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本編
第15 移り香に揺れて 2
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(……どうして?)
なぜギガイの髪や首筋から、こんなに官能的な匂いが漂ってくるのだろう。一瞬そんな疑問が湧き上がる。だけどすぐに思い浮かんだ回答に、レフラの頭へ冷水が浴びせられたようだった。
猫を祖に持つ白族は、珍しく女性を主体とする部族だった。治癒力の高さと雌雄共に、艶麗な容姿を持つ部族だと聞いている。現族長も妙齢の美しい女性だったはずなのだ。
ギガイが抱き寄せたのかは分からない。黒族長のギガイ相手に寵愛を望む者も多いのだから、相手の方から擦り寄った可能性もあるだろう。
どちらにしてもこれだけの香りが身体へ移るほど、近くに誰かの身体があったことが辛かった。
(リュクトワス様やアドフィル様がいたとしても、ギガイ様のなさることには否とは言わないはずですから……)
それはギガイがレフラへ振る舞う行為に対して、一度も口を出さない様子からも分かっていた。
「少し待っていろ」
優しく頭を撫でられて、ギガイがそのまま立ち上がる。その姿を呆然と見送ったレフラがわずかな時間の後、ムクッとソファーの上で身体を起こした。
「レフラ様? どうされましたか?」
「すみません、少し気分が悪くて……。お仕事の邪魔に成らないように、眠っていますね」
胃の辺りから冷たいものが広がっていき、胸が鼓動のままに痛みを訴えている。そんな状態を誤魔化すようにレフラが小さく微笑んだ。
最近ではギガイにはすぐに気付かれてしまう笑顔も、他の人達相手ならまだちゃんと誤魔化しきれるようだった。
「少し顔色も悪いですね、医癒者を呼びますか?」
心配げに声を掛けてくれたリュクトワスへ首を振る。
「いえ、寝ていたらきっと平気だと思います。ありがとうございます」
始めに部屋に連れて来られた時のように、ソファーの下へ身体を滑らせた。そのままラグと数多のクッションに身体を埋めるように横たわる。
「すみません、皆様お忙しい状況なのに……」
「レフラ様が気に病まれることはございません。本日は負担も大きかったかと思います。休まれていて下さい。ギガイ様へもお伝えしておきます」
その言葉に「お願いします」とレフラは微笑んで掛布を頭から被ってしまう。
本当なら泣いてしまいそうな自分が嫌で、1人になってしまいたかった。でもレフラにはギガイの許可なく、ここからどこにも行けないのだ。こうやって掛布の中に潜り込むことだけが、今のレフラが1人になれる唯一の方法だった。
(早く眠ってしまいたい……)
そうすればギガイはそんな自分をそっと寝かしてくれるだろう。心配をかけてしまうかもしれないけど、今はまだ何も話す力が湧いてこないのだ。
レフラは申し訳ない、と思いながらもキュッと唇を噛み締めた。
ギガイの寵愛を疑っているわけではないけれど。
何も持たない自分と比べものにならないほどに、色々なモノを持っているような女性だろう。
そう思ってしまえば、どうしても心が痛んで身体に力が入らなかった。でも。
(大丈夫。私にも何かできること……)
それが見つかれば、きっと普通に笑っていられる。だからこんな気持ちも、きっと今だけのはずなのだ。そんなことを縋るように思いながら、レフラはギュッと目を瞑った。
なぜギガイの髪や首筋から、こんなに官能的な匂いが漂ってくるのだろう。一瞬そんな疑問が湧き上がる。だけどすぐに思い浮かんだ回答に、レフラの頭へ冷水が浴びせられたようだった。
猫を祖に持つ白族は、珍しく女性を主体とする部族だった。治癒力の高さと雌雄共に、艶麗な容姿を持つ部族だと聞いている。現族長も妙齢の美しい女性だったはずなのだ。
ギガイが抱き寄せたのかは分からない。黒族長のギガイ相手に寵愛を望む者も多いのだから、相手の方から擦り寄った可能性もあるだろう。
どちらにしてもこれだけの香りが身体へ移るほど、近くに誰かの身体があったことが辛かった。
(リュクトワス様やアドフィル様がいたとしても、ギガイ様のなさることには否とは言わないはずですから……)
それはギガイがレフラへ振る舞う行為に対して、一度も口を出さない様子からも分かっていた。
「少し待っていろ」
優しく頭を撫でられて、ギガイがそのまま立ち上がる。その姿を呆然と見送ったレフラがわずかな時間の後、ムクッとソファーの上で身体を起こした。
「レフラ様? どうされましたか?」
「すみません、少し気分が悪くて……。お仕事の邪魔に成らないように、眠っていますね」
胃の辺りから冷たいものが広がっていき、胸が鼓動のままに痛みを訴えている。そんな状態を誤魔化すようにレフラが小さく微笑んだ。
最近ではギガイにはすぐに気付かれてしまう笑顔も、他の人達相手ならまだちゃんと誤魔化しきれるようだった。
「少し顔色も悪いですね、医癒者を呼びますか?」
心配げに声を掛けてくれたリュクトワスへ首を振る。
「いえ、寝ていたらきっと平気だと思います。ありがとうございます」
始めに部屋に連れて来られた時のように、ソファーの下へ身体を滑らせた。そのままラグと数多のクッションに身体を埋めるように横たわる。
「すみません、皆様お忙しい状況なのに……」
「レフラ様が気に病まれることはございません。本日は負担も大きかったかと思います。休まれていて下さい。ギガイ様へもお伝えしておきます」
その言葉に「お願いします」とレフラは微笑んで掛布を頭から被ってしまう。
本当なら泣いてしまいそうな自分が嫌で、1人になってしまいたかった。でもレフラにはギガイの許可なく、ここからどこにも行けないのだ。こうやって掛布の中に潜り込むことだけが、今のレフラが1人になれる唯一の方法だった。
(早く眠ってしまいたい……)
そうすればギガイはそんな自分をそっと寝かしてくれるだろう。心配をかけてしまうかもしれないけど、今はまだ何も話す力が湧いてこないのだ。
レフラは申し訳ない、と思いながらもキュッと唇を噛み締めた。
ギガイの寵愛を疑っているわけではないけれど。
何も持たない自分と比べものにならないほどに、色々なモノを持っているような女性だろう。
そう思ってしまえば、どうしても心が痛んで身体に力が入らなかった。でも。
(大丈夫。私にも何かできること……)
それが見つかれば、きっと普通に笑っていられる。だからこんな気持ちも、きっと今だけのはずなのだ。そんなことを縋るように思いながら、レフラはギュッと目を瞑った。
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