セバスチャン、手の空いている使用人すべてに召集をかけろ」
セバスチャンが返事をする前に、テイラーが声を荒げた。
「何を言っているの! この雷雨の中捜しに出るつもり? それに、二人は馬車で出て行ったのよ、そう簡単には捜し出せないわ!」
──馬車……。
両親の事故を思い出し、寒気がした。
もし、同じようにリディアを失ってしまったら、そう思うと冷静ではいられなくなった。
「セバスチャン、すぐにサンダーを、私が先に出る」
サンダーは、公爵家の馬の中でも一番大きな馬であり、私の愛馬だ。
雷鳴の中で生まれた彼は、勇敢で何事にも物怖じすることはない。これまでのこのような天候の中、何度も走ったことがある。
セバスチャンはすぐさま厩舎へと向かった。
「サンダーって、まさかラリー、あなた一人で行くつもりなの?」
「そうだ」
テイラーは目を見開き、首を横に振った。
「ダメよ、危険だわ! それにどうせ今頃馬車は……」
「……どうせ?」
テイラーは、はっと息を呑み、目を逸らした。
この間にも雷は閃光を放ち、土砂降りの雨は降り続いている。
(馬車を引く馬が、雷鳴に慄き暴れていなければいいが……)
「ローレンス様、ご用意が整いました」
厩舎から戻ったセバスチャンは、フード付きのマントを私に手渡した。
「ありがとう、後を頼む」
マントを身につけて、すぐに外に出る。
「ラリー! ダメ!」
テイラーの悲鳴のような叫び声を後ろに聞きながら、私は馬を走らせた。
正午過ぎ、視察を終え公爵邸へ戻った私の下へテイラーが駆け寄ってきた。
避ける間もなく抱きつかれる。
「失礼です、離れなさい」
セバスチャンがテイラーの肩を掴み、離れるように告げる。
──が、テイラーは私の服にしがみつき離れない。セバスチャンは諦めて一歩後ろへ下がった。
「テイラー、そうしていてはわからないよ」
優しく言葉をかけると、テイラーはゆっくりと涙に濡れた顔を上げた。
「私の所為なの。私が言ってしまったから」
「…………?」
テイラーは唇を震わせ意味のわからないことを話す。
「でも、間違ったことは言っていないの、それなのにお嬢様は許せないと」
(お嬢様……リディアに何か言ったのか……)
周りにいた使用人たちが足を止め、何事かとこちらを様子見ている。
使用人たちの間では、すでに私とテイラーが親しい仲であると、いずれは彼女を後妻にするのだという話が流れていると聞いている。
テイラーは、それをわかった上で、この場所まで私を出迎え抱きついたのだ。
「──セバスチャン、人払いを」
一言告げると、セバスチャンは手を三度叩いた。
玄関ホールに響いた音を聞いた使用人たちは、足早にその場を立ち去った。
視界から人影が消え、この場に私たち三人だけになった所で、テイラーの肩を掴み体を離した。
「ちゃんと話してくれないか?」
目を合わせると、テイラーは頬にかかった後れ毛を細い指で耳にかけながら、瞬きをして涙を溢して見せた。
「お願いラリー、私を許して」
(許すも何も、まだ何も聞いていない)
「わかったから」
優しく言うとテイラーは目を細めた。
──本当は、こうして近くで顔を見ることも、触れられることも疎ましく感じている。
けれど、その気持ちを抑え私は笑みを浮かべる。
彼女に心を許していると、思わせておかなければならないからだ。
両親と共謀し、私から『リディア』を奪ったという確かな証拠を見つける為に。
その罪を償わせる為に。
「テイラー、私にわかるように話してくれないかな?」
テイラーは瞳を潤ませ、少女のように声を高くした。
「お嬢様から、どうして『ラリー』と呼ぶのかと聞かれたの」
「リディアが……」
(しまった……。口づけをするより先に伝えておかなければならないことだったのに)
リディアが、テイラーとの関係を気にしていた理由の一つは呼び名だったに違いない。
すぐに話を──。
リディアの下へと、はやる気持ちをぐっと抑えた。
今はテイラーの話に耳を傾けなければならない。
「それで?」
できるだけ優しく声をかけると、テイラーは嬉しそうな顔をして話しを続けた。
「ちゃんと言ったの。あなたから許されていると、それから、公爵夫妻から後妻になるように言われていることも」
「……それで……」
「お嬢様は、私が後妻になると聞いて怒ったのか、ミリーメイを連れて出て行ったの」
(出て行った?)
──ドドンッ、とタイミングをはかったように雷鳴が轟き、激しい雨が降り出した。
「それはいつ頃だ」
テイラーへの疑念と動揺から、自然と怒気を含んだ声になった。
「どうしたの、ラリー?」
「二人が邸を出て行った時間を聞いているんだ、わからないのか?」
冷たい目を向けると、テイラーはひどく驚いた表情になった。
「……三時間ほど前よ」
「そうか、ではこれから捜しに出る」
どれほど遠くまで行ったとしても、歩いて三時間程の距離。捜せばすぐに見つかるはずだ。
「セバスチャン、手の空いている使用人すべてに召集をかけろ」
セバスチャンが返事をする前に、テイラーが声を荒げた。
「何を言っているの! この雷雨の中捜しに出るつもり? それに、二人は馬車で出て行ったのよ、そう簡単には捜し出せないわ!」
──馬車……。
両親の事故を思い出し、寒気がした。
もし、同じようにリディアを失ってしまったら、そう思うと冷静ではいられなくなった。
「セバスチャン、すぐにサンダーを、私が先に出る」
サンダーは、公爵家の馬の中でも一番大きな馬であり、私の愛馬だ。
雷鳴の中で生まれた彼は、勇敢で何事にも物怖じすることはない。これまでのこのような天候の中、何度も走ったことがある。
セバスチャンはすぐさま厩舎へと向かった。
「サンダーって、まさかラリー、あなた一人で行くつもりなの?」
「そうだ」
テイラーは目を見開き、首を横に振った。
「ダメよ、危険だわ! それにどうせ今頃馬車は……」
「……どうせ?」
テイラーは、はっと息を呑み、目を逸らした。
この間にも雷は閃光を放ち、土砂降りの雨は降り続いている。
(馬車を引く馬が、雷鳴に慄き暴れていなければいいが……)
「ローレンス様、ご用意が整いました」
厩舎から戻ったセバスチャンは、フード付きのマントを私に手渡した。
「ありがとう、後を頼む」
マントを身につけて、すぐに外に出る。
「ラリー! ダメ!」
テイラーの悲鳴のような叫び声を後ろに聞きながら、私は馬を走らせた。
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