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本編
第34話 熱情の痕 8
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「本当に、心配頂くような事ではないんです」
「そうなんですか?」
「はい。それに、跳び族に居た頃には、よく木に登っていたんですよ。見つかる度に、叱られましたけど」
何度も叱られていたのだと伝えるのは、過去のことといっても、少しばかり恥ずかしい。アハッ、と照れ笑いをしながら伝えれば、すかさず反応したのは、予想した通りラクーシュだった。
「へぇ~、レフラ様でも、叱られるような事をしていたんですね」
「はい、だいぶ御饌らしくない、と言われてました」
日々レフラの前で、リランに叱られているラクーシュだ。リランにすれば、色々思うところはあるようで、何か言いたげな表情をラクーシュへ向けていた。だけど、レフラの話しを妨げないためか、いまは特に何かを言う様子がない。
「その頃から、木に登るのがお好きだったんですね」
「うーん。好きか、と聞かれたら、いまだに良く分かりません。でも、あの頃は木のてっぺんまで登って、空以外には何もない場所で、よく遠くを見てました」
レフラ以外に何も存在しないその場所だけが、レフラがレフラとして呼吸をできた場所だった。そして、未来を夢見る事さえ許されなかった自分が、見えない地平線の向こうを、何の責任もなく夢想できた場所だった。好きだから、という理由ではなかったけど、そう思えば、木に登る事で心はずっと掬われていた。そんな過去にすこしだけ感情が引きづられれば、言葉にしなかった感傷をなんとなく3人も感じたのだろう。
気が付けば、今度こそハッキリと3人は表情を曇らせていた。
「あっ、でも、違うんです! 本当に今日は、何か落ち込んでるわけじゃないんです! そうじゃなくて、ただ……」
「ただ??」
3人の言葉が同時にシンクロしたのは、それだけ気がかりだからだろう。そんな3人をチラッと見て、レフラは少し気まずげに視線を逸らした。
「ちょっと、そこでいじけてようかと……」
ボソボソと言った言葉だった。だけど、身を乗り出すように聞いていた3人にはしっかり聞こえていたはずなのに、3人の口からは、「えっ?」だの「へっ??」だの「はっ?」といった、間抜けに聞き返すような言葉だけで、その後が続いてこなかった。
「ほら~、だから言いたくなかったんですっ」
顔を赤くして、歩く速度を上げたレフラに、慌てて3人が付いてくる。だけど、その表情や態度から、誤魔化しではなく、本気で言っていると伝わったのか。リランは苦笑を浮かべる中で、ラクーシュなんかは大きな声で笑い出した。
「でも、わざわざ木の上でですか?」
エルフィルも、喉の奥に笑いを閉じ込めながら、楽しそうに聞いてくる。そんな3人の様子に、少しばかりむくれながら、レフラは「だって」と言葉を続けた。
「寝室でいじけてたって、ギガイ様は入ってきてしまうでしょう。それに籠城なんかしたら、それこそ本当に怒られちゃいます」
ギガイの腕の中なら、どれだけ暴れても、それこそ引っ掻いたり噛みついても、ギガイはきっと怒らない。だけど、ギガイ自身を拒絶するような真似は別だった。不快だとハッキリ態度でも言葉でも告げるギガイを思い出せば、試したいなんて思わない。そこで、フッと浮かんだ方法がギガイが登ってこれないような、枝の上だったのだ。
「あの枝なら、ギガイ様でも手は届きませんし、枝の太さとしても登ることも難しいでしょ?」
「そうですね」
「それに、ギガイ様のご様子もハッキリ分かるので、もしお怒りのご様子でしたら、すぐにでも降りられますし……いざとなれば、ただ木に登っていただけって、言えばどうにか─── 」
「なりますか?」
苦笑交じりに、改めて聞かれてしまえば、ギガイ相手に誤魔化せる、なんて言い切れもせず、レフラはウッと言葉に詰まる。
「……やっぱり、止めておいた方が良いでしょうか?」
「うーん、何とも申し上げにくいところです」
「でも、レフラ様はやってみたいんですよね?」
「レフラ様のお心のままに、と思います」
意外にもハッキリと制止をしない3人に、レフラはまた目を瞬かせた。
「ただ、誤魔化すのだけは、止めた方が良いと思います」
確かに今までを思えば、下手な誤魔化しをするよりも、いざとなれば素直に謝ってしまった方が、ギガイは許してくれるだろう。口を揃える3人に、レフラは「分かりました」と頷いた。
「そうなんですか?」
「はい。それに、跳び族に居た頃には、よく木に登っていたんですよ。見つかる度に、叱られましたけど」
何度も叱られていたのだと伝えるのは、過去のことといっても、少しばかり恥ずかしい。アハッ、と照れ笑いをしながら伝えれば、すかさず反応したのは、予想した通りラクーシュだった。
「へぇ~、レフラ様でも、叱られるような事をしていたんですね」
「はい、だいぶ御饌らしくない、と言われてました」
日々レフラの前で、リランに叱られているラクーシュだ。リランにすれば、色々思うところはあるようで、何か言いたげな表情をラクーシュへ向けていた。だけど、レフラの話しを妨げないためか、いまは特に何かを言う様子がない。
「その頃から、木に登るのがお好きだったんですね」
「うーん。好きか、と聞かれたら、いまだに良く分かりません。でも、あの頃は木のてっぺんまで登って、空以外には何もない場所で、よく遠くを見てました」
レフラ以外に何も存在しないその場所だけが、レフラがレフラとして呼吸をできた場所だった。そして、未来を夢見る事さえ許されなかった自分が、見えない地平線の向こうを、何の責任もなく夢想できた場所だった。好きだから、という理由ではなかったけど、そう思えば、木に登る事で心はずっと掬われていた。そんな過去にすこしだけ感情が引きづられれば、言葉にしなかった感傷をなんとなく3人も感じたのだろう。
気が付けば、今度こそハッキリと3人は表情を曇らせていた。
「あっ、でも、違うんです! 本当に今日は、何か落ち込んでるわけじゃないんです! そうじゃなくて、ただ……」
「ただ??」
3人の言葉が同時にシンクロしたのは、それだけ気がかりだからだろう。そんな3人をチラッと見て、レフラは少し気まずげに視線を逸らした。
「ちょっと、そこでいじけてようかと……」
ボソボソと言った言葉だった。だけど、身を乗り出すように聞いていた3人にはしっかり聞こえていたはずなのに、3人の口からは、「えっ?」だの「へっ??」だの「はっ?」といった、間抜けに聞き返すような言葉だけで、その後が続いてこなかった。
「ほら~、だから言いたくなかったんですっ」
顔を赤くして、歩く速度を上げたレフラに、慌てて3人が付いてくる。だけど、その表情や態度から、誤魔化しではなく、本気で言っていると伝わったのか。リランは苦笑を浮かべる中で、ラクーシュなんかは大きな声で笑い出した。
「でも、わざわざ木の上でですか?」
エルフィルも、喉の奥に笑いを閉じ込めながら、楽しそうに聞いてくる。そんな3人の様子に、少しばかりむくれながら、レフラは「だって」と言葉を続けた。
「寝室でいじけてたって、ギガイ様は入ってきてしまうでしょう。それに籠城なんかしたら、それこそ本当に怒られちゃいます」
ギガイの腕の中なら、どれだけ暴れても、それこそ引っ掻いたり噛みついても、ギガイはきっと怒らない。だけど、ギガイ自身を拒絶するような真似は別だった。不快だとハッキリ態度でも言葉でも告げるギガイを思い出せば、試したいなんて思わない。そこで、フッと浮かんだ方法がギガイが登ってこれないような、枝の上だったのだ。
「あの枝なら、ギガイ様でも手は届きませんし、枝の太さとしても登ることも難しいでしょ?」
「そうですね」
「それに、ギガイ様のご様子もハッキリ分かるので、もしお怒りのご様子でしたら、すぐにでも降りられますし……いざとなれば、ただ木に登っていただけって、言えばどうにか─── 」
「なりますか?」
苦笑交じりに、改めて聞かれてしまえば、ギガイ相手に誤魔化せる、なんて言い切れもせず、レフラはウッと言葉に詰まる。
「……やっぱり、止めておいた方が良いでしょうか?」
「うーん、何とも申し上げにくいところです」
「でも、レフラ様はやってみたいんですよね?」
「レフラ様のお心のままに、と思います」
意外にもハッキリと制止をしない3人に、レフラはまた目を瞬かせた。
「ただ、誤魔化すのだけは、止めた方が良いと思います」
確かに今までを思えば、下手な誤魔化しをするよりも、いざとなれば素直に謝ってしまった方が、ギガイは許してくれるだろう。口を揃える3人に、レフラは「分かりました」と頷いた。
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