32 / 179
本編
第31 移り香を咎めて 10
しおりを挟む
腕の中でしがみ付くようにしていたレフラの身体から震えが徐々に治まっていき、力もゆっくりと抜けていく。さんざん媚薬に煽られて、その後も敏感なまま快感に翻弄された身体は、疲れきったようにギガイの腕の中でぐったりとした。
「汗を流すぞ」
意識がぼんやりとしたレフラからは返事が全くなかった。その身体を抱き上げれば、汗でしっとりと濡れた肌がギガイの肌に吸い付くように密着する。
「水をかけるから、冷たかったら言え」
どこまで聞こえているかは分からなかった。それでもできるだけ驚かせてしまわないように声だけは掛けて、そのままシャワーの水側だけのバルブを開く。
身体で庇いながら直接レフラへ降りかからないようにした水流だった。それでもギガイを伝い触れ合った所から流れ込んだ水温に驚いたのか、レフラの身体がビクッと跳ねた。
「…えっ、なに? …冷たい……??」
まだ少しぼんやりとしたような、戸惑った声が聞こえてくる。火照ったレフラの顔を、ギガイが何度も掌を水に濡らしては拭っていった。
「内に熱がまだ籠もっているだろう。だから水の方が良いかと思ったが、湯に浸かるか?」
地熱で温められた地下水を直接引いて掛け流しの状態なため、常に湯は張られている。だが抱き上げた身体はまだ熱いのだ。そしてギガイが思った通り、冷たいその感触は火照った肌には気持ち良かったようだった。冷たい水で濡れたギガイの掌が顔を拭うなか、見上げるレフラの目は心地良さそうに細められていた。
「冷たくて、気持ちいいです……」
「そうか、もう少しかけるぞ。冷たすぎたらそう言え」
そんなレフラを見つめるギガイの目が柔らかくなる。
手早く全身を水で流して冷えすぎる前にタオルで包み込む。そのまま水気を拭き取った身体を寝台の上に降ろして、何か物言いたげな目を覗き込んだ。
「隣にある服を取ってくるだけだ。少し待っていられるか?」
「……はい」
置いていかれそうな状況に泣き崩れていたレフラの内にはまだ何か引っかかっていることがあるのだろう。頷く声にわずかに逡巡する様子が感じられた。
その様子が引っ掛かり、ギガイがそのまま寝台の端に腰を降ろした。
「ギガイ様?」
取りに行かないのか? そう聞きたいのだろう。不思議そうにレフラがギガイの方を見つめながら小首を傾げている。
「付いて行きたいならそう言ってもいい。お前が素直に強請った時に叶えてやらず、すまなかった」
手を伸ばしてレフラの頬を優しく撫でる。わずかに目を大きくしたレフラがそのまま俯いた。
「……ワガママは……難しい…です……」
掌に手を添えて頬を擦り寄せながらポツリと呟いた。
「…期待しちゃうから、悲しくなります……始めから、ガマンしていた時よりもずっと……」
ギガイの意図はともかくレフラからすればやはり拒否をされたと感じたようだった。
「それでますます落ち込んで、そのせいでギガイ様にもご迷惑をかけて……そんな中で、どうしたら良いか分からないんです……」
その零れ落ちていく音に、さっきのレフラの言葉や姿が甦る。
ギガイは両手でレフラの顔を掬い上げ、真っ直ぐに目を覗き込んだ。
「迷惑などではない。むしろ大切に愛しもうと思いながらも、後になって傷付けた状況に気が付いてしまう。悪かった……」
「……ほ、本当に? こんな風に、お時間を割いてしまったのに……?」
「あぁ。むしろ私の言葉が足りなかったせいだ。不安にさせたな。今後は説明をするよう気をつけよう」
こうやって言葉を紡ぐ慣れなさに加えて、内容さえもこれまでの自分からは考えられないものだから、居たたまれなさが湧き上がる。それでもしっかりと伝えるように、ギガイは1つ1つハッキリとレフラへ告げていた。
「だからまた、あんな風に甘えてくれ」
「……」
ギガイの言葉にレフラの表情がまたクシャと崩れる。
嫁いだ頃には張り詰めるような凛とした空気だけを纏っていた。あの日々のレフラからは考えられないぐらい素直になったその姿に、ギガイの中で愛おしさと傷付けた後悔が湧き上がる。
慣れない状況や言葉に対して感じていた居たたまれなさは、そんなレフラの前ではどうでも良くなるようだった。
「なっ?」
そう言って宥めながら促せば、コクッとレフラが頷き返す。そのまま少し迷うような素振りのあと、おずおずとギガイの方へ両腕が伸びてくる。その腕にギガイはホッと微笑みながら、掬い上げて首へと回させた。
「汗を流すぞ」
意識がぼんやりとしたレフラからは返事が全くなかった。その身体を抱き上げれば、汗でしっとりと濡れた肌がギガイの肌に吸い付くように密着する。
「水をかけるから、冷たかったら言え」
どこまで聞こえているかは分からなかった。それでもできるだけ驚かせてしまわないように声だけは掛けて、そのままシャワーの水側だけのバルブを開く。
身体で庇いながら直接レフラへ降りかからないようにした水流だった。それでもギガイを伝い触れ合った所から流れ込んだ水温に驚いたのか、レフラの身体がビクッと跳ねた。
「…えっ、なに? …冷たい……??」
まだ少しぼんやりとしたような、戸惑った声が聞こえてくる。火照ったレフラの顔を、ギガイが何度も掌を水に濡らしては拭っていった。
「内に熱がまだ籠もっているだろう。だから水の方が良いかと思ったが、湯に浸かるか?」
地熱で温められた地下水を直接引いて掛け流しの状態なため、常に湯は張られている。だが抱き上げた身体はまだ熱いのだ。そしてギガイが思った通り、冷たいその感触は火照った肌には気持ち良かったようだった。冷たい水で濡れたギガイの掌が顔を拭うなか、見上げるレフラの目は心地良さそうに細められていた。
「冷たくて、気持ちいいです……」
「そうか、もう少しかけるぞ。冷たすぎたらそう言え」
そんなレフラを見つめるギガイの目が柔らかくなる。
手早く全身を水で流して冷えすぎる前にタオルで包み込む。そのまま水気を拭き取った身体を寝台の上に降ろして、何か物言いたげな目を覗き込んだ。
「隣にある服を取ってくるだけだ。少し待っていられるか?」
「……はい」
置いていかれそうな状況に泣き崩れていたレフラの内にはまだ何か引っかかっていることがあるのだろう。頷く声にわずかに逡巡する様子が感じられた。
その様子が引っ掛かり、ギガイがそのまま寝台の端に腰を降ろした。
「ギガイ様?」
取りに行かないのか? そう聞きたいのだろう。不思議そうにレフラがギガイの方を見つめながら小首を傾げている。
「付いて行きたいならそう言ってもいい。お前が素直に強請った時に叶えてやらず、すまなかった」
手を伸ばしてレフラの頬を優しく撫でる。わずかに目を大きくしたレフラがそのまま俯いた。
「……ワガママは……難しい…です……」
掌に手を添えて頬を擦り寄せながらポツリと呟いた。
「…期待しちゃうから、悲しくなります……始めから、ガマンしていた時よりもずっと……」
ギガイの意図はともかくレフラからすればやはり拒否をされたと感じたようだった。
「それでますます落ち込んで、そのせいでギガイ様にもご迷惑をかけて……そんな中で、どうしたら良いか分からないんです……」
その零れ落ちていく音に、さっきのレフラの言葉や姿が甦る。
ギガイは両手でレフラの顔を掬い上げ、真っ直ぐに目を覗き込んだ。
「迷惑などではない。むしろ大切に愛しもうと思いながらも、後になって傷付けた状況に気が付いてしまう。悪かった……」
「……ほ、本当に? こんな風に、お時間を割いてしまったのに……?」
「あぁ。むしろ私の言葉が足りなかったせいだ。不安にさせたな。今後は説明をするよう気をつけよう」
こうやって言葉を紡ぐ慣れなさに加えて、内容さえもこれまでの自分からは考えられないものだから、居たたまれなさが湧き上がる。それでもしっかりと伝えるように、ギガイは1つ1つハッキリとレフラへ告げていた。
「だからまた、あんな風に甘えてくれ」
「……」
ギガイの言葉にレフラの表情がまたクシャと崩れる。
嫁いだ頃には張り詰めるような凛とした空気だけを纏っていた。あの日々のレフラからは考えられないぐらい素直になったその姿に、ギガイの中で愛おしさと傷付けた後悔が湧き上がる。
慣れない状況や言葉に対して感じていた居たたまれなさは、そんなレフラの前ではどうでも良くなるようだった。
「なっ?」
そう言って宥めながら促せば、コクッとレフラが頷き返す。そのまま少し迷うような素振りのあと、おずおずとギガイの方へ両腕が伸びてくる。その腕にギガイはホッと微笑みながら、掬い上げて首へと回させた。
23
あなたにおすすめの小説
こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件
表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。
病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。
この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。
しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。
ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。
強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。
これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。
甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。
本編完結しました。
続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください
牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!
ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。
牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。
牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。
そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。
ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー
母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。
そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー
「え?僕のお乳が飲みたいの?」
「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」
「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」
そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー
昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!
「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」
*
総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。
いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><)
誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
世界を救ったあと、勇者は盗賊に逃げられました
芦田オグリ
BL
「ずっと、ずっと好きだった」
魔王討伐の祝宴の夜。
英雄の一人である《盗賊》ヒューは、一人静かに酒を飲んでいた。そこに現れた《勇者》アレックスに秘めた想いを告げられ、抱き締められてしまう。
酔いと熱に流され、彼と一夜を共にしてしまうが、盗賊の自分は勇者に相応しくないと、ヒューはその腕からそっと抜け出し、逃亡を決意した。
その体は魔族の地で浴び続けた《魔瘴》により、静かに蝕まれていた。
一方アレックスは、世界を救った栄誉を捨て、たった一人の大切な人を追い始める。
これは十年の想いを秘めた勇者パーティーの《勇者》と、病を抱えた《盗賊》の、世界を救ったあとの話。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる