泡沫のゆりかご 三部 ~獣王の溺愛~

丹砂 (あかさ)

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本編

第46話 知られざる寵妃 5

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 1点の曇りも、憂いもないまま、一途に想いを向けきれるほど、満たされている事が同時に伝わる表情に、女性店員の頬が少し赤くなっていた。

「プロメイナは生涯共に在ることを願って、編み上げますから、できるだけ、お相手への想いが篭もった色が良いと思います」

 そしてフフッと微笑みながら、レフラの背中を押すように、そう言った。

「共に在る……」

 ポツリと呟きながら、レフラはまた手の内の糸を一撫でした。プロメイナの意味を初めてリュクトワスから聞いた時。あの武官の剣帯を飾る組紐から、想いが伝わって、何よりも素晴らしく見えていた。だから、自分もギガイへ想いを込めて贈りたかった。そうずっと共に居たいのだと、そんな想いを伝える物だった。

 女性店員の言葉を切っ掛けに、その時の想いと、今の状況を振り返る。

 ギガイが唯一と望んでくれるように、同じだけレフラもギガイを想っている。だから、ずっと共に居たいという、レフラの想いをいつでも感じて欲しかった。それなのに、共に居たいと伝えるために、離れる事を望まないギガイを説得して、いまレフラとギガイはバラバラだった。

(それじゃあ意味がないのに……)

 今さらそんな事に気が付いてしまう。

「では、黒と銀糸の代わりに、こちらの糸を15束ずつ頂けますか?」
「はい、かしこまりました。他にも何かご覧になりますか?」
「いえ、今は大丈夫です。また次回、よろしくお願いします」

 だからレフラはその提案にも、柔らかな笑みを浮かべて遠慮した。

「かしこまりました。ではご準備してまいります。少々お待ち下さい」

 糸が入った箱を持ち、女性が頭を下げて退出をする。扉がパタンと閉じた後、エルフィルがレフラへ声を掛けた。

「他を見る時間もまだありますが、本当に宜しいのですか?」
「せっかくですから、他の店も覗いてみますか?」

 リランも合わせて提案をしてくれた。だけどそんな2人に、レフラは今度はハッキリ苦笑を浮かべて、首を振る。

「ずっと一緒に居るためのお守りのために、ギガイ様から離れてしまうのは、本末転倒だったといまさら気付いてしまって……だから、ギガイ様の所へ帰ります。すみません、皆様にも色々協力をして頂いたのに」

 自分のワガママで、さんざん振り回している事は申し訳なかった。だけど、今はギガイの元に返りたかった。そんな想いを酌み取ってくれたのか、詫びるレフラに3人は。

「それなら早く戻りましょう」

 そう言って、いつも通り笑ってくれた。

「はい。さっきラクーシュ様から、ギガイ様の方でも、視察が止まってしまうような事が起きたと、伺いました……ギガイ様を私が心配するのも、烏滸がましいんですが……でも、やっぱり会いたいです」

 はっきりと言葉にすれば、ギガイの側を焦がれる気持ちが、いっそう募っていくようだった。それは、不安以上に、恋焦がれるような感覚に近くて。

(いつも私が側にいる事を、望まれる時のギガイ様も、きっとこういう気持ちなんですよね……)

 離れてみて初めて、そんな想いが漠然と浮かぶ。
 ギガイが今回、レフラの願いを優先して、手を離してくれた事実に、心苦しさと喜びが入り混じって、愛おしさが増していく。

(早く会いたい)

 そして黒青色の髪に触れて、キスをしたい。

 ついでのように、スルッと頭を過ったそんな想いに、どこでもレフラにキスをしたがるギガイの気持ちを、思い掛けず理解して、レフラは顔が熱くなるようだった。

 3人がそんな自分をおかしな目で見てないか。慌ててレフラが、黙ったままのリランへ視線をチラッと向けた。だけど、無言のままラクーシュと何かコンタクトを取っていたのか。視線はラクーシュに向いており、当のラクーシュは、気まずげにそっぽを向いていた。

 いったいどうしたのだろう。不思議に思いつつ、窓際のエルフィルへ視線を向ければ、窓枠にもたれ掛かりながら、エルフィルもクツクツと小さく笑っている。

 宮でよく見る3人の様子に、レフラがあれ?と首をかしげる。でも今回は、ラクーシュがいつもリランに咎められる時のような、受け答えも対応もなかったはずだ。

「どうしましたか?」

 レフラが問いかければ、ハッとしたように、リランがレフラへ視線を戻した。そのタイミングでちょうど女性店員が戻ってくる。曖昧に笑うリランとラクーシュが気になりつつも、レフラは差し出された袋を受け取り、手の中の重みにフワッと笑った。
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