泡沫のゆりかご 二部 ~獣王の溺愛~

丹砂 (あかさ)

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本編

第45 抱いた悋気 2

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そのまま跪いて頭を下げながら控えている臣下の前まで歩いていく。

「ルールは前回と同様だ。ただし前と同じようなことがあれば、相応の覚悟はしておけ」

「承知しました!」

跪いたままの2人の前にレフラを降ろして、その背に手を添えながら後方に並ぶ近衛隊へも視線を向ける。一斉に返された返答を確認し、ギガイがレフラの背中を押した。

そのまま数歩足を勧めたレフラが何かを言いたげにギガイの方を振り返る。そんなレフラの目の前で、引率するように立ち上がった2人が「こちらへ」とレフラを手招いた。

2人に従って素直にレフラが歩き出す。だがいつもよりもその歩みが遅いのは、悩んでいる最中だからだろう。そんな様子に眉をわずかにしかめたギガイの前で、ついにレフラの足が止まった。

「あっ、あの……」

ギガイのたった今の言葉がきっかけとなって、不安が膨れあがったのかもしれない。止まったレフラを伺うように、イグールとヴォルフの足も止まる。逡巡するような様子を見せながらも、レフラが2人を見上げていた。

「どうしましたか?」

すぐそばにいたヴォルフがレフラへ言葉を返す。

「始まる時に、すみません……。あの……先日の彼が見当たらないのですが……今日はお休みなんでしょうか?」

突然の質問に驚いたのだろう。目を何度か瞬かせた後、ヴォルフが隣のイグールに目配せをして、イグールがギガイの方を窺い見た。

そんなイグールへ何も反応を返さずに、ギガイがレフラの名前を呼んだ。

「あれは隣の男の管轄だ。目の前のそいつに聞いても分からん。それに、あの者のことはお前が気にする必要はない」

レフラが何を気にしているのかということは、分かってはいたはずだった。それでもレフラからの質問でやはり湧き上がるのは不快感。それでもギガイは感情を抑えて、できるだけ冷たく聞こえない声で諭すように伝えてみる。

「……はい。差し出がましいことをしました」

だけどその答えはレフラを落ち込ませたようだった。一瞬の間が空き、レフラが綺麗にギガイへ頭を下げた。

そんな中でまたチリンと鈴が鳴り響く。
2人のやり取りを固唾を呑んで窺っているのが、周りの空気から伝わってくる。静けさの中でハッキリと聞こえた鈴の音が、切ない残響を感じさせた。

チリン。

そして上げられる頭に合わせて、もう1度レフラの鈴が音を立てた。それは始めの残響を掻き消すような、高く涼やかな音だった。

上げられたレフラの顔が真っ直ぐに、ギガイの方を向いていた。真っ直ぐで静かな眼差しと、かすかな笑顔を張り付けて。身を弁えた聡明そうな表情だった。

「じゃあ、頑張ってきます」

気持ちを上手く切り替えたように、一見すれば見えるだろう。現にそんな落ち着いた表情と声音に、イグールやヴォルフの表情は、どこかホッとしたように見えている。

だけどレフラのその様子に、ギガイは顔を顰めたかった。それを必死に押し止める。そんなギガイを前にして、そのまま踵を返したレフラが、再び2人の方へと歩き出した。

レフラは自分だけの御饌だというのに、どうしてこうも雑念ばかりを持ちすぎるのか。そう苛立ちが燻りながらも仕方がなかった。

「あ~~、待て、レフラ戻ってこい」

遠ざかる背中を前に、頭をクシャッと掻き上げたギガイが呼び止める。一見して落ち着いたように見えるレフラだった。だけどそうやって取り繕われた余所行き用の表情の時ほど、実際はひどく落ち込んでいるのだから。

(このままではケガをしかねない)

そう思いながら呼び戻したレフラは、呼ばれた理由に思い当たっていないのだろう。灰色がかった青い目が不思議そうにギガイの方を見上げていた。

「どうしたんですか?」

その言葉にはいまは答えず、手元に呼び戻したレフラの身体を抱え直す。

これから始まるというタイミングで、どうして腕の中に戻されているのか。目を見開いて、不思議そうにギガイを見ているレフラの前でギガイは「はぁー」っと溜息を吐いた。
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